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朝井リョウ 『スター』を読んで

この作品は、モノを作る側の視点で描かれていて、普段そのモノたちを受け取っていて、かつ制作側に興味がある私にとって、”そっち”側の世界をのぞけるのはすごくおもしろかった。

でも、完全に自分と反対側の世界についての物語ではなく、一消費者として、現代社会を生きる者として、共感できるところがたくさんあった。

自分がやらない、できないと決めたことを他の人がやって、それを成功させている姿を見て、「ここがだめ」「あれは間違っている」と、自分の価値観で測って、どうにか相手を認めようとしない主人公である尚吾の姿に自分を重ねてしまった。

今までは、王道、正統派、と呼ばれていたモノたちが、情報化、グローバル化などと言われる時代の流れで「古い」「時代にそぐわない」と言われてしまう時代。

でも、今まで自分がこれが正しいと信じてきたモノが、絶えず新しく生み出されるモノに飲み込まれてしまうと、それを認めたくない、とまず思ってしまう。

登場人物たちは、それぞれの環境でそれに悩みながらいろんな人と出会い、自分の生き方、自分の作りたいモノをどうやって作っていくかを模索していく。

読んでいる途中、主人公たちが壁にぶつかったときに人からかけられる言葉が自分に刺さる場面が何度もあったけど、つらいとか苦しいとは思わなかった。
むしろ、いやそうなんだよな、まさにその通りなんだよな、と自分を言葉で表現してくれて、分析してくれてすっきりしたような気がした。

そして物語の終盤、尚吾は彼の恋人である千紗にかけられた言葉を受け止めて、答えのない問いに自分の答えを導き出す。

この尚吾たちが最終的にたどり着いた答えが本当に素敵すぎて、この本をよんでよかったなと心から思った。

そして、その答えにたどりつくまでに尚吾たちはたくさんの人に出会って、ヒントを得ていた。
その中には、日々の中でたまたま出会った人もいたが、尚吾や千紗はそれぞれが信じて尊敬する人の下へ自分から飛び込んでいった。

人との出会いが人生を左右する、とよく言うけど、それは本当だと思う。実際に自分もそう思える出会いがいくつもある。

ただ、それは何か運命や運の話だと、自分では変えられないものだと思い込んでいた節がある。

でも、この本を読んで、「出会い」は能動的に作りだすこともでき、それをやるかやらないかで自分の人生を大きく変えることができるのではないかと思った。

私は、将来やりたいことも、明確なビジョンも今のところない。かといって、それらを見つけるために動いたりもしていない。
自分の人生を決定づけてくれる、いつか訪れる「出会い」をただただ待っているだけだからだ。

いつか訪れる「出会い」を待ち続けるのではなく、自分からそのチャンスを作り出そう。
これからを生きるエネルギーを、『スター』の中の主人公たちからもらった。






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