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『忘れられない味と道』 〜人生万景〜

「五反田なら、大江戸線から浅草線で移動しますか?」と訊くと、「いや歩き。ここから20分くらいだから」と先輩は答えた。
……20分? と疑問には思ったけど、「まあ話しながらいこうぜ」と数歩先を歩く先輩を追いかける形で僕は六本木ヒルズを出た。

全く車に興味がない、と言っている先輩が、ランボルギーニの横幅について語っていた。

40分くらい歩いたところで「正味な話、あとどれくらいで着きますか?」と訊くと、笑いながら「あと20分」と先輩は答えた。その20分さえも怪しいと思い、「ちょっとそこらへんでトイレ借りてもいいですか?」と言って、そこらへんにあった日本食? のお店でトイレを借りた。まだ開店前のようで仕込みの時間帯だった。大将? みたいな人の怒鳴り声がトイレにまできこえてきた。なんだか早くトイレから出ないといけない気がして焦っていると、右の鼻の穴から鼻血が出てきた。お昼に4時間くらい肉を食べ続けたからかもしれない。シャンパンや赤ワインも呑んでいる。鼻の穴に、細めて丸めたトイレットペーパーを押し込みながら、もう早く家に帰りたいと思った。
外に出ると「おせーよ。もうパンクの曲、3曲も歌ったよ」と言われた。もちろんお店の人ではなく、先輩に。

そこからの「あと20分」という道は、結局60分もかかった。

ラブホテルやワタナベボクシングジムを抜けると、「やっとお前を連れてこれた」と先輩が言った。

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