年末年始に読んで良かった本【読書記録】#19
取り憑かれたように読書(と映画とバイト)に打ち込んだ年末年始。
紙と電子とで合計10冊ほど読んだだろうか。
久しぶりの読書記事はその中から幾つかご紹介📚
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●原節子の真実
昨年秋、小津映画で原節子の存在を知り、有無を言わせぬ表情の力強さに圧倒された。僕の演技に関する知識は素人並みだが、彼女の持つオーラや芯の強さを確かに感じ取った。そんな時にAmazon大先生がこの本をおすすめしてくれた。
14歳で女優になり、戦前戦後を渡り歩いて日本映画界のトップに君臨した原節子。彼女は42歳で静かに引退した後、半世紀もの沈黙を貫き、その存在は伝説的なものとなったという。
原節子の人生を辿りながら、日本映画の歴史ひいては昭和史を学ぶことができる素晴らしい本だと思う。新潮ドキュメント賞を受賞しただけあって、徹底された取材に基づく緻密なリアリティが鮮やかだった。
また、戦前の日本映画の黎明期から戦後の日本映画の黄金期にかけて活躍した原節子は、まさに日本映画史そのものであり、戦前戦後を経験した”激動の日本”そのものでもあるのだと強く感じた。
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●会って、話すこと。
本にカジュアル度という指標があるとしたら、恐らくこの本はその指標において右に出るものを許さないのではないか。そう思うほどにフランクで砕けている。
著者と編集者の対話パートが挟まれつつ、著者の考える「会話」の本質について論が展開されている。著者の軽妙な語り口とユーモアで非常に読みやすい。
本書で著者は何度も「相手はあなたに興味がない」「あなたも相手に興味はない」「二人の外にあることを発見して共有しよう」と訴えかけている。これは単純でありながらもとても重要なことであると思う。自分語りよりも、相手の身の上話よりも、二人の外部についてあれこれ喋って盛り上がろう。これまでの自分の会話姿勢を反省するとともに、会話の理想形を知ることができた。
思わずハッとさせられた。僕が聴いているポッドキャスト『奇奇怪怪明解事典』はこの定義に合致している。MCの2人は、脱線を繰り返して蛇行しながら社会を取り巻くあれこれについて議論している。その蛇行の過程で新たな発見があったり、面白がるポイントが見つかったりするのはこのポッドキャストの常である。彼らのポッドキャストが心地よいのは、それが会話の本質だからなのだと今更ながらに思い知らされた。
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●なぜなら、それが「好き」ということだから。
Amazonで偶然見かけて衝動買いしてしまった本。女性向けに書かれた内容なのだろうが、思い当たる節のある男性ならば、痛いほど刺さるかもしれない。
語るだけ野暮なので、印象的だった箇所を幾つか引用する。
「男性向けにもこんな素敵な本があったらいいのに」と考えてしまう自分はもしかすると女々しい。
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●もしもし、運命の人ですか。
歌人の穂村弘がお届けする恋愛エッセイ。『世界音痴』がとても気に入ったため、続けて購入した。
ひとつ前に紹介した『なぜなら、それが〜』とはまた毛色が違った感動があって、同時期に読んでみて面白かった。
著者の空想やフル回転して行き過ぎた思考がメインなのだが、恋にかかる瞬間を風邪やウイルスに例えている部分には思わず素直に舌を巻いた。
潜伏期間がある、免疫のない若い個体には症状が強く現れる、免疫のないまま歳を取ったものは非常に症状が重い、気づいた時にはもうすっかりやられている。
極め付けはこの章のラスト。
いや穂村さん、あなたカッコ良すぎやしませんか。
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●小津ごのみ
小津映画に関する本が読みたくて購入。何よりも分かりやすくて小難しくないところが良かった。
筆者は、現実を越えるほどの小津監督の美意識を”趣味性”という表現で解説している。画角やファッションにインテリア、配役とその台詞に至るまでが小津監督の趣味性で一貫しているのだ、と非常に理解しやすい小津論だった。
また、時には小津監督や出演者の感情についての著者独自の見解も加えられており、読んでいて全く飽きない。どこかポップで可愛げがある挿絵にも親しみが持てた。
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●もし僕らのことばがウィスキーであったなら
この本はアルバイト先でお客様に教えていただいた。ウイスキーを勉強中の僕にとっては打ってつけの最高の書籍だった。
ウイスキー通として知られている村上春樹が綴るエッセイなのだが、旅行記を読む感覚で気軽に楽しむことができた。舞台はアイラ島とアイルランド。ウイスキーの豊かな香りと雄大な自然を追体験した気分になれる良質な文章に、(これが僕にとって初めての村上春樹だったのだが)すっかり魅了されてしまった。
ページ数は少なく、その半分近くは美しい写真の数々で構成されているため非常に読みやすい。ウイスキーを片手に是非。
この本をきっかけにして、本格的に他の村上春樹作品も読んでいこうと思う。
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最近やけに”表現者”に憧れる。
文章を書く人、絵を描く人、音楽をつくる人、喋り倒す人、演じる人、踊る人、、、
芸術や文学で活躍する人々は、常に自分という価値を最前面に押し出して生きているように見える。けれどそれは並大抵のことではないし、その他の専門職よりも遥かに狭き門であるはずだ。
だからこそ彼らは格好良い。
そんな表現者たちの作品は彼らの生きた証そのものであり、いつだって僕らに何らかのエネルギーを与えてくれる。
これからも沢山の表現に触れていきたい。
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