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「森林に関するニューヨーク宣言(NYDF)」新たな目標の背景とポイント

現在、パリ協定が掲げる1.5度目標達成に向け、森林保全への国際的関心が急速に高まっています。2030年までに森林減少および劣化を終わらせることは、1.5度目標達成のために不可欠です。COP26では日本を含む各国の首脳が、2030年までに森林減少を終わらせることを約束する「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言(Glasgow Leaders’ Declaration on Forest and Land Use )」 に署名しました(2021年11月12日時点で141か国が署名)。

これに先立つ森林保全に関する国際宣言として、2014年に国連気候変動サミットで採択された「森林に関するニューヨーク宣言(New York Declaration on Forests: NYDF)」が挙げられます。NYDFは、2030年までに森林減少を終わらせ、劣化した森林を再生するために重要な取り組みや行動を10の目標によって具体的に示しています。このNYDF目標が今年10月に改訂されました。今回はその背景とポイントをご紹介します。

NYDFとは?

NYDFは、気候変動、生物多様性、持続可能な開発目標 (SDGs)などの国際的合意における森林に関連する目標を統合し、「農産物による森林減少の排除」、「劣化した森林の再生」、「先住民・地域コミュニティの権利の強化」、「森林保全に対する資金の増加」など、10の目標を掲げています。拘束力のない国際宣言ですが、日本を含む各国政府、地方政府、民間企業、先住民や地域コミュニティグループ、NGOなど200以上が賛同者として署名しています。そして、私たちIGES含む28の研究機関やNGOによって構成された「NYDFアセスメントパートナーズ」が目標の進捗状況をモニタリングし、定期的にレポートで公表しています。

これまでのNYDF目標の進捗と結果

2014年のNYDFでは、2020年までに森林減少を半減させるという目標が掲げられましたが、その目標は達成されませんでした。2015年に合意されたパリ協定では、気候危機を緩和するために森林がきわめて重要な役割を果たす旨が明記され、熱帯諸国をはじめとする多くの国で森林保全への取り組みが強化されました。しかし、国際連合食糧農業機関(FAO)は、毎年1,000万ヘクタールもの森林が2015年から2020年にかけて失われたと報告しており 、主な背景として、大規模な農地拡大が挙げられています。NYDFアセスメントパートナーズのレポートは、森林減少防止を目指す企業数は増加しているものの、森林減少防止に向けたサプライチェーンの改善がうまくいっていないことを指摘しています。さらに、多くの熱帯林地域で大規模なインフラ開発と天然資源の採掘が加速しており、森林減少や劣化の原因になっていると報告しています。また、多くの途上国が森林の持つ力を十分に気候変動緩和政策に反映させていないこと、そして途上国の森林減少防止に対する国際的な資金も不足していることも示されました。

これからのNYDF目標から見えること

今年、NYDFは実施期間の節目を迎え、2030年までに森林減少を終わらせるためにいくつかの目標が改訂、強化されました。具体的には、農作物の生産による森林減少を排除するという民間企業の目標達成の「支援」からさらに踏み込み、「目標を達成すると明記されました(目標2)。また、農業以外にインフラ開発や鉱物採掘産業による森林減少を抑えることが明記されました(目標3)。2014年時点の目標が達成された項目(目標6 :SDGs、目標7:パリ協定)については、実施に焦点を当てた改訂が行われました。また、先住民および地域コミュニティの土地や資源に対する権利を認識するだけでなく強化するように改訂され、さらに女性や若者に対する配慮が加えられました(目標10)。詳細は、こちらのNYDFの目標の比較表をご覧ください。

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NYDFに関するセミナーのお知らせ

12月3日(金)11時~12時、IGES主催の国際会議「ISAP 2021:持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム」にて、NYDFをテーマにしたセッション「輸入農林産物サプライチェーンにおけるゼロ・デフォレステーション ― ニューヨーク森林宣言」を実施します。

NYDFグローバル・プラットフォーム事務局(国連開発計画)による改訂された目標の解説のほか、NYDFアセスメントパートナーズを代表してClimate Focusが進捗を報告し、IGESが日本の農作物輸入と途上国の森林減少の関連について報告する、日本の森林関係者必見の内容です。オンラインにて、参加無料です。

セッション詳細は以下からご確認いただけます。

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ぜひお気軽にご参加ください。

文責:藤崎 泰治 IGES生物多様性と森林領域 主任研究員(プロフィール

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「もっと知りたい世界の森林最前線」では、地球環境戦略研究機関(IGES)研究員が、森林に関わる日本の皆さんに知っていただきたい世界のニュースや論文などを紹介します。(このマガジンの詳細はこちら)。
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