03. 訪問-1 竣工図

土曜日の朝。首都高速道路はスムーズに流れている。私たちはPさんの住まいに向かって車を走らせている。家から1時間弱の距離だ。車内ではラジオが流れている。ラジオ局はJ-WAVE。

J-WAVEの朝と言えばラジオドーナツ、略してラジド。J-WAVEの中でも気に入っている番組の一つだけど、だからと言ってわざわざチューニングして毎回聞いているわけではなくて、ラジオをつければいつもJ-WAVEが流れて、土曜日の朝は移動中だったり家の掃除中だから、たまたま毎週聞いている。僕にとってラジオというのは暮らしの様々な局面でそっと流れていて、隙間を楽しいものに変えてくれるもの。

私たちの仕事はとても移動が多い。提案や設計段階でも訪問することが多く、工事が始まれば何度も現場に行かなければならない。自動車で首都圏をあっちこっち移動することを10年以上やってきたので、道にも慣れているし、自動車自体の性能も良くなって最近はかなりアシストしてくれるので、運転そのものは大変ではない。助手席に座っている時は簡単な仕事もできるが、あまり移動時間が多いと設計や会社の管理などの集中が必要な仕事が進まないのが悩みの種だ。

また、平日と土曜日には工事中の現場から問い合わせの連絡があることもあり、完全にフリーになれる日曜日は確実に休日にするようにしているのだが、依頼してくれる皆さんも家のことに時間を作れるのは週末であることが多いので、打ち合わせや相談は土曜日に集中する。遠方の人の相談を受けてしまうと、打ち合わせの件数をこなすことができなくなってしまう。

そんな理由で、仕事を引き受ける時の条件の一つは、車で私たちの家から1時間半以内であること。Googleマップで住所を入力すればすぐにわかる。

今日の訪問の目的は、提案のための竣工図の確認、ヒアリング、現場調査を行うこと。とても重要な内容でボリュームがある。時間にして、全部で3時間以上はかかるだろうか。

近くでパーキングを探して車を停め、Pさんのマンションに向かう。初めての街を訪れるのは楽しい。何か面白いものや美味しそうなものはないかとキョロキョロしてしまうし、何もなくても初めての風景は新鮮な気持ちになる。Pさんの家は最寄りが地下鉄駅だから商店街があるような雰囲気ではないが、小規模のスーパーマーケットや小さなお店、カフェなどが点在していて、公園の緑が美しく、静かな環境だ。

Pさんのマンションが見えてきた。素焼き風のタイル張りの明るい雰囲気の外観で規模としては100世帯無いぐらいだろうか。緑の植栽が綺麗に整えられていて、立派なミモザの木がちょうど開花時期でたくさんの黄色い蕾が揺れている。20年以上経っていても古さを感じない落ち着いた雰囲気で、管理が行き届いていることが感じられる。

マンションに到着し、エントランスで部屋番号を押すと、Pさんがすぐに応答した。一緒に管理人室に行ってくれるとのことで、エントランスで少し待つ。

管理室に行くと、Pさんが事前に管理人さんに竣工図の閲覧について話してくれていて、会議テーブルの上にすでに準備されていた。竣工図は管理室に保管されていることが多いが、管理会社の方でデータなどで管理している場合もあるので、事前に確認しておいてもらえると助かる。

このマンションの竣工図は、意匠、構造、設備・電気の3冊に分かれた見開きA2の大きさで、さすがに年季が入っていてかなりボロッとしているので慎重にページをめくっていく。竣工図のまとめ方や表現は年代や施工した会社によって様々だから、注意深く内容を確認していく。Pさんには終わるまで住まいに戻って待ってもらうことにした。

必要な図面の主なものは下記の通り

  • 概要欄

  • 意匠:平面図

  • 意匠:断面図

  • 意匠:矩計図

  • 意匠:平面詳細図

  • 構造:床伏図

  • 構造:柱リスト

  • 構造:大梁リスト

  • 構造:小梁リスト

  • 構造:壁・床リスト

  • 電気:平面図詳細図(電灯)

  • 電気:平面図詳細図(弱電)

  • 電気:平面図詳細図(報知器)

  • 設備:平面図詳細図(給排水)

  • 設備:平面図詳細図(換気)

  • 設備:平面図詳細図(床暖)

目的の図面を探してスマートフォンで写真を撮る。文字が小さかったり、手書きで読みにくかったりかすれていたりするので、分割して撮影したり、重要な箇所は拡大したりして何枚か撮影する。

下の写真は平面詳細図(換気)の一例だが、正直なところここまで詳細に配管の姿や寸法が描き込まれていることは少ない。それどころか平面詳細図にも関わらず、ほとんど寸法が書いていないことすらある。だからできる限り多くのデータを複合的に確認して現状を把握する必要がある。また、竣工図は貸し出しが禁止になっていることがほとんどなので、その場で閲覧するしかなく、あまり悠長に見ている時間もない。とにかく間違いがないように上記の表の図面の情報を揃えることが重要。

平面詳細図(換気)の例

時々、構造の図面などが見当たらない場合がある。管理人さんが必要ないだろうと判断して出していなかったりすることもあるのでしっかり確認してもらう。それでも無い場合は、管理会社に連絡して別に保管してないか確認する。ちなみに構造の図面は必ず必要で重要な情報。

Pさんを待たせているので迅速に行うが、排水配管ルート、排気ダクトルートはこの後の調査で確認するため、その場で良く見て頭に入れておく。だいたい30分ぐらいかかった。

管理人さんにお礼を言ってPさんの家に向かう。

さあ、どんな住まいなんだろう。

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こんにちは。私たちは日曜日がお休みで、あとは木曜日に休むことが多いですが、状況によって休める時にはできるだけ休むようにしています。

遠方のご相談でも施工会社の方がリモートのデバイスを使うなどして調査や監理の協力をしてくれて、私たちの移動の回数を減らすことができれば可能性はあるんだろうなぁと思いながらも、こればかりは相手の理解が必要なことですので、なかなか難しいのかもしれません。

竣工図には重要な情報がいっぱいです。きちんと調査しましょう。

次回はPさんの奥さんの視点で私たちの初回訪問を書いてみます。


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