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ideaboard® 開発ストーリー連載 #3_デザイン開発編 | デザイン事務所 f/p design との協業

この連載では、中西金属工業株式会社(以下、NKC)が、2019年に発売した新しいホワイトボード『ideaboard®(アイデアボード®)』の開発に関わったプロジェクトメンバーから広く話を聞き、ideaboardが世に生み出されるまでのストーリーを記録します。
〈過去の記事〉
ideaboard® 開発ストーリー連載 #1_発想編 | アイデアの種を育て続ける 
ideaboard® 開発ストーリー連載 #2_デザイン開発編 | プロトタイピングと仮説の更新

第3回目も引き続き、NKC 社長付 戦略デザイン事業開発室 KAIMEN 室長の長﨑 陸さんに、世界有数のデザイン事務所 f/p designとの協業により見えてきた、さらなるプロダクトの進化についてお伺いします。

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長﨑 陸 / Riku Nagasaki
中西金属工業株式会社 社長付 戦略デザイン事業開発室 KAIMEN
NKC BUSINESS DESIGN CENTER

1. 最大の課題は、シンプルなデザインと製造実現の両立

ーご自身の中でのデザイン与件が定まった後、デザイン開発を発注する外部デザイン事務所には何を期待し、どのように選んだのでしょう?

まず明確に、このプロダクトは製造工程が大きなチャレンジになる、というのは想定していました。かつ、スーパーミニマルなデザインになる。そうなるとおそらく新しい作り方や、協力工場の選定から考えないといけない。
そんな想定でいろんなデザイン事務所の実績を見たとき、製造工程という課題に一番辛抱強く対応してアウトプットを出しているところが f/p design だったんです。

とにかくシンプルだけど本質的なデザインをつくるということに長けているし、実はファーストキャリアとしてデザイン教育を受けたスタッフが意外と少ない。もともと宇宙工学のエンジニアとか、工学系の人が多いんです。その人たちが何かのキャリアパスの中でデザインに出会い、圧倒的なデザインスキルを身につけた。そんな不思議な方たちが集まっている。

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ものづくりで、とくにシンプルな商品をつくるときには、ヒンジの金具がこれじゃ収まらないとか、この形だと金型が抜けないというような課題が絶対出てくるんですよ。それに対して、それならデザインを少し発展させてこうすれば作れますよね、って言える人たち。シンプルなデザインを提案するだけじゃなく、実際にどうすればそれを作れるか、という機構設計までできるデザイナーの集まりなんです。この期待は実際、間違ってなかったですね。

2. 人が普遍的に欲しいものはシンプルな中にこそ見えてくる

ーf/p designのデザインが入ったことで、プロダクトはどう変わっていきましたか?

彼らはまず、僕の与件に応じて、”つなげる”という要素を含んだコンセプトAを提案してくれました。

そしてコンセプトBとして提案してくれたのが、「マグネットをメインに考えなくてもいいんじゃないですか?」だったんです。つなげるにしても外付けのシリンダーでうまくポジションを保ってつなげたらいいんじゃない?って。こちらから出したデザインの与件をある程度無視する形で、f/p designの観点から逆提案をかけてくれたんですね。それを実現するためのシリンダーの構造も考えてくれていた。ここで初めてシリンダー(編注※オプションパーツである「プレゼンテーションスタンド」の原型)が出てくるんですね。

結果、その場でBでいきましょうって、即断しました。
パーツを抜いてしまえばBの方が板としてはシンプルになるよね、みたいな会話があって、おもしろいと思ったんですよね。今までテストを続けてきて、つなげることを捨てきれていなかった自分のバイアスがそこで完全に崩れ落ちた。デザイナーとして直感的に、右脳的に、Bがいいなと思ったんです。

その後、試作品をいろいろ作る段階でも、機構試作の工場やモデル屋さんなどf/p designさんがいろんなコネクションを持っているのですごく助けていただきました。

ーそこでも試作品、つくるんですね。

はい、ただ、実際の試作品を見て、使ってみて、なんか良くないねってなりました。
当時、ボードの上にのせて結合させるシリンダーのことを「ちょんまげ」って呼んでいたんですけど(笑)想定していた通り、2枚のボードをA型に合わせて、頭にバスッと差し込んだらジョイントできるんですよ。でも、そもそもシリンダー自体の形が複雑で無駄が多い上に、落としてしまうと割れるリスクもあった。中に穴を開けて磁石を突っ込んでいるのでコストも高い。

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MTRL京都でのユーザーテスト中にもあまり実用されなかった、”つなげる”という体験に対してそこまでしてコストを投入することが正しいのか?、ということが見えてきたんですね。ただ、立てかける壁がないオープンスペースで自立させたいというニーズだけは頑強に存在していた。それなら、自立することだけを満たすシリンダーをつくろうと。

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ー一般にイメージする商品開発は機能が追加されていきそうですけど、ideaboardでは検討を重ねていく過程で、どんどんシンプルになりますね。

そこが、f/p designも僕たちも、話す中でバイアスが崩れていったところです。機能をどんどん削いでいく中で、じゃあ結局人が普遍的に欲しいものは、「とにかく軽く、どんな向きでも使える1枚の板」と、「それを何もないところで自立させるための何か」なんじゃないか。くっつけることすら必要ない、ということが見えてきた。

あとはシリンダーの太さや長さをどう決めようとか、フチの形状はどうしようとか、ディテールの作り込みの話をお互いに提案しながら進めていきました。

3. f/p designとの長い並走と、チームのコミュニケーション

ーチームとして進めていく中で、「 ”ちょんまげ ” 良くないね」となるネガティブな意見の汲み上げは時に難しい場面もあると思います。コミュニケーションはどうはかっていましたか?

まずは、絵を描いたり実物を目のまえにして、その”実物”について話す、ということは意識しています。いまいち良くない時にも、それを作った人に対して伝えようとするのではなく、あくまでその実物に。

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実物に人格があると仮定して、彼自身がもっと良くなりたいって僕たちに相談してきてるわけだから、じゃあ一緒にこいつをどうしようって。それを考えるときにも、絵を描きますね。

そうするとお互いにプロフェッショナルとして詳細について話し合えるし、たとえ意見の相違で食い違ってもプロフェッションとして食い違ってるだけで、人格としては何の否定もないし、関係破綻の心配がなく、安心が保てる。このことはすごく意識してやってます。ルールに近いですね。

ーf/p designと並走するデザイン開発は1年くらい続いたそうですね。

ideaboardのデザイン案件はf/p designにとって、決して効率のよい案件ではなかったと思います。

僕も元デザイン事務所の人間として、デザインにかける時間を切り詰め、締め切りで迫っても、いいアウトプットは出ないとわかっていました。だから、クライアントとして厳密な納期をあえて決めなかったんです。
ギュッとやってガッと出す!みたいなものではなくて、ある程度長いスパンで着実に改善しながらも、ゆるく進める、というプロセスを取ってみた。その裏には、製造が結構大変で、工場のエンジニアの方々と細かく折衝しながら進める必要があったっていう理由もあるんですけど。

f/p designは世界最高峰のデザイン事務所のひとつなのでもちろん費用は覚悟していました。そこにはそれだけの意味がありますしね。それを、じゃあもう倍額の予算を工面するから倍の期間力を貸してくださいとはお願いしづらかったので、動いていただく関与の度合いになるべく大きなメリハリをつけて、長く並走してもらう相談をしました。こっちもある程度動くし、彼らも動く、みたいな感じです。

だからf/p designとしては、1デザイン案件としての契約でしかないのに手離れが悪くて、たぶん「いつ終わるんだろうこのプロジェクト」みたいな感じだったと思います。(笑)

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それでも乗ってくれたって感じですね。デザイン業界の人間同士で、まあ、初回限りで甘やかしてくれたというか。甘やかしてくれたんですねきっと。f/p designの方々、厳密なデザインアウトプットの印象とは裏腹に、本当に柔和な人たちで。ありがたいですね。

次回 ideaboard 開発ストーリー連載_#4 へ続く
(取材・文 / (株)NINI 西濱 萌根,  撮影 / 其田 有輝也)

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