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エッセイ | ホコリは見せない

まただ。玄関前にホコリがある。あの部屋はたまにそういうことがある。

自分の部屋を出て鍵を閉め、エレベーターに向かう途中に気付く。他人が住んでいる部屋の玄関前にホコリがたまっているのだ。

「共用廊下にホコリがたまるのは仕方ないこと。それが運悪くこの部屋の前にたまっただけだ」とこの部屋に住んでいる人は考えているのかもしれない。

私は心の中で「それは違うぞ!」と叫んでいた。
それはあなたの部屋から出てきたホコリだ。あなたの生活が生んだホコリだ。部屋から出していいものじゃないぞ。


私が引っ越しを考えた1つの要因としては「掃除ができない」ということがあった。とにかく掃除ができない。部屋にあるものも多く、部屋のキャパシティを超えていた。

掃除を満足にできなくなってきた頃から家にいる時間が減っていった。「減っていった」なんて言うと自分のせいではないように聞こえるが、自ら外へ出ていくようになり、遅くに帰ってきては寝るだけの生活になった。休日でも予定がなければ会社に行って仕事をしていたほどだ。

コロナ禍になり外出の自粛が必要となり始めた頃、私はもう限界に達していた。

掃除をしないからホコリがたまっている。フロア用掃除道具でホコリを絡めとるが、シートはすぐにホコリまみれとなり使い物にならない。

私が普段移動している動線上にホコリはないが、動線を囲うようにホコリが存在する。そして動線の始発と終点にもホコリがたまるのだ。つまり、玄関にはかなりホコリがたまっていた。

私は玄関扉を開けてホコリを外へ出していた。
「他の住人も歩くし、風がふけばどこかに飛んでいくでしょ」そんな風に考えていた。


玄関前にホコリがたまっているのを発見すると「この部屋に住んでいる人は掃除ができない人なんだ」とレッテルを貼ってしまう。それは私がそうだったからだ。

私は愚かだったとその度に実感する。

今はロボット掃除機が定期的に掃除をしてくれるためホコリがたまることなんてない。玄関に多少ホコリがたまり始めても、掃除道具で絡めとってゴミ箱に捨てるだけだ。

掃除が苦手なのであれば、掃除を簡単にできるような空間に作り替えることが大事だ。


私が生活している部屋は、自分で言うのも恥ずかしいがキレイだと思っている。2年間くらいかけてゆっくりと家具をそろえていった。

ロボット掃除機が動き回れるように、家具に脚が付いているのは必須条件だ。色味も同系色にして高さもそろえている。面になって見える部分は極力少ないものを選び、機能が見えるものはなるべく避けた。自分でも厳しい条件をつけて家具を選んでいると思う。

部屋に人を呼ぶことなんてないため、誰かが見るわけでもない。完全に自己満足だ。


「いつもキレイにしていますね」消防用設備の定期点検の際に担当者からそう言われた。考えてみれば、この担当者は私の家に入ってくる唯一の人かもしれない。

「ショールームに来たみたいです」無言がつらいのか、作業をしながらも担当者は笑顔で話している。

お世辞でもそう言われるとうれしいものだった。自分の部屋を誇りに思える日が来るとは考えてもいなかった。



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