『最終回』リアル半沢直樹・サラリーマンサバイバル記 第七話
前回までのあらすじ----------------------
有村部長、梅田次長、若狭課長の三人により、罪をでっちあげられて左遷されそうになった砂男。すんでのところで、半返しを決め、なんとか左遷は免れたのだが。
社内における立場は相変わらず厳しく、通常人事として京都への転勤を命ぜられる。
その夜、仕事が終わり砂男が向かった場所とは・・・
第七話『最終回』---------------------
京都への転勤。それはそれでいい。
すべてのしがらみから逃れ、転勤先でゼロからやりなおせるチャンスでもある。
だが、だとしたら、ここでやっておくことがある。
仕事が終わり、僕が向かったのは・・・
砂男「あのさ、ちょっといい?」
彼女「うん、どした?」
砂男「転勤が決まったんだ。京都」
彼女「京都?いつから?」
砂男「二週間後」
彼女「そっか… 」
砂男「でさ。ついて来る?京都へ」
職場でつらい思いをした時に、唯一の心の拠り所となってくれた彼女。
僕に会社以外の世界を感じさせてくれた人。
彼女「それって… 」
砂男「うん、そう。結婚する?ってこと」
僕のこれからの人生に必要なのは彼女だと、その時の僕にはわかっていた。
僕と同じく、彼女にも迷いはなく、そして判断も早かった。
一ヶ月後、籍を入れた僕たちは京都の小さなアパートに二人で住み始めた。
それから一年半、僕達夫婦には男の子が産まれ、家族は三人になった。
その子が保育園に行くようになり。
息子をまあまあ大きな音がするバイクの後部座席に乗せて行き園長先生に「危ないでしょ!」と怒られたのも今では笑い話だ。
そして小学校に上がり。
息子が初めて将棋で僕に勝った時「やった!パパに勝った!ねぇママ!パパに勝ったよ!」と、とてもうれしそうな顔をしたこと、今でも覚えてる。
中学生になると。
音楽に興味を持ち始めた息子をライブに連れて行った。横で頭を振り乱す父を彼はどう思ったのだろうか。だが『初めて行ったライブはAC/DC』は彼の生涯使える自慢話になったと思う。
高校に入ると。
夏フェスもカウントダウンフェスも、初めての渋谷のライブハウスも、そして東京ドームでのローリングストーンズも、全部一緒に行った。
無事大学に合格し。
最後の僕からの教育、さいたまスーパーアリーナでガンズ&ローゼスを観に行った。
勉強も仕事も教えられい父だったけど、でも一緒にたくさん遊んだな。
僕の人生は最高だ。
戻りたい時なんて、僕には一切ない。
30年前より、20年前より、10年前より、去年より、先月より、
今が一番いい。
でも。
もし、僕が会社でこんなにつらい想いをしていなかったら。
もし、有村部長がいなかったら。
もし、あそこで転勤を命じられなかったら。
僕はあのタイミングで結婚をすることはなかったと思う。
タイミングが一年ズレれば、その先の人生は全く違っていた可能性は大きい。
ひょっとしたら、僕の息子はこの世に存在してなかったかもしれない。
人生においては、理不尽なことはたくさんあり、自分にとって好ましくない人もたくさん現れる。
努力が報われるとは限らない。
正義が勝つとも限らない。
でも、そうしたことが、全て不必要なことだと言い切ることはできないのかもしれない。
この時職場で起きたことは、僕の人生のつらい部分ではあるけれど、
僕の人生のストーリーにはそれも必要だったことなのだと、
今ではちゃんと理解できている。
ちなみに、その後の仕事だが、悪役三人組と離れた僕は普通に仕事に取り組めるようになり、サラリーマンの階段を何段か登ることができた。
だが、転勤を繰り返す中で(京都の後にさらに3回転勤した)自分のやりたいこと、自分の向いていることがわかるようになり、自分の意志で退社した。
京都に行ってから8年後だった。仕事を辞める時にも、妻は一言も反対せず「お疲れ様」とだけ言ってくれた。
今は小さな会社で毎日楽しく、ストレスレスで過ごせている。いろいろあった『おかげで』とまでは言わないが、なんだかんだで自分に合ったいい仕事に巡り合えたと思ってる。
そして今現在は・・・
息子「おはよう。母さん、今日は夕飯いらないから」
妻 「飲み会?」
息子「そう。上司とね」
砂男「そっか。飲み会か。ちゃんと周りを見てて、上司のお酒がなくなったら、すぐに注ぐんだぞ。変な意地張らずに、うまくやれよ」
息子「わかってるって。俺はその辺は上手いから大丈夫。じゃ、行ってきます」
砂男「いってらっしゃい」
完
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主演
砂男
助演
悪人1 有村部長
悪人2 梅田次長
悪人3 若狭課長
特別出演
妻
息子
フィルムの残りはあと35万キロくらいかな。笑
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実話です。が、今回はちょっとかっこよく盛って書いちゃいました。最後なので許してくださいw
途中「恨み節ばかり」などと言われたこともありましたが、登場人物がひどいほど、また想い出が悲惨なほど、その後の幸福が映えるもので、僕も嫌々思い出して書いてましたw
この先、またいろんな出演者が現れるかもしれませんが、僕の人生の主役は僕。これだけは変わりがありません。
あと何年かわかりませんが、もうしばらく主役を楽しませていただこうと思っています。
7週にわたる長い連載でしたが、本家『半沢直樹』より一足早く、これにて完結とさせていただきます。
これまでありがとうございました!
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