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コメンテーター津良野房美#11

「今日のうどん屋はね、讃岐うどんのお店なんだよ」
帰りの地下鉄でポンタは言った。

僕は香川県の善通寺という町の出身なんだ

ポンタは無機質な地下鉄の車窓の黒いコンクリートを見つめている。

「こんもりした山がポコポコとあって遠くに瀬戸内海が見える静かな町なんだよ」

ポンタの風景描写は上手だった。
房美はまだ行った事のない善通寺の町が地下鉄の真っ黒な窓のスクリーンに映し出されるように思えた。

善通寺にはうどん屋が至る所にある。朝六時頃から開いていてお昼過ぎには閉店してしまうらしい。
うどんは打った直後から劣化が始まる。だから今日行った店と同じように自家製麺で打ち立てを食べさせる。
香川の人は讃岐うどんを愛していて毎日のようにうどんを食べるという。

「奥で麺を打っていた人いたでしょ、あの人は善通寺出身の人なんだ。東京で善通寺の美味しいうどんが食べたくて、やっと見つけたお店なんだよ」

二人は地下鉄のつり革に掴まっている。
ポンタより少し背の低い房美は下からポンタを見上げていた。

下から見ると遠近法でポンタの大きなオデコは狭く見えた。
普段は小さく目立たない目鼻口がよく見える。
ぱっちりした目にスッキリした鼻筋、品のある唇。

"気が付かなかったけど、なかなかいい顔してたのね"

房美はポンタの目を見ながら思っていた。


つづく

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