小説/黄昏時の金平糖。【V*erno 】#13 憶忘逃避

黎明わた 6月3日 金曜日 午前7時20分
              夏露中学校 体育館

「げ、劇はプリンセスシリーズが良いんじゃない?」
「シンデレラとか白雪姫?」
「そうっ!」
「ありかもねぇ」
 そんなことより、さっきのことを思い返していた。
 気まずくて思わず逃げてきたけど、なんか話したかったのかな。
 って思うとなかなか集中できない。
 ─自分が思いきって逃げてきたんだ。自分を困らせることになるのぐらい、わかっていただろう?
 ─分かっていた上で言っているんだ。このくらい、どうってことない。
 自問自答をしていると、「わ、わたちゃん」と声が聞こえた。
「音(おん)ちゃんどした?」
 音ちゃん─小泉音だった。集中していなかったら、無視するところだった。来井に怒られてしまう。
 考えるのはあとでいい。今は劇を考えなければ。
「劇を簡単にまとめれるかなっ?10分くらいにした方が見やすいと思うんだけど、、、ど、どう?」
「お!いいね、任せとけ!」
 これはわくわくしてきた。
 さっきのことはすぐに忘れられた。
 自分は音ちゃんからルーズリーフとシャーペンを受け取った。

黄昏わらべ 6月3日 金曜日 午前7時30分
              夏露中学校 1年4組

「はぁー、、、」
 長いため息をついた。と、目の前に誰かが座る。
「?」
 顔を上げると、ぽんっと手を置かれた。
「わーらべ!朝から元気ないなー?」
「あ、あっきーか!」
 あっきーこと木代彰太郎(きしろ あきたろう)だった。

「お前の前に座るといえば俺しかいないだろー?」
「ははっ、確かになっ!」
 こいつは面白いやつだ。一緒に話すとまるで一瞬で傷を治してしまう白魔法にかかったようだ。
「そういやもうすぐ遠足じゃん!」
「あぁ、そういえばな。たのしみか?」
「そりゃそうに決まってんだろ!」
 いつものようにこうやって話す。いつの間にか、周りは人で埋まってきている。

「おはよ」
 隣の席の女子の白路川光(はくろがわ ひかり)もやってきた。
「おはよ!忍(しのぶ)は?」
 俺は光に訊いた。忍─柊木忍(ひいらぎ しのぶ)はあっきーの隣の席の人だ。
 光はクールに「知らん。一緒に来ないし」と返した。
「だーれが知らないって?」
 そしたら、ちょうどいいところに忍がやってきた。
「あ、忍。来ないの?って言われたから知らんって言っといた」
「うわー、クール、こわー、そりゃわんちゃんたちに嫌われるぞー?」
「嫌われたっていい。てか、わんちゃん呼びやめないの笑?かわいそうに」

 なっ、と俺たちは睨んだ。
 犬がじゃれてるみたいな休憩の過ごし方をするため、わんちゃん、と呼ばれているのだ。
 、、、頭をわしゃわしゃってしてるだけなんだけどな。
「お前笑ってんじゃねーか!かわいそうって思ってねーだろ!」
「そーだよー、お前ら!」
 からかっている目をした二人に言った。しかし、一層笑っている。
「「それだから女の子じゃないって、、、」」
「「なんだって?」」
 いつもの口癖を呟くと、いつもの口癖で返してきた。
「あー、ごめん、ごめんって!」
 普通に楽しい。
 ま、失敗したってまだ作戦はある。
 俺は3人と話すことに集中した。


最後まで読んでいただいてありがとうございました!
次回もお楽しみに!
それじゃあ
またね!

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