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『聴聞会』リアル半沢直樹・サラリーマンサバイバル記 第六話

前回までのあらすじ----------------------

出世のために、嫌いな相手と手を結んだ有村部長、梅田次長、若狭課長。
共通の敵を作ると組織の結束は強くなる。その敵を攻撃すれば組織内での評価が上がると共に、自分が攻撃されなくなるという安心感も得られる。
彼らに敵として目をつけられた砂男は情報漏洩の罪で処分されそうになるのだが…

【登場人物】
有村部長・・・梅田次長のライバルだった有村。だが、一歩先に部長の座を手に入れ、次に狙うのは取締役。その前に梅田を手懐けておく必要がある。

梅田次長・・・立場上では有村の下になってしまったが、有村の部長昇進を納得はしていない。有村に対し、未だにライバル心を燃やしている。

若狭課長・・・課のトップ。ここで優秀な成績を残し出世の足掛かりとするつもりだろうが、上の二人に比べれば小者感は否めない。

砂男主任・・・現場のプレイングマネージャー。子供の頃の愛読書は『ブラック・ジャック』。正直さと正義感だけが武器。だが、その分「うまくやる」ことが苦手で上司との衝突もしばしばある。


第六話『聴聞会』---------------------

聴聞会は会議室で開催される。

会と言っても出席するのは、僕以外の出席者は有村部長、梅田次長、若狭課長の三人。

ありもしない罪をでっち上げて僕を左遷しようとしている張本人たちだ。

若狭課長には宣戦布告はしておいた。今彼はどういう心境なのだろう。何か作戦を考えているはずだが・・・

コンコン 

砂男「失礼します」

有村部長「そこへ座れ」

会議室には僕以外の全員が揃っていた。

梅田次長が口を開く。どうやらこの会の司会らしい。

梅田次長「早速だが、砂男。なぜ呼び出されたのか、わかってるな」

砂男「はい」

梅田次長「お前の元部下の田村がライバル社へ転職した。十分に情報漏洩の可能性が疑われることだ。それをお前は知ってて黙っていた。つまり隠してたわけだ。それは情報漏洩に加担したということになる」

砂男「その点には異議があります」

梅田次長「ほう。聞こうじゃないか」

砂男「まず僕は情報漏洩は起きていないと考えています。そもそもの問題が起きていないのでは、ということです」

梅田次長「推測でしかないな。あっちの会社が何を掴んでいるのか、それは俺達にはわからない。情報漏洩が起きていないとは言い切れない」

砂男「おっしゃる通りです。では、百歩譲って何らかの情報漏洩が起きていると仮定して。僕は黙っていたわけではありません。きちんと報告していました」

梅田次長「報告していた? 誰に?」

砂男「若狭課長にです」

梅田次長「若狭に?おい、若狭、お前聞いてたのか?」

梅田次長も、若狭課長が報告を受けていたことは知らなかったようだ。

僕は若狭課長を文字通りにらみつけた。

さあ、若狭。どう出る?

出方によっては二の矢を放つ覚悟はできている。

若狭課長「はい… 」

梅田次長「はいとはなんだ。ハッキリしろ。田村の転職のことを、お前は砂男から聞いていたのか?」

若狭課長「はい… 聞いてました」

梅田次長「なんだと… 」

若狭課長もここは逃げ切れないと判断したのだろう。

内心、ほっとした。

嘘をつきとおすこともできなけば、うまく根回しをしておくこともできない。やはり若狭課長はやることなすこと、すべてが中途半端であり、小者だ。

梅田次長のシナリオはこれで一気に崩れた。ここで俺に罪を認めさせて、一気に処分まで持っていくつもりだったはずだ。

さあ、どう路線変更をするつもりだ。

少しの沈黙のあと・・・


有村部長「わかった。砂男、もう戻っていい」

さすが有村次長だ。

戦況が不利だと判断すれば即座に撤退を決める。

嫌いな人だが、この洞察力、ジャッジの速さには恐れ入る。

砂男「では。失礼します」


半返しくらいはできた。これが自分ができる事の限界だった。


その後、あの会議室でどんな話が行われたのかは僕は知らない。

だが、僕の左遷はなくなりこれまで通りの仕事に戻ることができた。

もちろん全体のアンチ砂男体制は崩されておらず、評価は低いままだったが。



年を越し、通常人事の時期が近付いてきた。

内線が鳴る。

砂男「はい」

有村部長「俺だ」

砂男「お疲れ様です」

有村部長「砂男、異動だ。京都支店へ行ってくれ。役職は変わらない」

砂男「わかりました」


理由も告げられず、それだけを伝えられた。

左遷ではない。昇進でもない。しかし全く知らない馴染みのない店舗への異動は、誰が見てもいい転勤ではない。

だが、自分でももうここから出たいと思っていた。

もう、ここにいる奴らと一緒に仕事はしたくない。

感覚的にはいじめられっ子がとなりの街の学校に行きたくなるのと同じだと思う。

それだけに、転勤と聞かされた時には、安心感すらおぼえた。



気分はスッキリしていた。

また転勤先でゼロからやりなおせばいい。

そこには僕の仕事をわかってくれる人がいるはずだ。

気持ちを切り替えて、新天地で前だけを向き、仕事をしよう。


しかし。

その前に。

ここでやっておかなければならない事がある。


その夜、会社を出て僕が向かったのは・・・




つづく

次回予告『最終回』


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実話です。さて、来週はようやく最終回です。

砂男が向かった先はどこ? そこで何をするのでしょうか?
最終回ではこの時代から現在まで、一気に時を進ませます。
この後、何がどうなって今につながるのか、 第一話、第二話あたりを読み直しておいていただけると、より楽しめるようになっております。

お楽しみに!

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