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「プラットフォーム労働」革新的なビジネスと社会的保障システムの狭間

世界中がコロナで大変なことになっている今。

ここ韓国でも、コロナウイルスの影響で、失業や就職難など雇用に関わる社会問題が更に深刻化しています。また、日本でも同様の問題が日々深刻化していると感じます。「反貧困」の活動をしていらっしゃる知人のSNSを毎日見る度に、想像を絶する状況に置かれている方たちのことや、日夜その方たちのSOSサポートに走り回る活動家たちが、過労で倒れてしまうのではないかと心配であり、心が痛い日々です。

そんな中つい先日韓国の放送局MBCの調査報道番組で、「プラットフォーム労働」についての報道を見ました。(韓国語ですが、興味がある方はどうぞ。)

「プラットフォームビジネス」と「プラットフォーム労働」

プラットフォームビジネスと言うと、例えば世界中で有名な民泊プラットフォームサービス「airbnb」等が思い浮かびます。また、食品配達や出前サービスの「ウーバーイーツ」等も代表的だと言えるのではないでしょうか。日本でも、近年、そしてコロナウイルスの流行と自粛などに伴い、そのような食品配達や出前サービスの利用者が増えているという記事を見ました。また、ネット上でフリーランスへの入り口のようによく紹介されている「クラウドソーシングサイト」なども、プラットフォームビジネスと言えるでしょう。

プラットフォーム労働は、デジタルプラットフォームを基盤に個人や組織が別の個人や組織の問題を解決したり、サービスを提供する形態の労働を指します。【海外労働情報19-03『プラットフォーム労働の拡散と新しい社会的保護の模索』】

インターネット市場が活発な韓国では、数年前から「ウーバーイーツ」のような出前アプリやタクシー配車アプリ、最近では夜の11時までに注文しておけば朝の7時には玄関前に新鮮な食材や下調理が済んだ食材が届いているネットスーパーなど、オンラインプラットフォーム市場がとても盛んです。

また、食品配達や配車だけでなく、家事代行、翻訳や税務処理、法律コンサルタントなど専門的な分野にまで、様々なプラットフォームビジネス(サービス)が生まれています。

働きたい時に働こう?!:「問題は、個人の責任」

プラットフォームでの仕事を検索すると、日本でも韓国でも「働きたい時に働ける」「自由な働き方の実現」「週単位支払い」という魅力的な甘い言葉が溢れています。

また、従来の雇用関係を結ぶわけではなく、「パートナー登録」等である為比較的容易に始めることができます。その為、新型コロナウイルスの流行以降、失業や自営業の経営難により、配達パートナー等へ新規参入している人が増えているとのことです。

しかし、良いことだけでは無いのかもしれません。私が先日見たMBCの調査報道番組(上記)では、二人の記者が実際に一週間韓国の代表的な出前サービスや宅配サービスにおけるプラットフォーム労働を体験していました。(働いて得たお金103万ウォン:日本円約10万円は、プラットフォームで働く”ライダー”たちの労働組合「ライダーユニオン」に全額寄付されたそうです。)また、実際に働いている人々のインタビューもありました。彼らは端末あるいは携帯電話のプログラムを通じてプラットフォームとつながり、
プラットフォームは彼らに仕事を提示します。運営会社が仕事を指示すると言うより、会社が運営するプラットフォームのアルゴリズム(人工知能)が、彼らに仕事を提示します。

ここで幾つか気になったことがありました。例えば、ドリンクの出前中に、バイクで転倒事故が起きてしまったキムさん。プラットフォーム会社に連絡すると、電話がかかってきました。まず、事故による身の安全を確認するのかと思いきや「出前中に転倒事故が起きて、ドリンクは駄目になってしまったんですよね?それでは弁償して貰わないとです」という案内。確かに顧客のドリンクは重要ですし、従来の雇用関係を結んでいるわけではないので、「労働法に基づく責任を取る必要がない」という主張も、当然といえば当然なのでしょう。しかし、安全に関わる問題であり、下手をすると命に関わる問題でもあります。また、パートナーという名前ではありますが、実際には「雇用主と労働者」のような関係性です。プラットフォーム市場では、キムさんが怪我をして働けなくても、代わりに働く人/働きたいと登録している「パートナー」は沢山います。だけれども、あまりにも、「使い捨て」ではないでしょうか。

もう一つ気になる部分がありました。「プロモーションチャンス」と言われるものです。例えば、週末のランチタイムに沢山の注文(取引)が行われば、プラットフォームの運営会社は、利益を生み出すことができます。なので、注文が多い地域に、多くの配達員を集める必要があります。その為に、「土曜日の何時から何時までどの区で何件以上配達をすれば+2万ウォン(約二千円)支給」というプロモーションイベントが配達員を対象に行われているそうです。しかし、実際にそのイベント条件をクリアするには、20分に1件配達を完了し、注文が休みなく入ってこない限りは不可能な条件です。いつ注文が入ってくるかは分かりません。なので、注文が入ったら、超スピードで移動し、配達する仕組みになっていくのです。実際に、このプロモーションイベントに挑戦した記者は、「プロモーションによって不利益を被ることはないが、個人に危険性を覚悟させるイベントだなぁと思った」と話しています。

だったら、休めばいいのでは?と思うのですが、そうともいかないようです。注文が入ってきたけど、「今はしんどいので少し休憩」と、お断りボタンを押すと、その後中々仕事を振り分けて貰えません。また、振り分けられても、とても遠い地域に振り分けられたりもするそうです。「一度休む」と「仕事を失う可能性」があるシステムが人工知能によって、作られているのだそうです。誠信女大法学部のクオンオソン教授は、この番組でこの様に解説していました。「労働の従属性が無いという主張の根拠は、その労務提供者の自発的同意という側面であるが、アルゴリズム(人工知能)がこの自発的同意を強制的な同意に変化させていっている。」

番組で紹介されていたのは、配達サービスなどが主流ですが、違う分野の状況も少し振り返ってみようと思います。翻訳や税務処理、法律コンサルタントなど専門的な分野では、「自分のスキルや経験」の提供が主流のため、業務をすすめる途中で大きな事故に遭ったりすることは、あまり無いと思います。しかし、こちらはこちらで、驚くほど単価が安く税金を抜いたらほぼ残らず状態だったり、ちょっと怪しい案件が多かったり、金銭トラブルに遭ったりなんてこともあります。(例えば、仲介手数料を減らすためにクラウドソーシングサイト外に誘導し、契約無しで案件を進め、報酬未払い等)しかし、こちらも何か問題やトラブルが起きたとして、ほとんどの場合は「発注者」と「受注者」の問題であったり、受注者個人の問題と責任として処理されてしまう傾向があるように思います。

「働きたい時に働ける」「自分の特技を活かそう!」等の甘く魅力的な言葉に対しては、確かにコネがなくても始められるし嘘ではないと思います。私自身も、大学生の頃何度もフリーランスの翻訳案件をそこでいただくことができ、生活の足しにすることができました。もし私が子育てをしていたり、健康上や家庭の事情があれば、働き方の一つの選択肢として、まず在宅の仕事を考えるかもしれません。その際は、それに関する人脈や仕事のツテがない限り、やはり「時間に縛られないプラットフォーム」での仕事が選択肢にあがってくるでしょう。そのような視点から、私自身プラットフォームビジネス(サービス)の登場に対して、否定的な部分だけでなく肯定的な部分も持っています。

イノベーションと社会的保障システムの狭間

プラットフォームビジネスは、私達の生活をより便利に変化させていると思います。例えば民泊プラットフォームも、今まででは経験できなかったような海外での体験ができます。また、出前や食品宅配サービスなども、忙しい生活の中ではとても重宝できるサービスです。かゆいところに手が届くように、色んな部分での不便さを解消させようという、新しい可能性と価値の為に生まれた部分もあるとは思います。まさに、「革新的」(イノベーション)なビジネスです。

しかし、その革新的なビジネスは、多くの場合「使い捨ての労働力」に頼っているのも現状です。韓国の社会保障システムは、基本的にフルタイムで働く労働者を基準とし、その人へ老後の年金や怪我をしたときの労災保険、失業したときの失業給与を保証するシステムです。しかし今、労働者なのか労働者でないのか、微妙で曖昧な定義することができない位置の人々が増え続けているのが現状です。それらの位置の代表的な人々が、「プラットフォーム労働者」です。ですから、韓国では、これらの人々をどう社会保障システムへ組み込んでいくべきかが議論されています。おそらく、この現状は日本にも共通して言える部分があるでしょう。

生活は便利になり、働き方も多様になる。けれどその反面で、使い捨てにされる人々が生まれる。残業代や社会保険料を負担せず、問題が国、最終的には国民に…。

このようなシステムは、果たしてイノベーションなのでしょうか。新しい形・革新的な形であるから、イノベーションには間違いないでしょう。しかし、一つの問題を解決するために作られた革新的なサービスが、新たな大きな問題を生み出しているようにも思えてしまいます。ある角度から見れば、ビジネス・事業のあり方の問題でもあるし、ある角度から見れば、国の労働条件の改善や、法制度整備の問題でもあると思います。

とても複雑で難しい問題ですが、今後インターネット上のプラットフォームで仕事を得る働き方はもっと増えていくだろうと思います。また、この問題は現在韓国だけでなく、日本や諸外国でも議論がされ始めてています。だからこそ、もう少しこれらの議論や問題に注目し続けていきたいと思います。

また、私は現在ソウル市のとある青年起業助成を受けているのですが、起業助成・教育の同期には、既存のプラットフォームビジネスとは異なるオルタナティブなプラットフォームシステムで勝負をしようとしている人々がいます。社会的経済の領域で、どのようなオンラインプラットフォームビジネスが展開されるのか、果たしてそれは可能なのか、その発展や今度の動きが楽しみでもあります。

利益追求のため無限に効率だけを追求するシステムに永続性はないはずです。誰かの犠牲に成り立つ経済より、一人でも多くの人が安心して幸せに暮らせるシステムを私は望みます。そのために何が出来るか、日々探求し実践していきたいです。

ありがとうございます!감사합니다! 謝謝:)