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【小説】冷蔵庫のケーキを食べたのはどいつだ!?【2,200字】

冷蔵庫に入れておいた、
ぼくのケーキが食べられた──。

これは、とある小学生探偵(?)の物語。

(0)事件発生

ある日、ママがケーキを買ってきた。
お腹がいっぱいだったぼくは、次の日に食べようと思っていたけれど、夕方、帰ってきて冷蔵庫を開けたら、ぼくのケーキが無くなっていた──。

(1)容疑者1 祖母

ぼくが最初におばあちゃんに話を聞こうと思った理由は、おばあちゃんがいちばん家にいる時間が長いからです。

ぼく「おばあちゃん、冷蔵庫にあったぼくのケーキ食べた?」
おばあちゃん「食べてないよ」
ぼく「今日は何をしていたの?」
おばあちゃん「いつもどおりさ」

そう言っておばあちゃんは、ぼくが学校に行っているあいだにいつもの散歩コースを1時間歩いたことと、暑かったので帰りにスーパーによってアイスを買ったことを教えてくれました。

ぼく「そのアイスはどうしたの?」
おばあちゃん「帰ってきてすぐに食べたよ。ほら、これ」

ゴミ箱のなかには確かに、アイスキャンディーの袋が捨てられていました。
少食なおばあちゃんがアイスとケーキを両方食べた確率は低い──そう判断したぼくは、おばあちゃんを解放しました。

おばあちゃんはうれしそうにソファに戻って、読書をはじめました。

(2)容疑者2 母親

次にあやしいのは、ママです。ママはお昼は3時間、パートに出かけていますが、ぼくより早く帰ってきていました。

ぼく「帰ってきてから何をしていたの?」
ママ「洗濯物をとりこんで、疲れたからコーヒーを入れてテレビを見ていたの。そしたらヨガの先生から電話があったから、少し話したわ。そのあと、急いで夜ご飯のしたくをはじめたのよ」

ぼくは、コーヒーを入れてテレビを見ていた、という証言が気になりました。

ぼく「ママ、コーヒー苦手じゃなかった?」
ママ「最近はよく飲んでいるのよ」
ぼく「どうして?」
ママ「好き嫌いは良くないかと思って。おとなが好き嫌いしていたら、こどもに言えないでしょ」

好き嫌いは好き嫌いでも、コーヒーをわざわざ飲めるようになることに意味はあるのでしょうか。
ピーマンとかニンジンとかの野菜なら、食べないといけないけれど。

ぼく「コーヒーを飲むとき、一緒にデザートは食べた?」
ママ「食べてないよ。パートのあと、ママ友とランチしてきたから、お腹いっぱい」

ママ友とのランチはたまに行っているので、これはきっと本当です。

ママは犯人ではない気がしてきましたが、コーヒー嫌いをなおそうとしているのはナゾです。

ママ「実はね。滝ノ内豊がコーヒー好きってテレビで言っていたから、ママも飲まないわけにいかないでしょ」

ふしぎに思っていると、ママが種明かししてくれました。滝ノ内豊とは、ママが大好きな俳優さんです。

ぼく「なーんだ、そんなことか」

ママはシロです。解放するので、はやく夜ご飯を作ってもらいましょう。

(3)容疑者3 弟

部屋で宿題をしていると、弟のヒカルがサッカー教室から帰ってきました。
弟は今朝、ぼくよりおそく家を出たので、あやしいです。連行して話を聞きます。

ぼく「昨日のケーキ、おいしかった?」
ヒカル「うん、おいしかったよ」

ヒカルは昨日、サッカー教室のあと、帰ってきてすぐに自分の分のケーキを食べていました。

ぼく「何個食べたの?」
ヒカル「一個だよ」

ウソをついているようには思えませんでした。

(4)容疑者4 父親

犯人探しをあきらめて、もう寝ようと布団に入っていたころ、ようやくパパが帰ってきました。
こんなに帰りが遅いだなんて、仕事が忙しかったのでしょうが、遠慮はしません。
お風呂に入ろうとするパパを捕まえて、事情聴取を行います。

ぼく「パパ、ママがケーキ買ってきてくれたの知ってる?」
パパ「もちろん知ってるよ。おいしかったから、昨日も、”今日の朝も”食べちゃったよ」

──犯人はあっさり白状しました。

ぼく「パパ、逮捕!」

かわいそうなので、お風呂には入らせてあげましょう。お風呂から出てきたら、すぐに逮捕です。

(5)事件後

お風呂から出てくるパパの身柄を拘束しようと待っていると、そこにママがやってきました。

ママ「ほら見て、これ。パパが東京駅で買ってきてくれたの」

袋からとりだしたのは、東京バナナです。
しかもミッキーマウスコラボパッケージです。
ぼくが世界でいちばん好きなお菓子と世界でいちばん好きなキャラクターです。
ママが種明かしをしてくれます。

ママ「実はね。今朝、ママが洗濯機を回しているあいだに、パパが知らずにユウキの分のケーキを食べちゃったの。それでユウキには悪いことをしたって、お詫びにこれを買いに行ってくれたのよ」

なんと、パパの帰りが遅くなったのは、仕事ではなく、東京バナナを買いに行っていたからだったのです。
いつのまにか、パパがお風呂から上がってきていました。

パパ「ごめんよ、ユウキ。これで許してくれってわけじゃない。でも本当に、知らなかったんだ」

パパが頭を下げて、あやまっています。
──こういうとき、探偵はどうしたらいいのでしょう。

まだまだ、ぼくには修行が足りないようです。

(6)手記

──こうして、事件は解決しました。

けっきょく、パパの罪は東京バナナによって見逃されました。でも本当は逮捕するべきだったのかどうか、ぼくは、いまだに答えがわかりません。
「探偵は警察ではないから、犯人を逮捕するのではなく、謎を解くだけが仕事だ」──って、いつか読んだ本に書いてあった気がします。だから、正解でしょうか。

ではまた、次なる事件が起こるまで。

《終》

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