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COP26速報:世界が持続可能な土地利用への転換を誓約!

先日閉幕したCOP26では、森林や自然生態系は気候変動国際交渉の議題ではなかったものの、議長国・英国の強いイニシアティブによって「世界リーダーズ・サミット(World Leader’s Summit)」の中心テーマの1つとなり大きな脚光を浴びました。私はこれまで10年近くCOPをウォッチしてきましたが、森林がこのように注目を集めることはなかったと言って良いでしょう。英国首相、米国大統領が森林をトピックに演説をするなんて、オンラインで視聴しながら、正直、目を疑いました! 今回は、COP26での森林をめぐる動きをお伝えします。

世界リーダーズ・サミットとは

議長国である英国は、COPの成功や、世界の気温上昇を1.5℃に抑えるというパリ協定の目標を維持し世界の排出削減を促進するために、COP開催前から様々なイニシアティブを立ち上げ、各国や国際的な大企業、慈善団体などと調整を進めてきました。森林減少問題は、電力や輸送と並んで、議長国が重視するテーマでした。この議長国主導のイニシアティブの成果発表は、COPの場を借りて連日開催されました(これは議長国プログラムと呼ばれるもので、COPの決定、すなわち締約国の国際交渉の結果ではありません)。その中でもCOP初日から2日間開催された「世界リーダーズ・サミット」はとりわけ大きなイベントで、この2日目のテーマが「森林と土地利用」だったのです。今回のような影響力のある議長国プログラムが準備できたのは、もちろん英国の熱心さとリーダーシップの賜物ではありますが、COP26がコロナ禍で1年延期され準備期間が十分確保できたこともあるでしょう。

世界リーダーズ・サミットの4つのハイライト

①森林・土地利用に対する世界的リーダーの明確なコミット
世界リーダーズ・サミット2日目「森林・土地利用に関する行動」と題するセッションでは、英国ジョンソン首相や米国バイデン大統領が、気候変動対策には森林やその他の生態系保全が重要であると訴え、保全への貢献を約束しました。そこには、自然保全活動は化石燃料使用削減の代替手段ではなく、同時に取り組むべき課題であるという前提が明確に感じられました。こうした大きな影響力を持つ政治的指導者のメッセージは世界の森林保全を加速させることでしょう。

②森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言(the Glasgow Leaders’ Declaration on Forests and Land Use)
2030年までに森林減少と土地の劣化を止め、回復に向かわせることを目的とした「持続可能な土地利用の変革」のために協力するという宣言で、参加国は、自国の森林保全のみならず、国際支援の実施や、森林に悪影響を及ぼす国際貿易に注意を払うことを誓約しています。具体策として、森林減少を引き起こさない貿易と開発政策、先住民と地域コミュニティの生計向上、環境に貢献する農業政策の再設計などが挙げられています。
COP26 終了時点で、日本を含む141ヵ国の首脳が署名しました。これは、世界の森林の90%がこの宣言でカバーされていることを意味します。急速に天然林減少が進むブラジル、インドネシア、広大な北方林や温帯林を有するロシア、カナダ、米国、深刻な森林火災が発生しているオーストラリア、そして中国など木材市場の主要プレーヤーも署名しています。

③FACT対話(Forest, Agriculture and Commodity Trade Dialogue:森林、農業、コモディティ貿易対話)
森林減少を引き起こすパーム油、牛肉、大豆などの農産物の国際貿易の問題に対処するために、英国とインドネシアを議長として、COP開催前から実施されてきた対話です。COP26に際し、ブラジルやマレーシア、日本を含む28カ国が声明を発表しました。貿易と市場開発、小規模農家支援、トレーサビリティと透明性、研究開発とイノベーションの4分野での行動の必要性が示され、今後も対話を継続することになりました。FACT対話については以下の記事で詳しく説明しています。

④様々な主体による資金拠出の表明
森林の気候変動緩和に貢献するポテンシャルは大きいにもかかわらず、資金不足に引きずられて実施が遅れていました。英国ジョンソン首相も、過去10年間に森林保全への投資額の40倍もの資金が持続不可能な土地利用につぎ込まれた反面、気候変動対策資金のうち森林や農業に投入されたのは全体の2%にすぎないことを指摘しています。森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言は、実施資金の拠出を伴っており、日本を含むドナー国や民間基金、金融機関などから森林保全に関する資金提供が表明されました。例を挙げると、

Global Forest Finance Pledge
:日本を含む12ドナー国による誓約。2021-2025年に120億ドルを途上国における活動に拠出。
COP26 Congo Basin Joint Donor Statement:日本を含むドナー国とベゾス地球基金による共同声明。世界で2番目に大きな熱帯雨林地域であるコンゴ盆地の森林保全に2021-2025年に15億ドル以上の資金を提供。
COP26 IPLC Forest Tenure Joint Donor Statement:5つのドナー国と複数の民間基金などによる共同声明。2021-2025年に先住民や地域コミュニティの森林保有権を強化し、森林や自然を守る彼らの役割を支援するために、17億ドル以上を拠出。

このほかにも、三井住友トラスト・アセットマネジメントを含む30以上の金融機関が、農産物による森林減少に関連する活動への投資をなくすことを誓約しました。

民間からは数十億円規模の資金コミットメントが表明されました。

宣言だけで終わらせないために必要なこと

ただし、「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」には法的拘束力はなく、署名した国が森林保全に積極的に取り組む確約はありません。国際的な批判をかわすために、まずは署名した国もあるかもしれません。また、森林分野に限らず、政治的リーダーの交代により、政策が瞬時に方向転換してしまうことも珍しくはありません。

ブラジル政府は、「2030年までに違法な森林伐採をなくす」との既存の公約を2年前倒すと発表したものの、開発計画に基づく農地転換など「合法な」森林伐採には言及していません。インドネシア政府は、同国にとって開発は最優先事項であるとして、宣言を守らない可能性をすでに示唆しています。宣言には「持続可能な土地利用の変革」の必要性が示されているにもかかわらず、両国は、自然破壊ありきの経済発展という従来型の固定観念に捕らわれているようにも見受けられますが、理解できないわけではありません。なぜなら、それが現状であり、代替となる選択肢が見えていないからです。首脳宣言の目標を達成するための具体的な行動計画の策定と進捗のモニタリングは、これから不可欠となりますが、各国の持続可能な土地利用への早期の政策転換を促すためには、森林の価値を適切に評価する新しい開発のあり方や具体的な道筋などを明らかにする必要があるでしょう。

気候変動対策における森林保全の重要性が認知されるまでに時間がかかりすぎた感があることは否めません。しかし、それを批判するのではなくターニングポイントと捉え、世界が化石燃料使用削減と同様に森林減少問題にも本腰を入れて取り組み、確約された資金を効果的に活用することで実際の森林保全につなげることを期待します。

最後に、今回私の印象にいちばん残った、アントニオ・グテーレス国連事務総長のスピーチの一説をご紹介します。「自然をトイレのように扱うのはもうたくさんです(Enough of treating nature like a toilet)!

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「もっと知りたい世界の森林最前線」では、地球環境戦略研究機関(IGES)研究員が、森林に関わる日本の皆さんに知っていただきたい世界のニュースや論文などを紹介します。(このマガジンの詳細はこちら)。
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文責:山ノ下 麻木乃 IGES生物多様性と森林領域 ジョイント・プログラムディレクター(プロフィール

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