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アジア・ソーシャルインパクト・トリップ#韓国編② 本気のゼロウェイスト・ショップ「アルメン商店」

環境問題に関心が高まるなか、「ゼロウェイスト」や「プラスチックフリー」という言葉は今やかなり浸透しています。ごみを出さず、プラスチックを減らそうという考え方や行動のことですが、これを「買い物」の場で実践しようというのが「ゼロウェイスト・ショップ」。日本でも、バルクショップ(量り売り)やプラスチックでない素材の日用品を扱うお店がかなり増えています。

韓国でもゼロウェイストやプラスチックフリーへの関心が年々高まっています。そこで、いま一番注目されているショップ「アルメン商店」をご紹介します。

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ゼロウェイストの先駆者、「アルメン商店」

ソウル麻浦区の望遠(マンウォン)駅近くに位置する「アルメン商店」は、商店街の2階にある小さなお店です。

20坪足らずの店内の両壁には、いろんな液体の詰まったポンプ式のタンクや、布や麻の製品をはじめ様々なエコグッズが所狭しと並んでいます。私が訪れた平日の午後でも、店内はお客さんでいっぱいでした。

持参した容器に洗剤やシャンプーを詰めてグラムを測っている人、「みつろうラップ」の使い方を聞いている人…。お客さんのほとんどが、20~30代の女性たちです。

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たまたまでしょうか? いいえ。今、ゼロウェイストなどのムーブメントを率いているのは圧倒的にMZ世代(1981-1995年生まれのミレニアル世代と、1996-2000年代生まれのZ世代)だといいます。

「エコロジーという価値を重視して自分の趣向を積極的に示すMZ世代は、ゼロウェイストに全く拒否感がありません」と、アルメン商店共同代表のコ・グムスクさんはインタビューで語っています。(東亜日報、2021.06.12)

最近では、SHINeeのKEYや元T-ARAのソヨンなどセレブリティも訪れて自身のインスタグラムにアップするなど、話題になりました。アルメン商店は、ゼロウェイストに関心のある人々が「一度は行きたいホットな場所」として浮上しています。

地元の伝統市場から改革を!

「コプテギ(殻、パッケージ)は行っちゃえ、アルメンイ(中身)だけおいで!」というキャッチフレーズを掲げるアルメン商店が現在のお店をオープンしたのは去年の6月。

たった1年間で急成長したアルメン商店の活動は、地元の伝統市場である望遠市場に端を発しています。

望遠市場では2018年、売り場で大量に使われる黒いビニール袋の代わりに、寄付で集めたエコバックを「レンタル」できるようにするキャンペーンが繰り広げられました。また、望遠市場のあるカフェの片隅に、洗濯洗剤や食器用洗剤を必要な分だけ自分で持ってきた入れ物に詰め替えて購入できるセルフコーナーが設けられました。

これらの活動は、代表のコさんをはじめ、普段から「ごみをなくしたい」と考え、行動していた人々のゆるい「集まり」から活性化されたもの。特に、洗剤の詰め替え販売は思った以上に好評で、「パッケージなしで中身だけ買いたい人って、けっこういるんだな!」とコさんは実感したそうです。

そして2020年、コさんを含め3人の共同代表が、コロナの影響で長期間テナントが入っていなかった商店街2階の空スペースに、「とりあえず1年」の契約で洗剤などの量り売りのお店を開いた、とのことです。

現在、店舗には洗剤の他に、オーガニック素材の洗顔料や化粧水、乳液などのケア用品から、オリーブオイルや茶葉、コーヒー豆の量り売りもあります。また、ガラスやステンレスのストロー、繰り返し使えるみつろうラップ、竹素材の歯ブラシ、固形シャンプーや固形歯みがき粉など、プラスチックごみを減らすグッズも数多く取り揃えられています。

販売だけでなく、家庭で出る牛乳パックやペットボトルのキャップ、コーヒー豆のかすなどの回収も受け付けています。これらはリサイクルまたはアップサイクル(廃棄物に新たな付加価値をつけて蘇らせること)され、牛乳パックはトイレットペーパーに、コーヒー豆のかすは鉛筆や植木鉢に生まれ変わり、お店の棚に並んでいます。

アルメン商店がこの1年で作った実績は、リサイクルされたごみ2041キログラム、来訪客3万人、そして新しく生まれたゼロウェイストショップ90カ所余り、という驚くべき記録に示されています。

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(左:シャンプー、コンディショナーの量り売り、右:販売しているエコグッズ)

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(左:貸し出し用の空き容器、右:バルサミコ酢の量り売り。小瓶も販売)

骨太のゼロウェイスト・アクション

アルメン商店の特徴は、ちょっとした流行に乗った「おしゃれなエコグッズ販売」ではなく、本気でプラスチックごみをなくそうという「骨太の行動」にある、といえるかもしれません。

今年2月、アルメン商店をはじめ環境団体や市民たちが、「化粧品アタック」という行動を実践しました。約9割がリサイクルできないプラスチック製である化粧品容器ごみを、化粧品メーカーが責任を持つよう要求するアクションでした。

2週間で集めた化粧品容器ごみは8000個、370キロにのぼり、その中で一番多かった大手化粧品メーカーの本社の前に容器ごみの山を積み上げ、アピールしたのです。

多くの人々が何気なく使っている化粧品容器のごみに改めて目を向ける参加型のアクション。これを通して、化粧品メーカーには詰め替えたりリサイクルできるパッケージに替えるよう努力を促し、また行政にはリサイクルできないプラスチックごみを規制する法制度を整えるよう訴えました。

このようなアクションの他にも、アルメン商店ではプラスチックフリー・ゼロウェイスト教育の講座、シャンプーバーづくりなど参加型のワークショップなども活発に行われています。

ソウル駅に「リステーション」をオープン

この7月、アルメン商店の2号店となる「アルメン・リステーション」がソウル駅の駅ビル屋上に新しくオープンしました。

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ここはリサイクルごみの回収が主で、中でも、ペットボトルのプラスチックキャップをアップサイクルする「プラスチック・タルゴナ」の機械が目を引きます。

タルゴナとは鉄板で押し焼きしたカルメ焼きのようなお菓子のことですが、キャップを砕いてタルゴナのようにプレスし、さまざまな製品をつくるというユニークなもの。色分けして集められたキャップが、カラフルなかばんフックや歯みがき粉チューブ絞り器などのアイデア商品として生まれ変わる様子を、直接見ることができます。これは子どもたちにも大人気です。

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(左:「プラスチック・タルゴナ」専用機械、右:ペットボトルのキャップで作られたグッズ)

また、ソウル駅の屋上庭園は、芝生と緑に囲まれたあまり知られていない「穴場」のスポット。ゼロウェイストカフェも併設しているアルメン・リステーションは、ソウル駅の憩いの場所としても人気を集めそうです。

これからますます成長する韓国のゼロウェイスト・ショップの「顔」となったアルメン商店。ソウルを訪れる機会があれば、ぜひ一度立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

◎アルメン商店:HP(ブログ)Instagram

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著者:曺美樹(チョウ・ミス)。東京生まれ。日本で国際交流NGOのスタッフとして活動後、2014年より韓国在住。現在はニュース翻訳、日韓の市民社会活動をつなぐ交流のコーディネートや通訳、平和教育などの活動に携わる傍ら、KBS World Radio 日本語放送「土曜ステーション」のパーソナリティーを担当している。note
発行:IRO(代表・上前万由子)
後援:ソウル特別市青年庁・2021年青年プロジェクト(후원 : 서울특별시 청년청 '2021년 청년프로젝트)
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