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言葉を越えて、伝わる想い。前編 Lomalia 伊藤 タケシさん

動画版を今回制作しました。よろしければご覧ください。

コンプレックスのない人間はいない。

容姿、性格、生い立ち…。
さまざまなコンプレックスが、人々の中に無数に存在している。

もし、その中の一つが解消されたら?
今まで無理だと諦めていたものが、綺麗にスッとなくなったら?

それだけで人生が、以前とは違う色を纏って見えるのではないか。
人の人生を変える可能性が、美容の世界にはある。

「お客さま一人一人の髪への諦めを、止める」
そんな想いを持った、美容師にお話を聞くことができた。

前編メイン

今回、お話をお聞きした伊藤タケシさん。
福岡県生まれ。美容学校を卒業後、表参道の有名店に就職。その後、アパレルの販売員に転職するも、美容師への道に戻る。現在は、原宿にある美容院 Lomaliaのトップデザイナー。

「伊藤さん、伊藤さん!」と会いに来てくれる
お客さまの存在が、嬉しかった。

──伊藤さんの美容師のキャリアについて教えてください。

 僕、実は25歳の時に一旦美容師を辞めているんです。美容学校を卒業後、表参道の有名店に就職して、アシスタントからスタートしました。ですが、お洋服がすごく好きなこともあり、アパレル業界に転職したんです。一人前のスタイリストになる前だったので、このまま中途半端に辞めていいのかとすごく悩みましたね。だけども、やりたいことはやろう、ということで決めました。

 最初は販売員からのスタートです。そこで、はじめて担当という形で、最初から最後までお客さまと関わる接客ができました。美容師アシスタントの時にはない経験で嬉しくて、夢中で仕事をしました。そしたら「伊藤さん、伊藤さん!」と僕に会いに来てくれるお客さまが増えて…。ありがたいことに、お洋服を売ろうとしなくても、売れていくという状態になったんです。お話をしている中で、お客さまが「この洋服、気になる」とおっしゃったら、「もし良かったら、全然着てみてくださいね」という感じで接客をしていました。すごく楽しかったし、お客さまの存在が嬉しかった。

 お洋服のデザインに関わりたいという想いがあったので、会社に伝えたところ、店舗で働きながら、デザインまでやらせていただいたんです。2年ぐらい働いて、店長にもなりました。そんな時、ちょっと気づいたことがあったんです。

前編01


一人一人のお客さまと、末永く付き合っていきたい。

──どんなことに気づいたのですか。

 僕が働いていたブランドのお洋服は、若い世代向けのものでした。つまり、お客さまがそのブランドを着なくなる時が、絶対に来るんですよね。今、目の前にいるお客さまに会えなくなる日が、必ず来るということです。さらに、アパレルはものづくりでもあるので、工程が分業化されています。接客をする人、デザインをする人、パターンを引く人、工場…。全てを自分一人で、妥協のないクオリティを保ちながら関わり続けることは、かなり難しいことです。

 つまり、僕は一人一人のお客さまと、最初から最後までちゃんと関わりを持って、末永く付き合っていきたいんだと気づいたんです。そこでもしかして、美容師だったら、やりたいことができるじゃないかと考えました。なぜなら、その方が一生を終えるまで、髪はずっと切っていかなければならない。お客さまと一緒に僕も歳を重ねていくので、末永くお付き合いしていくことができるのでなはいか。さらに、接客からデザイン、カットからカラー、シャンプーまで最初から最後まで自分で一貫して関わることができると。そのことに気づいて、28歳の時に、もう一度美容師の世界に戻ったんです。アシスタントとして、また1から始めました。そこから今に至ります。

お客さまにいただいた、温かみ。

──「お客さまと、末永くお付き合いしていきたい」という価値観は、どこで培われたと思いますか。

 美容学校に入学する前に、地元の福岡の美容室でアルバイトをしていました。その時は、美容師になりたかったわけじゃなくて…。ただ、好きなお洋服着て、好きな髪型で働きたかったんです。飲食店やコンビニのアルバイトだとそれはできなかった。

 実は、僕、人と接することが苦手で、人見知りだったんです。あまり喋ることが得意じゃなくて…。そんな僕に対しても、お客さま、めちゃくちゃ優しいんですよ。地方ということもあり、ご年配のお客さまが多くて。「お腹空いてる?」と聞かれて、「空いてます」と答えたら、何か買ってきてくださったり。お客さまからしたら、僕はただのアルバイトじゃないですか。それなのに、あんなに温かくしてくれて。その中で、「人と接することって、こんなにも楽しいんだ」と感じました。あの時いただいた温かみ、今でも覚えています。

前編02


僕から美容師を取ったら多分、何も残らない。

──素敵ですね。その経験がなかったら、美容師になっていなかったかもしれないですよね。

 そうですね。美容師という仕事が好きですし、僕から美容師を取ったら多分、何も残らない。そのことに、今回のコロナ禍で気付きましたね。昨年の4月に1ヶ月間、お店を完全にお休みにしました。そしたら僕、本当に抜け殻になっちゃって。笑。やりたいことができないことって、こんなにも辛いんだと感じました。

 特に絶望に感じたことが、お客様にお会いできないことでした。今まで毎日お客さまとお会いしていたのが、一切できなくなって…。このままコロナが悪化して、会えなくなったらどうしようと。5月からはアシスタントを入れないで、全部一人で施術する形で営業を再開しました。お客さんが全然いらっしゃらなかったら、どうしようと不安でしたが、蓋を開けてみたら予約が全て埋まったんです。あの時は本当に、嬉しかったですね。一度できた関係性は、自分が思ってるより簡単には壊れなかった。自分がやってきたことは間違いじゃなかったな、と再確認できました。

前編03

後編へ続く。

取材・文 ・動画ディレクション:大島 有貴
写真・動画:唐 瑞鸿 (MSPG Studio)




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