小説/黄昏時の金平糖。【Ves*lis】#8 アイデア

木暮葉凰 6月2日 木曜日 午後13時40分
          愛知県 夏露中学校 美術室

 話を聞く限り、幼馴染みとのトラブル、のようなものなのかもしれない。
 時間が空き、成長し、相手のことはこの数年間一切分からない。好きだったのか、嫌いだったのか、ましては覚えていないのか。
 どちらにせよ、お互い気になっていることはなんとなく分かる。
 そんなに大切な幼馴染みを簡単に忘れられるわけがない。ただ、さだめに関しては分からないが。
「、、、どうだ?」
「あー、、、。とにかく、想いを伝えられりゃいいんだろ?」
「まぁ、そういうこと」
 そう、とにかく想いを伝えられれば良いのだ。何か方法があれば─。
 その時、目にプリントが映った。
 届けたい人に歌を、届ける。
「ん?葉凰?」
「、、、これだ」
「え?」
「これだ!」
 そう言ってプリントを見せる。
「届けたい人に歌を届ける!な?」
「なるほど、歌で想いを伝えるのか!ナイスアイデア!、、、でも、、、。」
 少し考えている様子のわらべ。
 俺は訊いてみた。
「もしかして、歌苦手?」
「まぁ、な」
 答えの糸口は見えたのに、まさかの歌が苦手。
「でも、そのための練習だろ?どうにかなるって」
「とてつもなく無理だと思うが、、、」
 そういえばわらべは小学生のころから歌が苦手だった気がする。だから、音楽の授業のときはよくサボっていたと聞いた。
「大丈夫。俺がアシストする」
 俺は自信ありげに言った。なんてったって吹奏楽部なのだ。歌は歌えないほどじゃない。
「、、、ほんとか?」
「あぁ。師走に届けんだろ?一緒に頑張るぞ!」
「、、、頑張ろう、葉凰!」

師走わさび 6月2日 木曜日 午後13時50分
          愛知県 夏露中学校 1年10組

「、、、」
 黒板に、字が書かれている。ノートに書きたいが、手が動かない。身体が重い。
 ─お前に言いたいことがあって。
 そんな懐かしい声が、刃物になって私の心に刺さる。フラッシュバックかな、なんて嗤いながら思った。
「おい、わさび」
「あっ、何?」
 愛華葉だった。
「今日は全然挙手しないな。成績落ちるぞ?」
「や、まだこっからだし!」
「ほら、今なら誰も挙げてない。お前に譲るよ」 「じゃ、ありがたくいただきまーす!」
 そう言って手を挙げた。だけど、計算していない。ま、当てられてからでいっか。
 ところで─と別のことを考える。
 何が言いたかったんだろう。久々に話しかけてくれたのに、何もできなかったな。
 私の名前がよばれ、返事をし、椅子から立ち上がった。

最後まで見てくださってありがとうございました!
次回もお楽しみに!
それじゃあ
またね。

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