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変わりゆく企業意識:オフセットからネットゼロへ

皆さん、カーボン・オフセットという言葉をご存知でしょうか。カーボン・オフセットとは、カーボン(炭素)をクレジットとして取引することによって、クレジットを購入した側が、自らのGHG排出をオフセット(相殺)する仕組みのことを指します。

カーボン・オフセットは、排出削減に必要な資金を効率的に調達するひとつの手段として、様々な国や地域、また国境を超えて広く実施されてきました。その中でも主流なのが、植林をはじめとする森林分野での活動です。

COP26では、森林分野においてこのカーボン・オフセットの活用そのものを考えさせられる、そんな動きがありました。

今回は、リーフ(LEAF:The Lowering Emissions by Accelerating Forest finance ) という、気候変動対策に意欲的な民間企業とGHG排出削減のための熱帯林保全活動をつなぐ、新しい国際イニシアティブを紹介したいと思います。

LEAFの目的と進捗

LEAFは、ノルウェー英国および米国政府と、アマゾン、ネスレ、ユニリーバなど多数の民間企業が有志で立ち上げた官民共同イニシアティブです。

熱帯域の森林を保有する各国政府に向けた「前例のない(unprecedented)」資金的支援に注力することによって、森林減少の停止および熱帯諸国自らの削減目標達成に貢献することを目的としています。

支援を受ける熱帯林保有側からは、これまでにコスタリカ、エクアドル、ガーナ、ネパール、ベトナムの政府または地方政府が参加しています。

今回のCOP26にて、LEAFはこれまでに合計10億ドルもの資金を対象国の熱帯林保全に向け拠出済みであることと、新たに7企業が同イニシアティブに参加したことを発表しました。

緑の気候基金(GCF)がREDD+のパイロット・プログラムに拠出した資金が5億ドルであることを考えるとLEAFの資金規模の大きさがわかります。

LEAFの7つの特徴

このLEAFには大きく7つの特徴があります。

  1. 管轄レベルでの削減活動:
    政府・地方政府の持続可能な投資を支援

  2. 強固な社会的保護:
    地域住民、先住民の完全で効果的な参加を確保

  3. 野心の向上:
    参加企業自らのバリューチェーンにおける大幅な排出量の削減(代替はしない)

  4. 環境十全性:
    独立し正確性の高いスタンダードに基づく環境・社会十全性の確保

  5. 結果に基づく支払い:
    森林保全を実際に達成した結果に対する支払い

  6. 資金の動員:
    グローバルな課題に対処するため、企業の資本を集結

  7. 資金の支払い:
    システマティックな変革に向けた効果的な資金の支払い

特に、「3. 野心の向上」に示された、「参加企業自らのバリューチェーンにおける大幅な排出量の削減(=オフセットでの相殺はしない)」は、LEAFの最大の特徴であり、森林保全に向けた強いメッセージを発し、オフセットありきの森林保全に一石を投じるものとなっています。

上述の通り、通常、カーボン・オフセットのための炭素クレジット取引は、森林分野に限らず、自らの排出削減努力を他者の努力で補うことを意味してきました。ところがLEAFでは、参加企業はこのオフセットに頼らず、企業自らの排出量削減を目指すと宣言しています。

カーボン・オフセットの仕組みとして、仮に、ある企業が購入したクレジット量と、その企業が続けて排出した排出量が同等である場合、この企業のクレジット購入による社会全体での温室効果ガスの削減効果は実質ゼロとなります。世界全体でネットゼロ社会へ移行するためには、大規模な削減が不可欠であることが国際的に認知された今、LEAFが目指すのは「代替手段」ではない、森林保全を通じた実質的なGHG削減の具現化なのです。

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文責:梅宮 知佐 IGES 気候変動とエネルギー/生物多様性と森林領域 リサーチマネージャー(プロフィール

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「もっと知りたい世界の森林最前線」では、地球環境戦略研究機関(IGES)研究員が、森林に関わる日本の皆さんに知っていただきたい世界のニュースや論文などを紹介します。(このマガジンの詳細はこちら)。
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