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01. 始まり

植物性のオイルが揮発している香りをかすかに感じる。窓から窓へ気持ちの良い新鮮な風が流れていく。自然光が満ちて室内の様々な素材に反射したり染み込んだりして、居心地の良い肌触りを感じる。何人かの人が思い思いに室内を移動し、佇み、まだ生活感の無い住空間で何かを探しているみたいに見える。

今日はQさんの家の完成見学会。Qさんは新築でこのマンションを購入して18年暮らしていた。そして私たちにその住まいのリノベーションの提案と設計、施工を依頼して完成し、もうすぐ引き渡しになるその前に、私たちからのお願いで見学会を開催させてもらっている。出来たてホヤホヤだから、二日前に建具や窓枠などの木部に塗装した植物性オイルが少し香っている。

完成見学会は、私たちが行っているマンションのリノベーションに興味を持っていて、我々のささやかな告知(HP, Instagram)に気がつき、事前に予約をしてくれた人だけが、来場できるようにしている。敷居は高くはないけど、門は広くない感じだろうか。今回は二日間で15組の参加者が参加することになっている。

本日4組目の参加者のPさんは3回目の参加だったと思う。今回は地域が少し遠かったと思うのに来てくれて嬉しい。参加する人の状況は様々で、初めての人、何度か来てくれている人、すでに相談が始まっている人、相談がかなり深まっている人、時にはすでに完了している(元)お客さんも来てくれたりする。

みんなそれぞれに自由に室内を見て回る。住まいを見るというのはなかなか奥深い体験だと思う。初めて来た人は、何をどのように見て感じれば良いのかわからなくなってしまっているように見える。すでに相談が始まっている人は、私たちとの打ち合わせの中で知ったことや自分ごととして気になっている対象があるので、その部分にフォーカスして見ている。経験と知識が増えるほど、見る対象や気づきも増え、受け取り方も変わっていく。

私たちはさりげなく参加者のそばにいながら、様子を見て説明をしたり、質問に答えたりする感じで、基本的にはあまり干渉しすぎないことにしている。自分の家だと思ってあまり気兼ねせずにじっくり吟味して欲しい。

参加者は、私たちにこの住まいの広さやリノベーションに掛かった金額や期間などの具体的な質問をするところから、徐々に自分たちの状況を話してくれることが多い。その流れで時間の許す限り質問などに答えることにしてはいるものの、見学会では次々に人がやってくるのでなかなかじっくりと話すことができない。だから具体的な相談内容の場合には別日程で相談会に来てもらうようにお願いしている。相談会は私たちの家でおこなっているが1度来たからといって、お金は取らないし、断りにくい雰囲気も醸し出さないし、それっきりになってしまってもそれは仕方のないことだと思うから、少しでも興味を持ってくれたのなら気にせずに相談して欲しいと思う。

見学会に初めて来た人の中には、具体的な計画があって依頼先を探している人がいる。今からどのように進めて行けばいいかという質問をよく受ける。この段階で参加してくれていることはとても嬉しい。できたばかりの実例を見てもらいながら、お金の話や、スケジュールの話ができるので、より実感として伝わりやすいだろうと思う。お金の話もスケジュールの話もできるだけ率直に話すことにしている。そして依頼先を探しているなら、他の会社でも同じように、実際の住まいの空間を体験し、具体的に質問してもらうように伝えている。数字と写真などのイメージだけでなく空間体験や実際に相談相手となる人物の対応や印象とセットで受け取ることが大事だと思う。

先ほどのPさんが一通り見学を終えたところで声をかけてくれた。具体的な相談と提案を私たちに依頼したいとのこと。とても嬉しい。その場で相談日の日程を約束した。

さあ、これからPさんと私たちの住まいづくりが始まる。その経過を下に列挙したワークフローを目次代わりに一歩一歩、一つひとつ、丁寧に描いていければと思う。読んでくれているみなさんが、相談者として、または設計者として、またある時は現場監督や職人として、臨場感のある追体験ができるように。

提案編

01. 始まり
02. 相談会
03. 訪問-1 竣工図
04. 訪問-2 Hデザインがやってくる
05. 訪問-3 採寸と調査
06. 訪問-4 ヒアリング-朝
07. 訪問-5 ヒアリング-帰宅後と休日
08. 訪問-6 ヒアリング-マンションのキッチン
竣工図作図
プラン検討
プレゼンプラン作成
3Dモデル作成
プレゼンテーション
見積り作成のためのヒアリング
見積準備
電気設備プロット
パーツリスト
見積書作成
打ち合わせフロー、ホームページリスト
見積書の提出、申込

設計編

打ち合わせ1回目
打ち合わせ2回目
打ち合わせ3回目
打ち合わせ4回目
打ち合わせ5回目
打ち合わせ6回目
打ち合わせ7回目
全体の確認と各種リストの作成
照明器具表/見積書作成
打ち合わせ8回目
打ち合わせ9回目
工事開始準備期間
近隣挨拶

施工編

工事開始
解体工事の4日間
解体後現場計測
施工図面作成
墨出し1回目、UB現調、施主現場確認
床下配管・配線工事
置き床工事
墨出し2回目
枠材注文
木工事
家具製作図作成
各種設備工事
電気工事
仕上げ工事
家具工事
設備器具等の設置
養生撤去
クリーニング
残工事
完成見学会、施主検査
その後

ご覧のように先は長い。でもなんとか完成まで辿り着きたいと思う。

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こんにちは。ハンズデザインのホシナタケシです。私たちはマンションのリノベーションを専門に提案と設計、施工を行なっています。

リノベーションという言葉はよく使われるようになりましたが、本当の意味でのマンションのリノベーションの魅力や価値は、まだまだ一般に十分に理解されていないと考えています。

話は変わりますが、つい最近、なぜか高校生の時に読んだ本のことを思い出しました。ロバート・B・パーカーの「初秋」という私立探偵のスペンサーが活躍するハードボイルド小説です。読んだのは30年以上前のことなので細いかな内容は覚えていませんが、スペンサーとともに少年が成長していく過程の描かれ方に感動したことを覚えています。

さて、私たちとPさんは完成見学会で出会い、今から住まいづくりが始まります。マンションのリノベーションの住まいが完成していく過程を丁寧に描いていけたらと思います。僕はスペンサーのようにハードボイルドではないですし、パーカーのようなカッコイイ文章は書けないですけど、マンションリノベーションの本当の魅力と設計の仕事や施工現場の仕事の面白さが伝わるように努力したいと思います。よろしければ最後まで粘り強くお付き合いください。

さあ、次回は相談会。Pさんが我が家にやってきます。

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