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古典文学に探る季語の源流(全12回の連載)

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俳句結社「松の花」の結社誌に連載しているコラム『古典文学に探る季語の源流』をnoteにも転載しております。2020年は奇数月の号、2021年は偶数月の号に掲載した記事を合わせ、毎… もっと読む
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#コラム

古典文学に見る季語の源流 第七回「七夕」

古典文学に見る季語の源流 第七回「七夕」

七夕は、暦の切り替えの影響を最も受けている季語の一つであろう。新暦の七月七日は盛夏の気分だが、これは秋の季語である。新暦と旧暦には約一ヶ月のずれがある上、昔は、一~三月が春、四~六月が夏……と三月(みつき)ごとに区切っていたため、七月七日は秋に当たるわけである。

天の川の両岸、わし座のアルタイルを牽牛(彦星)、こと座のベガを織女(織姫)と見立てる伝説はよく知られているが、そもそもこの伝説の発祥は

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古典文学に見る季語の源流 第六回「蛍」

古典文学に見る季語の源流 第六回「蛍」

三度目の緊急事態宣言下で、本稿を書いている。六月には「蛍狩」ができると信じながら、「蛍」を取り上げる。

二〇二一年は、六月五日からが二十四節気の「芒種(ぼうしゅ)」であるが、その中でも六月十一日からは七十二候の「腐草為蛍 (くされたるくさほたるとなる)」である。中国古典『礼記(らいき)』に見える、枯れて腐った草が蛍になるという理解から来た語である。季語では「腐草蛍となる」と読む。

ことわざには

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古典文学に見る季語の源流 第五回「卯の花腐し」「五月雨」

古典文学に見る季語の源流 第五回「卯の花腐し」「五月雨」

五月号(注:本コラムは結社誌二〇二〇年五月号に掲載)であるが、陰暦ではまだ四月である。そこで、今回は「卯の花腐し(うのはなくたし)」から始めよう。

卯の花は陰暦卯月、今の暦でいえば五月中旬に咲く。その時期に降る長雨を「卯の花腐し」と呼んでいる。卯の花を傷める雨を厭う初夏の季語である。

この表現の歴史は古く、順徳天皇(一一九七~一二四二)による歌論書『八雲御抄』でも、第三巻の「雨」の部に、

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古典文学に見る季語の源流 第四回「朧月」「朧月夜」

古典文学に見る季語の源流 第四回「朧月」「朧月夜」

春爛漫の四月号(注:本コラムは結社誌四月号に掲載)である。今回は「朧月(おぼろづき)」を見てみよう。

現存最古の歌集、『万葉集』にはこの語は登場しない。春の月を詠んだ和歌も、

春霞たなびく今日の夕月夜
清く照るらむ高松の野に

(巻十、読人しらず)

と照り輝く月を詠んでいる。唯一、

うちなびく春を近みか
ぬばたまの今夜の月夜霞みたるらむ

(巻二十、甘南備伊香(かんなびのいかご))

とい

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