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「持続可能なまちづくりを龍野城下町で実践」市民出資の不動産会社、緑葉社

武家屋敷や白壁の土蔵など、現在でも江戸時代の面影を色濃く残す龍野城下町(兵庫県たつの市龍野町)。市民出資による不動産会社・緑葉社は、龍野の風土・風習・文化を継承し、さらに活性化させていくため、さまざまな取り組みを行っています。代表の畑本康介さんにこれまでの道のりや今後の展開について、お話を伺ってきました。

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市民出資の不動産会社というまちづくりのありかたとは?

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(畑本さんが立ち上げたNPOひとまちあーとのメンバーを中心に制作した龍野のエリアマップ)

ー 緑葉社は「ムカシとミライをつなぐ、まちづくり会社」として、龍野で持続可能な町づくりを実践されています。龍野はどんな土地なのでしょうか?

龍野は江戸時代に城下町として発展し、その後も素麺・醤油・原皮加工という強い地場産業に支えられてきました。そうした経済的基盤があったため、鉄道開発による駅の設置を拒み、高度経済成長期のスクラップ&ビルド型地域開発からも免れ、観光業に依存することなく、この町並みを維持してきました。

ですが、この20〜30年間でその余力が失われ、状況が変化してきています。新たな移住者も増えつつある。この移行期をどう乗り越えて龍野らしさを守っていくのかが、現在の課題です。

ー 緑葉社の事業を教えてください。

龍野の城下町は横に3キロ、縦が広いところだと800m前後で、扇形の形をしています。この地域にある古民家の管理をしています。オーナーさんの高齢化などで管理・維持が難しくなった建物を引き受け、改装をして、新たな入居者を迎え入れています。

この5〜6年で30店舗の誘致に成功し、管理物件は60軒を超えました。城下町で空き家とされている200軒あまりの物件管理を目標にしています。

ー まちづくりを市民出資による不動産会社が行う、という地域活動のあり方はとても珍しい事例です。どのような経緯でそうした経営形態になったのでしょうか?

創業者の原田研一さんは龍野出身で、龍野の城下町を守っていくため、友人の協力を得て、2006年に緑葉社を立ち上げました。その後、2015年にわたしが代表職を引き継ぎ、出資者・出資金の規模を拡大して、今に至ります。

現在でも代表者はもちろん、経営陣全員の持ち株を合わせても、支配権のある比率には達していません。みんなで龍野の城下町を守っていくために、利益を優先した開発や、経営陣の暴走を抑制するための仕組みだと考えています。

地域活動とNPO経営というバックグラウンドならではの視点

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(龍野の将来のビジョンを語り合う、地域の方々とのワークショップ)

ー 畑本さんはそれ以前から地域活動に携わってこられたのでしょうか?代表職を引き継ぐことになった経緯を教えてください。

はい、地域活動歴は長くて、中学生の頃から(笑)。実は、市民出資による不動産会社を立ち上げてまちづくりをしていこうというのも、元々は仲間たちと一緒にやろうとしていました。そう決めたタイミングですでに実践していた原田さんと緑葉社に出会ったので、かなり運命的でしたね。

話は遡りますが、わたしは隣の市の出身でして、中学時代に地元の和太鼓団体に入りました。地域のあちこちで演奏者として舞台に立つうちに、地域活動に取り組む方々と知り合う機会が増えていきました。

地方は高齢化が進んでいますから、年配の方々がほとんどなんですよね。わたしは臆せず正直に意見を言ったりするものだから、面白がってくれて、段々と年配の方々と若手世代のつなぎ役のような立場になり、地域イベントの企画・運営をしたり、地域活動にまつわるいろいろな頼まれごとをするようになりました。

すっかりのめり込み、大学卒業後もそのままやっていくつもりだったのですが、「これだけじゃ食べていけない」とすぐに壁にぶつかりました。地域活動をされている方は旅館業や飲食業などの商売をやっていて、地域活動自体から収入を得ているわけではないと気づきまして。

じゃあまずは地域の商売を学ばねばと就職して会社員をしつつ、地域活動を続けて、2007年にはNPO法人ひとまちあーとを前代表と共に設立しました。その後、当時は珍しかったリノベした古民家にNPOの拠点を移したところ、「このような店舗でお店を出したい」という出店相談を相次いで受けるようになりました。

この頃、城下町内でも特に貴重な物件があり、保存して活用したいと考えていたのですが、不動産の知識不足が原因で、他の方に購入され、建物が解体されてしまうという、非常に悔しい経験をしました。それまでは出店相談も無償で受けていましたが、このことをきっかけに、きちんとした知識を身につけて不動産会社を立ち上げ、プロとして空き家再生に取り組んでいこうと決意しました。

この方法なら仕事として地域活動をやっていけるし、事業が生み出す利益で持続可能なまちづくりができるんじゃないかと、不動産のまちづくり事業にいきつきました。

市民が主体となるまちづくりを目指したかったので、「市民出資のまちづくり会社」を方針としました。不動産会社設立にはかなり費用がかかることもわかり、地域活動に積極的な方々に出資を募ろうと決め、はじめてお願いに伺った先が原田さんのところでした。

すると、原田さんから不動産免許を持った「株式会社緑葉社」を譲渡したいと逆に提案を受け、代表職を引き継ぐことになりました。

緑葉社は不動産事業を営む自治体のような存在

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(龍野の暮らしを体験できる、城下町古民家ホテルkurasu)

ー 地域活動とNPO経営という畑本さんのバックグラウンドが緑葉社の経営方法にも反映されているのですね。

そうですね。緑葉社は不動産業を営む事業会社ではありますが、一般的な営利法人と異なり、事業の目的は「龍野の暮らしや文化を未来に引き継ぐ」ことにあります。

地域の自治会が不動産免許を持って不動産事業を行っている、という捉え方をしてもらうとわかりやすいかもしれません。

地域活動の多くは、行政からの補助金と無償のボランティア頼みで行われています。でも、その方法だと長期間活動をつづけていくのは難しいんですよね。経済的なゆとりのある年配の方なら可能かもしれないけれど、そうではない若い世代には引き継がれない。

一方、一般的な不動産会社にとって、古民家は扱うメリットは多くありません。手間がかかるわりに利幅が少ない。

でも、緑葉社を不動産事業を営む自治会としてみたら、その事業利益をまちづくりに還元し、かつ従事する人が生活できるだけの収入を生み出すことができます。

ー この5〜6年で誘致したのはどのような店舗なのでしょうか?

飲食店が中心となります。これまでの龍野は地域の方々の暮らしの場でしたが、今後は暮らしと共存できる形での観光業も育てていく必要があります。

ただ、これまで観光業に対してまったくオープンではなかったので、当面は地域の方々にも外から訪れてくださる方々にも利用してもらえる店舗でないと、商売が成り立たないだろうことは明らかでした。

最近ようやく基盤が整ってきたので、雑貨類を扱う店舗を誘致したり、暮らすように宿泊できるホテルの開業をサポートしたりと、と次のフェーズに移りつつありますね。

緑葉社はあくまでまちづくりが本業なので、そうしたディベロッパー的な戦略も必要だと考えています。

ー そうした店舗への入居者はどんな方々なのでしょうか?

近隣から通勤される方もいらっしゃいますが、関西や関東からの移住者も増えています。

瀬戸内海に面している龍野は気候が温暖で台風の直撃もあまりなく、地盤が硬いため地震に強いという地理的な特色があります。有馬温泉にも姫路城にも近いし、空港や高速道路へのアクセスもいい。

仕事を引退された方や小さなお子さんがいらっしゃるご家族が多いですね。ただ誰でもいいからきて欲しいわけではないので、龍野が目指している姿をきちんとご説明して、一緒にまちづくりに取り組んでいただける方に入居していただいています。

ローカルディベロッパーとして地域のためになるまちづくりを目指して

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(地元の大学生、地域の方々と一緒に七夕祭りのための竹林整備をしたときの一枚。後列真ん中が畑本さん)

ー 2015年に代表に就任されてから6年、ふりかえっていかがでしょうか?今後の展開も教えてください。

就任当時は龍野に保守的なところもありましたし、「余所者の若者が不動産業をやる」だなんてざわつきしかなかったと思いますが(笑)、この6年間でさまざまな変化が起きているのを実感しています。

緑葉社の不動産事業だけではなく、持続可能なまちづくりの仕組みをある程度整備できつつあるんじゃないかと考えています。

龍野のブランディングと知ってもらう入り口としてのアートイベント、暮らしを体感できるホテル、風土・風習・文化を継承していくための学校など、ひとまちあーとや地域の人たち、行政と一緒になって、多角的に進めています。

古民家の再生事業を離れたところでも、新築の平家建て住居や日本庭園を備えたシェアビレッジ構想なども計画しています。

今後も、本来の意味での地域整備を進めていけるローカルディベロッパーとして地域のためになるまちづくりを進めていきたいですね。

ー 最後に、社会問題解決のために奮闘しているアジアの社会イノベーターたちにメッセージをお願いします。

面白いローカルディベロッパーの事例だとアジアだと台湾のフージンツリーグループ(富錦樹)、国内だとヤマガタデザインのスイデンテラスなどが浮かびますね。こうした事例からもっと学んでいければと思います。「自分たちの町は自分たちで作る!!」という事をぜひ実践していってください。

<写真提供>  株式会社株式会社緑葉社、特定非営利活動法人 ひと・まち・あーと

◎株式会社緑葉社:ホームページ ・ 特定非営利活動法人 ひと・まち・あーと:ホームページ

著者:森川裕美(もりかわゆみ)。ソウル在住6年。通訳案内士(英語)/ライター。小6の母。本が大好きで、1年で150冊前後読みます。コロナ禍でランニングを始め、ラジオを聴きながら漢江沿いを走っています。
発行:IRO(代表・上前万由子)
後援:ソウル特別市青年庁・2021年青年プロジェクト(후원 : 서울특별시 청년청 '2021년 청년프로젝트)
このインタビューシリーズでは、アジア各地で社会課題解決に取り組む人々の声や生き方をお届けします。以下の記事も合わせてどうぞ!
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