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アーティストマネージャー経験で学んだ、ブランドづくりと商品開発で大切なこと

芸能事務所マネージャーと聞くと、スケジュール管理をする人というイメージが強いかと思います。ですが、実はマネージャーというのは事業責任者であり、マーケターでもあるような仕事です。

僕は以前、音楽系芸能事務所アーティストマネージャーをしていました。

その会社は自社のインディーズレーベルで音楽をリリースしていることも多く、また、会社の規模も小さかったため、マネージャーがアーティストという事業の事業責任者やブランドマネージャーのような動きが求められていました。

つまり、アーティストの方向性を定めて、そのためのロードマップとアクションプランを描くという戦略、売れる楽曲をつくる商品開発、楽曲を広めるプロモーション、売上を立てるための営業、損益を管理する財務、全部やる必要がありました。

僕がアーティストマネージャーをしていた期間は1年ほどだったのですが、せっかくの経験なので、アーティストのマーケティングで学んだことを書いておこうと思います。

アーティストマネジメントとは「ブランドづくり」

アーティストマネージャーの一番重要な仕事は、アーティストというブランドをつくっていくことです。新人の場合は、音楽のジャンルによって、どのセグメントの領域を狙っていくのか、ということから考えます。

目指す領域が決まったら、ライブメインか、メディア露出メインか、のようなメインの活動領域を決めていきます。その後、楽曲、クリエイティブのイメージを決めていきます。そこから、ビジョンやゴールを決め、ロードマップ、アクションプランをつくっていきます。

いずれも、アーティスト自身の志向性やパーソナリティ、楽曲のタイプ、いわば持ち味に合うかどうか、ということから考えていきます。アイドルグループなどの場合はもっとゼロベースから考える必要が出てきますね。

<アーティスト=ブランドをつくる上で決めること>
・アーティストの持ち味は?
・音楽ジャンルのどのセグメントを狙うのか?
・活動する領域はどこか?(ライブ・メディア露出)
・目指すゴールはどこか?
・楽曲、クリエイティブの方向性は?
・ゴールに向けたロードマップ
・それを実行するためのアクションプラン

こういった戦略〜実行までの全体図を、前いた事務所ではマスタープランと呼んでいました。

このようにしてつくったブランドコンセプトが、出演するメディアや広告といった外仕事を取捨選択する際の基準となります。

極端な話、ブランドにとって価値があるのであれば、タダ同然でも受けるし、ブランドを毀損するのであれば、どれだけ高額なギャラでも受けない。というような判断を下すことになります。実際に、出演依頼が来たときや、こちらから営業をかけるときも、この基準で行っていました。

おそらくアーティストに限らず、商品開発の現場では、同様のことが行われているのではないかなと思います。

僕自身、こうした経験ができたことは非常に勉強になりました。ブランドを成長させる、ということまで携わることはできなかったのですが、マーケティング4Pのうち商品開発〜プロモーションに携わることができたというのは、大きかったです。

最も重要なのは、ヒットする楽曲をつくること

アーティストがブランドだとすると、楽曲というのはブランドが出す新商品になります。BtoCのマーケティングにおいて、最も重要なのは売れる商品をつくることだと思いますが、アーティストでも同じです。

アーティストがブレイクするきっかけは、昔も今も楽曲のヒットです。SNSが主戦場になった今でも、それは変わりません。そのため、ヒットする楽曲をつくることが何よりも重要です。

ヒットする楽曲をつくる上では、「良い曲をつくること」と「広まる曲をつくること」の2つの視点で考えていました。

まず、「良い曲をつくる」ですが、アーティストが曲をつくる場合は、リファレンスになる楽曲をいくつかアーティスト本人にぶつけたり、編曲を依頼する際に、近年のトレンドのメロディに寄せるような依頼をしたり、ということを行っていました。

「広まる曲をつくる」については、TikTokで使われやすい曲の構成やテンポにしたり、配信で聴かれやすいようにサビからはじめたり、タイアップであればタイアップ先の作品ファンが食いつく要素を入れたり、話題になる座組や仕掛けを入れる、などを行っていました。

プロモーションを見据えて楽曲をつくっていく、ということが必要になります。

このあたりを完璧にやってのけたのが、最近だとYOASOBIの『アイドル』だと思います。

この仕事は実際にはA&Rという領域になり、メジャーデビューしていればレコード会社の社員が担当します。僕の場合、自社レーベルでリリースしているアーティストを担当していたため、ここまで携わることができていました。

A&Rは音楽におけるクリエイティブディレクションにあたる仕事なので、ここはかなり専門的な領域で苦戦していました。

プロモーションの成否は、楽曲制作の時点で決まっている

楽曲が完成すればどうプロモーションするかを考えますが、僕の担当していたアーティストはインディーズでしたので、プロモーション費用があまり出せませんでした。

そのため、できることといえば、PRでメディアに掲出してもらうかSNSで話題にしてもらうかの2つでした。

どちらを行う上でも正直、前述した「広まる曲」を事前につくれているかどうかではじめから決まってきます。曲自体に広まる要素がなければ、広めるためのプロモーションコンセプトを決めようにも、どうしても弱いものになってしまいます。

曲に広まる要素をつくっていれば、どのメディアに出すかも自ずと決まってきますし、SNSでも狙った広まるポイントを押し出した発信をしていけばいいわけですね。

さらに、資金力があれば、SNS広告を回したりして、無理やり再生数を伸ばしたり、メディア出稿をして認知を広げたりはできます。

SNSでいうと、インディーズであるほど、TikTokで曲が使われる状態を目指した方がいいかと思います。音楽というのはユースカルチャーですし、10代〜20代に聴かれている曲ということは、ブランドの成長にもつながってきます。

いま広告代理店で働いていて思うのは、4Pのうちのプロモーションしかできないというのはやはり弱い、ということですね。結局、売れるかどうかは、商品に売れる要素をいかに入れることができたかで決まってくることを、アーティストマネージャーの仕事で学びました。

もちろん、既にブランドが確立された企業が出す商品は別ですが、無名企業が新商品を出すという場合は、こうした考え方になってくるだろうなと感じています。

アーティストは人間。マーケティングだけではうまくいかない

アーティストマネージャーという仕事が、事業運営やブランドづくりと同じということを書いてきましたが、ひとつだけ違う部分があります。

それは、アーティストはひとりの人間ということです。

当たり前じゃない……?と思いますが、実はこれが一番この仕事の難しい部分だと僕は思います。

アーティストとの信頼関係を築き、やりたいことはもちろん尊重しつつ、ときには意見を言ったり、ときにはモチベーションを維持できるようなことをしたり、ときには本人のメンタルをケアしたり、そういったことが必要になってきます。

マーケターとして、ビジネスライクなブランドマネジメントを行うだけではどうにもならない、感情のマネジメントが必要になってくるわけですね。

はっきり言って僕はこれが苦手でしたし、向いてなかったと思います。おそらく大手レコード会社であれば、現場マネージャーとA&Rはわかれているので、ここが分業されているかと思うのですが、それでも感情的な側面はある程度必要になってくるかと思います。

もちろん、これがアーティストという才能を扱う仕事の面白さでもあると思います。


アーティストマネージャーの経験の中で、マーケティングに活かそうな経験をつらつらと書いてきました。具体的な名前や事例が出せないので、抽象的になってしまった感は否めませんが、何か参考になる部分があれば嬉しいです。

僕としてもこうして書いてみると、マーケティングの中でも商品開発と事業運営ってやっぱり良いな、と思えてきました。今の業界なのか、ほかの業界なのかわかりませんが、この経験が活かせるように、もう一度チャレンジでできたらなーと思っています。

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