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教育機関の「遅いデジタル化」と冴えた異人の育て方。~VR・AI・サブスクリプションを活用した未来型教育を考える~

井ノです。

都立学校の休校はGW明けまで続くようです。平時であれば、長い夏休み感覚かもしれませんが、外には遊べる場所も、学べる場所もありません。

日本の未来を担う学生たちの成長が阻害されてしまう状況は、早急に改善する必要があると思っていて、何かできないだろうかと思考を巡らせています。

アメリカの学校では、全面休校を避けるために3月後半からオンライン授業が本格化しています。

その一方で、日本の学校におけるオンライン授業は、ごく一部でしか実施されていない状況です。

今回は、この教育機関における「遅いデジタル化」の要因を整理しながら、未来型教育のあるべき姿について考察していきます。

実現するための仕組みとしては、オンライン授業、VRやAI技術の活用、そしてサブスクリプション型の学費形式、この3つの要素が重要になると考えています。なので、その観点で話しができればと思います。

そして、これからの日本の未来を担う若者たち、とりわけイノベーションを起こせる人材としての「異人」を育てる戦略についても考えていきます。

日本でオンライン授業が普及しない理由

調査の結果、原因は大きく分けて二つあるようです。

1つ目の理由は、国主導による環境要因です。まず、公立学校は国から与えられた少ない予算を上手くやりくりして運営されています。

そのため、状況に合わせて策を打つような柔軟な裁量は、ほとんどありません。

更に、国の学習指導要領に従って、教育現場に情報機器が導入されたとしても、指導する立場となる教員向けの学習は現場任せです。

そもそも、情報機器の台数が足りていないという問題もあります。

近年では、2020年には教育用コンピュータの導入を生徒1人あたり1台にするという目標を掲げられていましたが、実現不可能ということがわかり断念したようです。

その結果、2017年3月時点で、生徒5~6人あたり1台という状況になっており、昨今でも改善された様子は見受けられません。

アメリカやオーストラリアの教育現場を見てみても、コンピュータ導入状況は、既に生徒1~2人あたり1台を実現しており、日本の「遅いデジタル化」が際立っているのがわかると思います。

更に問題点はあり、コンピュータを利用するために必要となるインターネット環境が、各都道府県の厳重な管理下にあるということです。

これにより、各都道府県が定める強固なセキュリティ制限が、実際の教育現場で必要となるソフトウェアやツールの導入は阻まれてしまうため、デジタル化しようにも推進することができないのです。

このように、少ない予算、指導者向け教育の欠如、教育用デバイス数の不足、強固過ぎるセキュリティといった環境要因が、教育現場のデジタル化を妨げているのです。

続いて2つ目の理由は、日本人のITリテラシーの低さです。これについても、諸外国と比べて非常に低いというデータがあります。

いくらデジタル化を推進しようにも教員だけでなく、生徒や保護者の理解が無ければ始まりません。

まず、昭和のやり方に執着するミドル層教員、いわゆる「ジャマおじ」が現場における決定権限を持っています。

ITやテクノロジーに馴染みある若い教員がいたとしても、未だに昔ながらのプリントや黒板での授業を強いられています。

この風潮は地方に行けば行くほど顕著であり、村社会のような仕組みは数十年前から変わっていません。

結果として、教員も生徒も普段の授業において、ITやテクノロジーに触れる機会がほとんどないのです。

また、生徒の親の世代についても同様で、日常生活においてITやテクノロジーを理解する機会が少ないということも関係しているでしょう。

具体例としては、教員と保護者間のコミュニケーションは、未だに電話ベースの連絡網や集会形式で行われています。

保護者用のLINEグループを作っている所もありますが、世間の声を聞いている限り、まだまだ少数派に思います。

日本の教育現場における「遅いデジタル化」を解決するためには、国主導による環境要因とITリテラシーの低さ、この両者を解決しなくてはなりません。

オンライン授業には「国や自治体、企業の補助が必要」という考え方もあります。

その一方で、国やミドル層主導のトップダウン方式では遅すぎるという危機意識を持って、自律型の教育機関主導で変革を起こしていく必要性があると考えています。

同時に、オンラインでもリアルな授業と同じレベルの学習成果を実現しながら、生徒のモチベーション管理する方法を、最新技術に対して模索していく柔軟な姿勢が求められます。

日本の残念な高等教育の実態

そもそもの日本の高等教育の質は、デジタル化が推進されている諸外国と比較しても非常に低い状況です。

その中でも、とりわけ大学教育の改革の必要性を唱える声が多く見受けられます。

安宅和人さんの著書『シン・ニホン』でも言及されていたように、日本ではプレゼンテーション能力や論理思考力などグローバル人材向けの教育がほとんど行われておりません。

中でも、「データ×AI」を活用できる人材(データサイエンティスト)は、圧倒的に足りていません。

アメリカの状況を見てみると、既に国を挙げたデータサイエンティスト養成のためのカリキュラムが運用されており、企業との共同プロジェクトやインターンシップといった実践の場が整えられています。

その一方で、日本における動向を見てみると、文科省は2016年に数理・データサイエンス教育を先導する6つの拠点大学(北海道大学、東京大学、滋賀大学、京都大学、大阪大学、九州大学)を指定しています。

その後、2019年秋にカリキュラムの全国展開の足掛かりとして、全国で20の協力校を選定して環境整備を進めている状況です。

日本における新しい教育方針の展開方式としては、サンプリングされた学校に導入した結果を年単位で吟味しながら、段階的に全国反映されていくため、多大な時間がかかってしまうのです。

更に、大学教育の実態を確かめるために「JRIレビュー」を見てみます。

大学の進学率は都道府県別や男女別で見ると未だに格差が開いています。

現実問題として、大学に進学するにふさわしい能力と意欲があったとしても、大学の収容力や保護者の経済力が足かせになっています。

続いて、卒業後の状況としては、就職率は好調に推移しているものの、OECD調査による職業レベルの国際比較を見ると、日本の大卒者の中で大卒レベルにふさわしい職業に就けているのは全体の58.4%です

これは、国際比較における最低の数値を叩き出しています。

この事実が意味する所としては、日本の大学や大学院教育は、社会で雇用されるためのスキルを身に着ける場としてほとんど機能していないという実態があります。

奨学金という形で高額な借金をしてまで、無理して大学に入ったところで、社会人として雇用されるためのスキルは身に付かず、それどころが大卒者の4割以上が学歴に見合わない給料の低い職業に就いているのです。

この背景として、経済や社会情勢変化に対する視座の欠如もありますが、何より就活における学歴フィルタと大学受験時の偏差値フィルタの蔓延によって、教育機関全体の機能が低下していることが挙げられます。

そもそもの日本の大学教育が、グローバル人材の育成や社会人スキル形成にほとんど貢献していないという事実を認識した上で、具体的にどのような改善策を打てば良いのか検討して行く必要があります。

着眼点は悪くなかった『N高等学校』

皆さんは『N高等学校』を知っていますでしょうか。学校法人角川ドワンゴ学園が設置し、2016年4月1日に開校した通信制の高校です。

開校当初から、その未来的な奇抜さ故に、賛否両輪の声が多いようですが、着実に入学者を増やしています。

中でも、ネット中心の授業や社会で役立つスキル習得に力を入れており、「遅いデジタル化」を解決するための糸口に繋がるような雰囲気を感じます。

同校は、ネットを通じた通信制の高校。授業やレポート提出をネット上でやり、プログラミングやライトノベル、ゲームなどの課外授業や全国各地での職業体験で、社会で役立つスキルをプロの指導のもと身に付けられるのが特徴。

例えば、生徒間のコミュニケーションにおいても、IT企業でよく使われているビジネスチャットツール『Slack』が利用されているというのは、画期的だと感じました。

確かにネットやITテクノロジー利用の観点で言えば、とても良質な教育環境に思えますが、その実態はどうなのでしょうか。

同校は、東大など有名大学合格者も輩出しているようですが、そういう生徒はもともと学習環境や同調圧力に左右されずに、自分を貫いて努力できるような「異人」だったのではないかと思えます。

何故なら、生徒の生の声を調査してみると、真面目にプログラミングの勉強をしたり、クリエイターとしての才能を磨くことができる人は、やはり少数派だということがわかったからです。

大抵の生徒は楽しそうな雰囲気に流されて、遊んでしまうというのは感覚的にも理解できると思います。

人の意志力というのは非常に弱いため、習慣化やメタ認知などのテクニックを活用しなければ目標達成は困難です。

ましてや思春期の学生であれば、目の前の楽しそうな雰囲気や、周りも遊んでいるという同調圧力に流されてしまうでしょう。

従って、どんなに教育の質が良かったとしても、生徒本人や所属する集団における向上心や学習意欲が育まれていなければ、水の泡になってしまいます。

あとは、トップが経営者の場合、どうしても生徒の成長よりもビジネス側面が優先されてしまうため、これも対策を練る必要があります。

例えば、声優になりたい人が専門学校に行く場合は、年100万近くの学費が必要になります。

卒業したところですぐ声優になれる訳でもなく、また学費を払って声優養成所に行くケースもあります。

声優養成所を経て、努力の末に声優事務所に合格になったとしても、プロとして食べていける割合は1割未満と言われており、大抵の人はアルバイトをしながら生活費を稼ぐような日々を送ります。

これは声優に限った話ではなく、クリエイター系の専門学校の多くは、生徒に夢を見させて高い学費を徴収しておきながら、実際にプロになれるのは1割の優秀な生徒だけというのが実態だと思っています。

そんな生徒に対して平等なチャンスがない教育は、やはり単なるビジネスであるとしか思えません。

日本の未来を担う若者たちが、才能を育みながら社会人スキルを習得するためには、生徒と集団の向上心や学習意欲をマネジメントすることが大切です。

そして、彼らの成長を本当に願うのであれば、「お金稼ぎ」とは分離した自律型の教育機関が求められているのではないかと感じています。

SNSに精神支配される若者たち

どうすれば若者の向上心や学習意欲を促進することができるでしょうか。

これを実現するためには、同調圧力の温床たる、SNSやインターネットによる精神支配を解決しなければなりません。

この件については宇野さんの『遅いインターネット』でも語られています。

いまのインターネットは、特にこの国のTwitterを中心としたインターネットは、閉じた相互評価のネットワークになってしまっている。誰もがそこでの大喜利でポイントを稼ぐことしか考えられなくなっている。

そうすると、潮目を読んで乗っかったり、逆張りしたりして評価経済的にポイントを稼ぐことしか考えられなくなって
どんどん「問題そのもの」ではなく「問題を語ることで誰が株を上げたか」のほうに中心が移動していく。

僕はこれが社会をダメにしていると思う。

現代の若者は、SNSやインターネットを「考える」ことから逃げて安心するための装置としか使えていません。

他人依存に陥っている自分に気付かないまま、目先の「楽しい」を追いかけ続けることが、彼らの考える自由なのです。

私が考える「自由」は、選択肢がたくさんあって、かつ好きな選択肢を選べる状態のことだと思っています。

インターネット上の企業アルゴリズムによって意思決定した気分になり、SNSの同調圧力によって周りと「おなじ」ことに安心して流され続ける今の若者たちは、本当に「自由」だと言えるのでしょうか。

このような状況の要因としては、『ゆとり教育』によって余暇時間が増えているのにも関わらず、やはり個性を認めない均質的な昭和的教育が続いているということが挙げられます。

若者たちは、自分で物事を考え、正しく行動を選択していくためのリテラシーを学ぶ機会を失っているのです。

その実、彼らはTwitter上の大喜利で「いいね」稼ぎに勤しみ、著名人のコメントや作品をコピペして評論家やクリエイターを気取り、インスタ映えを求めて街中を彷徨い歩き、流行と聞けばタピオカの行列に長時間並び続けるのです。

この事態を解決するためには、若者たちに正しくリテラシーを学ぶ機会を与えながら、それぞれの個性を伸ばすような教育を実施していく必要があるのです。

『学び方改革』や『副学解禁』という活路

仕事における働き方改革や副業解禁のような流れが、教育機関においても必要でしょう。

しかし、柔軟性の無い国主導では多大な時間がかかってしまうし、ビジネス寄りの専門学校では生徒の成長や卒業後のチャンスが軽視されてしまいます。

生徒の成長を一番に考えるような自律型の教育機関において、ITやテクノロジーの力を生かしながら、向上心や学習意欲をマネジメントしていくには、どうすれば良いのでしょうか。

いくつか案を挙げてみます。

・ハーバード大学式の授業を導入する:正解ではなく、他人と違うアイディアを評価する。
正解が決まっている問題というのは、結局知っているかどうかでしかなく、考える必要がありません。

ハーバード大学の授業では、他の人と同じ意見を言っても何も価値を生み出せていないと理由で評価されません。そのため、一番早く発言することや、他の人と違うアイディアを考えて論理的に説明する力が必要になるのです。

このような授業は、論理的思考力やプレゼン力を高めることに貢献するという実績があります。

・オンライン避難所をつくり、異人を凡人の同調圧力から守る。
クラスにいる「異人」というのは、少数派かつ独自の感性を持っているので、他のクラスメイト達の同調圧力に負けないように、彼らの才能が保護してあげる必要があります。

経験的に「異人」として活躍できるタイプの生徒には、「努力型の高二病」と「天才肌の中二病」がいると思っています。

「努力型の高二病」とは、ガリ勉タイプです。「精神的に向上心のない奴は馬鹿だ」というような考えを持って、周りに流されずに黙々と勉強しているような、ちょっと大人びた生徒です。

「天才肌の中二病」とは、変わりものタイプです。勉強はそこまでできないけど、美術や音楽と言った特定の分野において、他を圧倒するような才能を発揮するクリエイター気質の生徒です。

彼らが大多数の凡人による同調圧力によって潰されないために、オンライン避難所を用意してあげるべきです。

そこで、「異人」同士の活発なコミュニケーションが行われることで、イノベーションを起こせる「異人」に成長させることができるのではないかと考えています。

VR技術とAIクラスメイトの同調圧力を活用する。
VRの教育利用は本格導入が始まっています。先日、アメリカのテンプル大学においても、MBAプログラムの一環としてVRでオンラインコースを配信されました。

VRの利点として、普通のオンライン授業では難しい、参加型体験学習とモチベーション維持が可能になることが挙げられます。

例えば、VR空間において他の生徒アバターと一緒に授業を受けることができるため、ワークや体験を通じて学習効果の向上が期待できます。

更にヘッドセットを使用するため、スマホや住環境によって気が散るのを防ぐことができるため、モチベーション維持効果も期待できます。

また、同調圧力を効果的に利用するという意味では、VR空間上にAIクラスメイトを参加させるのも効果的でしょう。

例えば、有識者の思考を再現したAIが鋭い観点から質問したり、一緒にワークができるような授業は、とても刺激的な体験になるはずです。

向上心や学習意欲が高いAIクラスメイトを多数参加させて、活発な意見交換の場が生まれれば、他の生徒の学習意欲も、その同調圧力によって高まるのではないかと考えています。

未来型教育を実現するオンラインスクールのかたち

未来型教育を実現するためには、グローバルスキルや社会人スキル、高い専門スキルが効果的に学習できること、生徒の成長が最も優先されること、環境要因による教育格差を解決すること、などなどを目的とした自律的な教育機関が必要です。

冒頭の繰り返しになりますが、実現するための仕組みとして、オンライン授業、VRやAI技術の活用、そしてサブスクリプション型の学費体系、この3つの要素が重要になると考えています。

まず、オンライン授業の形式をとることで、地域や場所、定員、偏差値、年齢、コスト、時間など様々な制約から解放されます。

特に昨今のような非常事態においては、その効果が十二分に発揮できます。

LIVE式のオンライン授業では、参加型の体験学習として活用できます。

高品質の配信をするためには、ネット環境整備が必要になりますが、質疑応答や双方向コミュニケーションに力を入れることで、グローバルスキルの形成に役立つはずです。

録画式のオンライン授業では、自分のペースで学習できる反面、内容が古くなったり、質問できないという課題があります。

そのため、LIVE式のオンライン授業における質疑応答の内容や最新の知見を反映することで、録画式のオンライン授業の内容を随時アップデートしていくことが求められるでしょう。他の生徒の質問や考え方を知ることができるのは、良い学びに繋がるはずです。

次に、VRやAI技術を活用することで、生徒の学習意欲を刺激しながら、モチベーションを維持することが可能になります。

VRやAIの力を利用すればオンライン授業においても、リアルの授業と同等の学習成果が期待されます。

最後にサブスクリプション型の学費体系ですが、この利点として高額な頭金が不要になるということと、さらに生徒が様々な専門コースをお試しで学習する機会が生まれるということです。

MOOCs(無料の大規模公開オンライン講義)のように大学主導サービスもありますが、修了率の低さ(10%程度)や、モチベーション維持の難しさ、社会的認知度の低さなど課題は多いように思います。

また、専門学校やビジネススクールでは、高い学費を払って自分の向き不向きもわからないまま、一つの学科に数年間拘束されてしまいます。

そのような契約形態は生徒の可能性を奪っているように思えてなりません。

本当に生徒の成長を大切に考えているのであれば、様々な分野を専門的に学習する機会が必要です。

そうして、若い彼らが、いろんな可能性を探していき、自分が向いていると思った分野で才能を発揮するチャンスがあるべきなのです。

とは言え、自律型の教育機関を運営していくための最低限の資金は必要ですので、サブスクリプション型の学費形式が適していると考えています。

まとめ

「シン・ニホン」の著者である安宅和人さんは、未来を創るためには、領域を超えてつなぎデザインする力が重要だと言っています。

未来(商品・サービス) =
課題(夢) × 技術(Tech) × デザイン(Art)

日本の教育における課題は、まだまだたくさんあります。

ですが、こんな非常事態だからこそ、業界を超えて専門家が協力し合い、VRやAIという最新技術に活路を見い出しながら、創造的なアイディアを出し合っていくべきではないかと考えています。

日本の未来を担う若者たちの、より良い成長を実現するために何ができるか、未来型教育のあり方についてを考えていきたいと思います。

井ノβe太

【参考文献】

『遅いインターネット(NewsPicks Book)』

『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成 (NewsPicksパブリッシング)』

【デジタルで変貌する世界の教育と日本の課題】

【誰のため、何のための高等教育か
─進学・在学中・卒業後の問題点と求められる抜本的改革の方向性─】

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