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小さくワインを飲みながら/エッセー


 ひとりで、たとえば白ワインなんかをなみなみにそそぐ。甘いクラッカーを数枚、重ねたティッシュの上にのせる。左手をキーボードから離し、飲み、食べ、時にはこぼす。口が満たされティッシュのはじで手を拭いたあとは硬くプリントされた文字の上、所定の位置にもどる。
 今回のワインは少しシュワっとするやつだ。段々と、いやあっという間に、左側に置いてある小さな幸せは“もっと欲しい、一番の代表”に成りあがる。悲しいことに「ながら食べ」は評判がよくないけれど、おいしいものを食べたり、飲んだりしながらパソコンに向かうのが、私は好きだ。それらが口に入るたび小さな幸せは確実に意識へ駆け上がり、悩める脳みそを子どものようにぎゅっとつねる。まるで愛する人の横で仕事をするような安心感。ああこの時間がずっと続けば!
 みんなで飲むのも楽しいけれど一人で飲むのも一層、きもちがいい。いつでもそうできるとは限らないけれど、そしていつでもすることは小さな幸せにつながるとは思わないけれど、最近気づいた確かな幸せだ。

 小さな幸せ!それはあの一瞬か、一節から作り上げた”私だけ”の映像?「好きなこと」とはちょっと違う、小さな幸せ。桃色に染まるハートをぐぅっと鷲掴むような感覚で、ツンと刺さった糸のようなキューピットの矢だから、気づくのはなかなか難しい。正直でいないと気づけないのだ。
 私はいま、そのような不思議なものを、細かくことばへと刻み、パラパラになったらこぼれるのも許して両手で包む。そしてまるで結婚式の入場シーンで舞うお花や、おかしなパーティーなんかで散る紙吹雪のごとく思いきり、投げる。そのあと気づくとすぐに、私はその小さな幸せの中に入っているのだ、なんて。これはそんな、なんでもない日々の話で、けれどもとっておきのおいしい、ひとときの話だ。



エッセー:小さくワインを飲みながら
isshi@エッセー

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