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サンタクロースの雪

 サンタクロースは毎年クリスマスが近づくと大忙しです。世界中の子供達の希望をかなえることができるように、いろいろな種類のプレゼントを用意しなければならないからです。
「よし、これで準備ができたぞ」
 今年のサンタクロースの用意したプレゼントは十分過ぎるほどで、肩にかつぐ大きな布の袋ははちきれそうでした。
「さて、そろそろ行くとするか」
 クリスマスイブの夜もふけて来た頃、サンタクロースは出発しました。

 サンタクロースは家に近づくと、その家にはどんな子がいるのかすぐわかります。ある家に近づいた時、サンタクロースはつぶやきました。
「この家の子は病気で寝ているな」
 トナカイがひくそりから降りて、重い袋をかつぎながら、その子の枕元に立ってみると、小さな、まだ三つか四つぐらいの女の子が静かな寝息をたてて寝ていました。ベッドの横には、小さな赤い紙でできたブーツが置いてあって、その中にピンク色の封筒が入っていました。そっとあけてみると、これもまたピンクの小さな便せんに、たどたどしい字で、
「サンタさんへ。みかちゃんにげんきをください」 
と書いてありました。サンタクロースはとても困ってしまいました。たくさんプレゼントは持っているけれど、「元気」は持っていなかったからです。しばらく考えて、サンタクロースは、みかちゃんの枕元に大きなうさぎのぬいぐるみを置きました。
 次の年もまた次の年も、サンタクロースはみかちゃんの枕元に大きなぬいぐるみを置きました。くまやきりんやりす、そのほかいっぱい置きました。でも、いつも「元気」だけは置くことができませんでした。サンタクロースは悩みました。どうしたらみかちゃんに「元気」をあげることができるのだろうか。

 さらに次の年、サンタクロースはみかちゃんの家に行くことがとてもゆううつになってしまいました。また今年も「元気」を置くことができないと思ったからです。でも、みかちゃんのかわいい寝顔がとても好きだったので、思い切ってそりに乗りました。
 すべての家にプレゼントを置き、最後にみかちゃんの家に近づいた時、サンタクロースの足は急に止まりました。
「みかちゃんがいない」
 サンタクロースにはわかっていました。みかちゃんが今年のクリスマスまで命を保てなかったことを。そして大好きなみかちゃんの寝顔をもう二度と見ることができないことを。サンタクロースは長い間立っていました。どのくらい時が過ぎたのかわからなくなりそうなくらい立っていました。そしてずっと泣いていました。自分が助けてあげられなかったことを悔やみながら泣き続けていました。

 うっすらとあたりが明るくなって来た時、サンタクロースはくるっと向きを変え、とぼとぼと歩き始めました。そして、そりに乗ると空へ飛び立ちました。けれどもサンタクロースの目からはとめどもなく涙があふれ続けていました。いつしかその涙は大粒の雪になり、大空から地上へ降り続けました。そして、サンタクロースはついに涙に溶けていってしまいました。

 みかちゃんの家では、みかちゃんのお母さんが窓のカーテンをあけて外を見ていました。
「今年は大雪になりそうね。みかにも見せてあげたかったわ。あの子、一年ももたないと言われていたのに、あんなに長く生きていられて、サンタクロースが来るのを毎年楽しみにしていたもの。サンタクロースはあの子に元気をたくさんくれたんだわ」
 雪は降り続けました。その雪がサンタクロースの涙、そしてサンタクロース自身だということは、みかちゃんのお母さんはもちろん知りませんでした。