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『若狭、お前もか』リアル半沢直樹・サラリーマンサバイバル記 第三話

昨日の半沢直樹、ご覧になりましたか? 『政治や外部の巨大企業が相手になるとちょっとスケールが大きすぎて…』という方。こちらはリアルですよ。

前回までのあらすじ----------------------

いつの間にか手を結んでいた有村部長と梅田次長。有村部長の派閥入りを断った砂男を敵とみなし、砂男を共通の敵とすることで梅田次長は有村部長に忠誠心を見せる。周りもその流れに追随していくのだが・・・

【登場人物】
有村部長・・・梅田次長のライバルだった有村。だが、一歩先に部長の座を手に入れ、次に狙うのは取締役。その前に梅田を手懐けておく必要がある。

梅田次長・・・立場上では有村の下になってしまったが、有村の部長昇進を納得はしていない。有村に対し、未だにライバル心を燃やしている。

若狭課長・・・課のトップ。ここで優秀な成績を残し出世の足掛かりとするつもりだろうが、上の二人に比べれば小者感は否めない。

砂男主任・・・現場のプレイングマネージャー。子供の頃の愛読書は『ブラック・ジャック』。正直さと正義感だけが武器。だが、その分「うまくやる」ことが苦手で上司との衝突もしばしばある。


第三話『若狭、お前もか』---------------------

会社としての業績もよく、支店の数字、また個人的にも成績が悪くなかったその年の、ボーナスの時期が近付いてきた。

『実力主義』と銘打ってはいるが、そんな事はあり得ない。

上にとって人事権と査定権は、下に振りかざし自分の力を誇示する事のできる最大の武器だ。ボーナスはそれを数値で表せる絶好の機会だ。


会社の廊下を歩いていると、向こうから背筋を反り返らせた男が歩いてくる。

有村部長「おお、砂男じゃないか」

砂男「お久しぶりです」

有村部長「お前のボーナスな。半額にしておいたぞ。じゃあな」

有村部長はそのまま立ち去った。彼のやり方はハッキリしている。『俺に逆らうとこうなる』と結果を見せつけるのだ。


ボーナス支給の当日。若狭課長から朝礼で話があった。

若狭課長「みんな、今期はお疲れ様だったな。会社全体としても数字はよかった。喜んでくれ。全員、ボーナスは上がったぞ!」

沸く課のメンバー。だが僕だけは複雑だった。有村部長のあの言葉はなんだったのだろうか。ハッタリだったとは思えない。

その日の午後、若狭課長に個室に呼び出された。

若狭課長「砂男、朝はああ言ったけどな。お前だけはボーナス下がってる。これだ」

砂男「そうですか」

目の前の明細を見ると、そこには前回の半額に近い金額が書かれていた。さすがは有村部長。有言実行だ。

だが、これでは現場の査定権が上に取り上げられているのと同じだ。若狭課長は現場の人間として憤りを感じてはいないのだろうか。

若狭課長「わかるだろ?なんでこうなってるか」

期待しすぎていた。若狭課長はその内容がどうであれ、上から降りてきた指示に盲目的に従うことが自分の当然の仕事だと思っているらしい。

砂男「はい… 」

査定が上の好き嫌いで行われること、そして上がNOと言えばその下の人達は従うことしかできない会社だということがわかった、その意味での『はい』だった。

若狭課長「俺もな、もうお前を守り切れねぇぞ」

それは若狭の『俺も有村、梅田側につくからな』という宣言だった。



数日後、梅田次長から呼び出された。次長室に入ると梅田次長はすぐに切り出した。

梅田次長「砂男、ちょっとおかしな噂を聞いたんだが」

砂男「噂?」

梅田次長「お前の部下で辞めたのがいただろ。田村だったっけ?」

砂男「はい、田村は元僕の部下でしたが」

梅田次長「そいつがA社に転職したと聞いたんだが」

A社はうちのライバル会社だ。田村がうちを辞めた後、A社に転職したことは僕も彼と付き合いのある社員から聞いていた。

だが。梅田次長がそんなことにまで知っているとは。

なぜだ?

梅田次長「もし田村がうちの情報を持ってあっちに行ったとすれば、情報漏洩の可能性もあるぞ。大変なことになる」

砂男「そうですか…」

何を大袈裟に言っているのだろう。こうした転職は業界内ではよくある話で、それほど大きな問題ではない。

梅田次長「お前、知ってたのか?」

砂男「あ、はい。知ってはいました… 」

梅田次長「そうか。それはちょっと問題だな。この件は、俺だけじゃなくて有村部長にも報告しないとな」


なるほどそういうことか。

現実には全く問題は発生していない。情報漏洩も起きてはいない。今後もたぶん問題は起きない。

だが『砂男は田村の転職先を知っていて黙っていた』とし、それを無理やり『砂男が情報漏洩に加担していた』という罪に仕立て上げるつもりだ。



しかし、僕もバカじゃない。

田村の転職先を知った時に、万が一のことを考え、ある人に一応話しておいたのだ。

そいつが『砂男を陥れるためのネタ』として梅田次長にこの話を持って行ったに違いない。

僕は支店に戻るとその人のデスクに駆け寄って言った。


砂男「田村の転職先のことを梅田次長に話したのは、若狭課長、あなたですね?」



つづく

次回予告『左遷


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実話です。
『あいつが嫌い』というボスに、『僕もあいつを嫌い』と近寄り、それだけでなく『いじめるネタ』まで提供する。
するとボスに『よくやった』と褒められる。『あいつを一緒にいじめる』という共同作業に参加することで、所属欲、承認欲が満たされ、そして自分が仲間から弾き出される恐怖から逃れられる。

子供も大人も、学校も会社も、政治もSNSも、この構造が多くみられます。残念ながら変わらない、これが現実なのだろうなとも思っていますが。

まだ続きます!  お楽しみに!


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