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メルローズ通りのアパート


ロサンゼルスに住んでいたころ、大小合わせて6回引越しをした。そのうち半年間住んだ3件目の家は、メルローズ通りとヴァイン通りの一角にあった。


住んでいた部屋を数日後に退出しないといけないのにまだ引越し先が決まっていなかったルームメイトと私は非常に焦っていた。ふたりで沈んでいても仕方がないので、気晴らしに甘いものでも食べに行くことにし、3rdストリートにあるカフェに入った。焼けるように甘い大きなチョコレートケーキをラテで流し込むと緊張がほぐれていく。

「どうにかなるよ、こんなにも家があるんだから。」


ケーキを食べ終えたころ、ある部屋のオーナーから返信がきた。その足で見学に向かうことにし、バスに乗り込む。


Craigs list/クレイグスリスト(住居や仕事探し、個人売買ができる、アメリカでは大規模の総合webサイト)で探し出したその部屋は、ヴァインを北に30分歩けば煌びやかなハリウッドがあり、メルローズを西に15分歩けば若者に人気のメルローズ通りがある魅力的な地域に鎮座していた。


たどり着いたその家は、そんな素晴らしい立地とのギャップに苦しむ古くて薄暗いアパートだった。1ブロック南に下れば緑が多く、きれいで閑静な住宅街なのに、道を隔てた先にあるそのアパート周辺は砂埃が舞っていて、夜にひとりで歩くのは避けたいような雰囲気が漂っていた。


ホームレスになるかこの家に住むかの2択。その場で返事をして、数日後に入居した。


3ベッドルームの1室をルームメイトとシェア。残りの部屋にはカップルが1組と、夜になるとオンラインゲームをはじめる男性が住んでいた。ひとつ屋根の下に住んでいても挨拶を交わすだけでほとんど会話はなく、名前を覚えることもなかった。カップルが飼っていた猫の"ナイナイ”だけがわたしたちに懐いて離れなかった。


一部屋900ドルをふたりで割ってひとり450ドル/月。
家賃が安い分、外に出て楽しめばいいと前向きに考えるようにしたけれど、どうしても家に帰りたくなくて遅くまでカフェに居座ったり、週末は友達の家に泊めてもらうことも多かった。


留学生だった自分が一番悩まされたのが部屋探しだった。どのくらいの期間こちらに住むか決めていなかったので年間契約はできず、人脈もなければ予算も限られていたので本当に苦労した。


メルローズのアパートには半年ほど住んで、そのあとニューヨークに移った。ニューヨークではもっと狭い独房のような部屋で暮らすことになるとは知らずに。

衣食住がどれほど人間にとって重要か、身をもって学んだ期間。

うれしいです。がんばります。