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耳が聞こえないことを理由に宿泊を断られた親の子どものはなし


先日、父から旅行の宿泊先へ電話予約を頼まれた。

両親はろう者(聴覚障害者)で私はCODA(聞こえる子ども)。


子どもの頃から、電話での問い合わせが必要な時は、親のお手伝い感覚で代わりに電話をかけていたから、今回頼まれた時も少しの面倒くささがありながらも気にせず電話した。

父の友人(ろう者)は、2人で旅行を計画しており、海沿いに立ち並ぶ民家、海の上に家が浮ているように見える景色を楽しめる民宿に行く予定だった。


父とその友人が、候補として挙げた中でネット予約を実施している宿はすべて空きがなかったそうだ。

残りの候補4軒は、電話予約しか実施していないようだったので、私に頼んできたらしい。

私は、第一候補と言われた民宿に電話をかけたが、空きがないと言われた。


その後電話をかけ続け、結局4軒中2軒は、空きがあると言われたが、

どちらも「耳が聞こえないことを理由」に断られた。




A宿


電話に出た声から高齢の女性だと感じた。


宿「宿泊者のお名前を教えてください」


「父の名前」


宿「電話番号を教えてください」


「泊まる本人2名は耳が聞こえないので電話でのやり取りはできません、私は代理で電話をしています。FAXは使用できますか?」


宿「FAX!?この電話機には付いているけどやり方が分からなくて・・聞こえないんですよね?2人とも?う~ん・・・それは・・・いや~・・・」


正直、面食らった。
最近はあまり聞こえないことにこんなにも難色を示されることがないから。


宿「そしたら紙に書いて渡したものに、お返事を書いてもらうやりとりになりますか?チェックインやチェックアウトでの支払いはできますか?
(出来るに決まってるだろ)


「はい、筆談でやり取りして頂ければ問題ないです。事前に質問などあれば今この電話で全て答えるのはいかがですか?」


宿「そうですね・・・到着時間やお風呂に入られる時間、時間に合わせて温度を調整しますし、こちらまで来る手段など・・・」


私は父から聞いて全て答えた。


宿「私どもも、初めてのケースでちゃんと対応できるかそこが不安なんですよ、お泊りになる部屋からお風呂と食事処までは離れていて階段がありますし、私たちが居る母屋も離れています、何かあった時に対応できるか分からないんですよね。階段もありますし、事故とかあったら・・・」


階段登れますけど。


こんなことを通訳させられていることに心苦しくなった。



「お風呂、食事処の場所は教えて頂けるんですか?階段も問題なく移動出来ますし、聞こえないので筆談になりますが、それ以外に困ることはありますか?言って頂ければ手段を提案します。」


宿「う~~ん・・・今までないものでね?だからね~困ったね~・・・」


もう聞こえない人を泊めるのは面倒くさいんだろうと思った。


宿「紙に書いて・・・字は読めますか?漢字は読めますか?


ここで私は、父にここはやめない?ムカつくから、と言った。

父も頷いた。


私は宿泊をやめることを伝えた。

ただ、それ以上は言えなかった。



「読めるわ、なめんな」ぐらい言える性格ならよかった。




B宿


こちらも高齢の女性が出た。


宿「お名前は?」


「父の名前」


宿「えっと?カップルですか?家族ですか?」


女の声で男の名前に疑問を持ったらしい。

これはあるあるで、代理でかけると、昔から
なんで子どもが?なんで女なのに男の名前?って不審がられる。


「私は代理で電話していて」


宿「え、それは日本人?」


「日本人です。宿泊する2名は耳が聞こえないので代理で電話しています。宿泊当日は筆談でやり取りして頂ければ大丈夫かと思います。」


宿「電話もできないんですね?う~ん・・・」


ここもかよ。


「電話については、宿泊より前に電話してくる事はありますか?」


宿「なにかあったら・・・」


「事前に質問があればここでお答えしますがいかがですか?」


宿「と、言われてもすぐ出てこないですね・・・」


出てこないらしい。

あるとすれば、宿の人が体調崩してオープン出来ないとかあるかもしれないけど。


宿「私はね、70超えてて、他にも大きくはないですがお店をやっていて、ここ最近は観光客でいっぱいなんですよ、車の駐車場もいっぱいでスムーズには入れるか分からないし、何かあった時に対応できるか、それが不安なんですよね。」


70超えていること、お店をやってること、混んでいること、と何が関係あるっていうんだろう。


私は通訳を続けた。


「当日のやり取りは筆談で可能ですし、それ以外は本人たちで行動出来ますが」


宿「いや~初めてで今まで経験がないので、私の家も泊まる部屋から離れてますし、何かあったら対応できないし、ほんっとーに申し訳ないけどお断りさせてください。

言われた。


父にそれを伝えて、父はしょうがないという顔で「もういいよ」って言った。




全ての電話が終わって、父は「ありがとう」と手話を示して、いつも通りの様子だった。






私は、ムカついて泣きそうになった。

父の前では絶対泣けなかった。

喉の奥のもっと奥に鉛があるように重く、吐き出したくても、ここでは我慢しないといけない気がした。

父はご飯を作るため、台所へ向かった。








2軒とも最初の段階で父を泊まらせたくはなかったが、分かってくれないことが悔しかった。


これは、宿の人たちが「ろう者」を知らないから起こったことだと思う。


宿の人からしたら、未知の生物未知の人間に感じたんだろう。

そして、筆談でコミュニケーションを取らなきゃいけない未知の人間を面倒くさいと思ったんだろう。しらんけど。


電話に出た宿の人はみんな高齢者っぽくて、少人数で切り盛りしてるのかもしれない。


毎日のルーティーンが覆って予想外の出来事を避けたい気持ちも分かる。


高齢でだんだん体の自由が利かなくなって、変化のない毎日の方が楽だし、手間をかけたくない気持ちも分かる。



出会ったことのない未知の人間と関わるのだから尚更だったのかもしれない。






私の父は未知の人間じゃないのに。

なめんな。

聞くことはできないけど、
話すことができる。

手話が父の言語だ。

世の中のほとんどが手話が出来ないから、父も合わせて身振りや手振り、口話、筆談でコミュニケーションを取る。

聴者だけが父に合わせているんじゃない、父も合わせているんだ。

だから、なめんな。





私の電話の仕方がいけなかっただろうか。


例えば、これに強く抗議したら宿の人は考えを変えてくれただろうか。

あらゆる人が平等に利用できない駅に改善を求めても、コストがかけられず、それでも改善を求められるから、その基準に満たない駅は潰れていって最終的には更に交通の便が悪くなる、ってABEMAニュースで誰かが言ってた。

あらゆる人が利用できるサービスを求めても、できない理由がある人はサービスの提供なんてしたくない、ってやる人が減っていってもっと不便な世の中になっちゃうんだろうか。

改善や配慮を個人に担わせる社会システムにも問題があるような気がする。



電話について、私の電話番号を伝えて私が対応する方法もある。


でも、そしたら聴者の家族がいないろう者はどうなるんだろう。


ろう者の自立と社会参加は、聴者とセットじゃないと叶わない、ってこれからの時代に逆行してないか?

父が電話リレーサービスを使ってないのも問題だったのか。

ただ、今回の問題は電話だけじゃない気がする。


こんな世の中ポイズンって反町隆史を思考の間に挟みながら、悲しくて悔しい気持ちから気をそらした。泣きそうだったから。






断る人にも事情があるんだろうと、
納得できそうな思考を巡らせても、


私が配慮できるキャパシティは小さくて、父を馬鹿にした奴はどんな事情があろうと許さねー、ってなった。



あらゆる人があらゆる視点でものを見て、あらゆる事情があるのは分かる。


私もそのあらゆる人の中の1人で、私の視点でしか語れない。


だから、言う。




ムカついて、泣いた。



父は、同じ人間だ。


ろう者同じ人間だ。



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