こんなにもまばゆさに満ちた漫画を他に知らない――『ダンス・ダンス・ダンスール』

漫画『ダンス・ダンス・ダンスール』を10巻まで読んで、思ったこと。

なんて、まばゆい漫画なんだろう。

幼いころにバレエと衝撃的に出逢った少年が、様々な事情からバレエと離れて生きていたものの、転校生の少女に声をかけられたことをきっかけにバレエの世界へと身を投じていく物語。
ストーリーの展開も早く、躍動感あふれる絵にひっぱられるように、ぐいぐいと読み進めてしまう。

あらゆるシーンが、とてもまばゆく、まぶしい。

10代のきらめきも、ときめきも、爆ぜるような熱情も。
何かを愛することの、痛みや歯がゆさや切なさも。
爆発的な情熱や圧倒的な才能も。
それらすべてが、 なんでこれが描けるんだろうってレベルで描かれていて、本当に、すごい。

踊りのシーンを読んで揺さぶられる感覚は、まるで舞台作品を観たときと同じ身体感覚。
こころの、おんなじところが震えてる。
これって本当にすごいこと。

訓練された肉体から繰り出される身体表現と、感情の明滅に目が眩んで、心がねじ伏せられてしまう。

そして、圧倒的な才能の持ち主たちとともに描かれる、周りの人たちの描き方も本当に、すばらしくて。

年を重ねていく中で、自分のすべてをかけてでも踊りたいという衝動が薄れてしまった人。
圧倒的な他者との差に、伸び悩む自分の実力に、心をへし折られる人。
がむしゃらな情熱を持つことさえ、はじめからできない自分に悩む人。

それでも皆、バレエが好きだと言うこと。

たとえバレエに愛されない、と感じたとしても。
苦しさも悲しさも
誰かの技量や才能への嫉妬も
痛みも、抱えて。
それでも。
バレエを愛したいと思っていること。

それを、見事に描いているのが、本当にすごい。

なぜ、コレが描けるんだろうって思って――そして、思ったこと。

それはもしかしたら作者が
同じように、漫画を描くことを、自らの選んだ道を、愛しているからなんじゃないかって。

痛くても悲しくても
ときどきひきちぎられるように辛くても。
たしかに、愛しながら進んできた道がある。

だからこそ、描けるのかもしれないと、思った。

たぶん、一緒なんだろうと思った。
なにかを、愛するということは。

たとえばそれが、漫画でも、バレエでも。
絵を描くことでも、文章を描くことでも。
演劇でも。アートでも。職業でも――。

何かに、携わり続けるってことは。
おんなじなのかも、しれない。

ときどき苦しくて辛くても。
それでも。
自らが選んできた道を、愛したいと思うことなんだと、思った。

 
好きなんでしょ?
やめてもまたやるんでしょ?
たまらなく好きなんでしょ?
うだうだ悩んでないでやりなさいよ。
好きだから愛したい、それでいいじゃない。

って、そう言ってくれてる気がして。

(それはもしかしたら、愛する対象から逃れらないことを示す、ものすごく残酷な宣告かもしれないけれど)

悩むことさえも。
あなたはそれを本当に愛してるのね、だからこそ思い悩むのよって肯定してくれる、そんな風に思えて。
すごく優しくて、胸が熱く、なったんだ。

これが読めて、本当に良かった。


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