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小林のこばなし💭現代に生きる古代の契約の場

1.投票所にいる地元の方々

この感覚を感じる方はほとんどいないと思いますが、選挙の投票に行くといつもそこに「歴史」を感じます。

みなさんも毎回選挙に行っていると思いますので、投票会場のことはよくご存じと思いますが、入場時の受付、投票用紙の受け渡し、これは市区町村の職員の方が担当しています。一方で、投票箱に向かい合って座っていらっしゃる方々がいらっしゃることは記憶にございますでしょうか(投票すると会釈してくださる方もたまにいる)。

また、なぜそこにいらっしゃるか興味を持ったことはないですか?

実際に問い合わせたことはないですが、(私の知っている方もいるので間違いないと思いますが、)投票箱に向かい合って座っている方々は、その地区に長年お住まいで、自治会の役員をされるなどその地域の名士の方です。

おそらく地方自治体より選挙の監視ということで要請があり、交代でそこにいらっしゃることと思います。地元の方々が投票場にいらっしゃるのは、もちろん投票活動に不正がないか監視することも重要かと思いますが、本当にその役割だけなら市区町村の職員さんで良いと思いますよね。

あの方々がいらっしゃる本当の意味は、「投票をその場で見届け保証すること」にあると考えます。

選挙や投票については選挙管理委員会もあり、手続きも法的にしっかり定められており、手続き論としては、何ら投票箱に向かい合って座っている方々がそこにいる意味はないと感じます。それでも、地元の名士の皆さんが現場にいて投票を見届けること、これについては、実は古代にも契約の場でも同じことがあるのですが、よくその地域のことを知る人が同席し、投票活動をしっかりと見ることで、投票行為の正当性が保証されるのではないかと思います。


2.家の測量と古代の契約の場

さて、家を購入した際、両隣の家との境界を確定する際に、測量士の方が現地にいらっしゃり、買主である私とともに「境界標(境界を示すポイント)」を1つずつ確認する作業を行いました。

これは、私に境界はどこかを理解させることにも意味があると思いますが、当事者である私が実際に測量士の方と、境界を一緒に見て、お互いに確認する行為そのものに意味があったのではないかと思います。そうした行為を経ないと、その後、登記簿や公図といった公文書で私の家の両隣の境界が正式に確定しないのではないかと思います。

上記は私が感じていることですが、実際に、古代の不動産売買や土地の所有権を示す証文を作成する際にも同じようなことが行われています。

例えば、古代では、土地の売買をする際、その現地に役人とともに買主・売主も現地に来て、売買する土地の面積・場所(東西南北の4隅の境界)などを相互で確認して同意を得た上で、買主・売主に証書に署名させ、売買契約が成立します。

また、時には、当事者だけではなく、買主・売主双方の血縁者や地元の有力者、古老なども現地にきて、契約の場に同席して実際にその売買を見届けることもあります。

これは、古代の土地売買の慣例として、関係者が一堂に現場に集まり土地売買を行うということがあり、その後文書を活用した行政が始まって、その文書行政の中に、慣例となった民間の売買形態(作法)を取り込んだということが言えます。

こうしたことは、何か問題があった際に、文書に記された関係者に細かい事実確認ができること、また、そうした人物が土地売買に関係していることそのものが土地売買の証文に正当性を与えるものであったともいえます。


前回見た投票箱に向かい合って座っていらっしゃる地元の方々も、上記と同じ意味で、現場で一緒に投票行為を見届け、正当化することが重要な役割だったと言えます。

日本で選挙が始まったころは、住民の管理などが十分でなく、このような古代にまで遡る形で、投票する人が本当にその人なのかを判断できる人々(地元の名士、古老など)が呼ばれ、選挙が円滑に運営できたというような事情もあったと思います。

現在は、住民管理はしっかりとしているため、そのような役割はほぼ期待されていないと思いますが、それでも古代にまで遡る契約の成立の場の名残りとして、現在の選挙の投票場に地元の方がいらっしゃるのだと思います。

何でもないことではありますが、歴史を知っていると、現代の様々な事象において、気づかない意味や関係を見出すことが増え、ひそかな楽しみになります。

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以上、日本古代史の研究を14年経験され、現在はメディア事業部の責任者である「小林さん」の「こばなし」でございました。

歴史に通じた小林さんならではの新連載、ぜひ、次回もお楽しみに……📚

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