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02. 相談会-私たちの家

ベッドから出て、早朝の青白い空気と淡い光に包まれたリビングに向かう。窓の向こうには竹林が朝焼けに照らされ、オレンジ色に輝いている。私たちの大好きな朝の風景。ミニチュアシュナウザーのTen君が猛ダッシュで駆け寄ってくる。毎朝の挨拶である。

起床したばかりでまだぼんやりしていても、毎朝の家事はオートマティックに身体が動く。窓を開けると、ひんやりとした空気が流れ込んでくる。食洗機を開けて中の食器を片付け、朝ごはんを準備する。色々と変遷はあるけど、最近は玄米に黒米、はと麦、押し麦を混ぜて炊いたご飯と納豆と温泉卵、味噌汁のセットに落ち着いている。

今日は土曜日で何組かの来客があり、先日の完成見学会で依頼の話をしてくれたPさんも来てくれる。朝食で使った食器を食洗機に入れてスタートボタンを押し、家の整理と掃除を始める。

私たちの家は1986年に建てられたマンションを2012年に中古で購入し、リノベーションをしたものだ。その後すぐに私たちが起業して以来、予約さえしてもらえれば私たちの暮らしの風景をたくさんの人に見学してもらってきた。10年以上たった今も変わりなく続けている。

我が家の片付けは私たちにとっては慣れたもの。二人で黙々と行う。最近はペースが落ち着いたけれど、かつては本当に毎週末に来客があって大変だった。

掃除と片付け、身支度が終わり、用意しておいた草花を飾り、BGMを選んで資料を準備しているとPさんご夫妻が到着した。

私たちの家のマンションの外観やアプローチはかなり古い雰囲気。エレベーターも止まらないから昭和感のある階段を使うしかない。きっと最初に訪れる人は少し不安な気持ちになるかもしれないけど、外側と内側のギャップが面白いと思ってくれると良いと思う。

ダイニングテーブルの席に座ってもらい少し会話をしたら、私たちの家の中を案内する前に少し説明をする。

「これがリノベーション前の私たちの家の間取りです」この住まいを探していた当時の販売図をPさんに見せる。

当時の間取り図

個別の用途ごとに各部屋が間仕切り壁できっちり区切ってある間取りはマンションらしいと言えばそれまでだけど、かなり窮屈な感じだと思う。玄関、廊下、洗面室、浴室は、絶望的に暗く、狭く、嫌な雰囲気だった。

古い間取り図の隣にリノベーション後の間取り図を並べて、比較しながら見てもらう。

現在の間取り図

この住まいをデザインした時の最初のコンセプトは、マンションてなんか狭くて窮屈で似たような間取りしかできないという先入観があるけど、本気を出せばそんなことないよね、という発想から始まっている。だからできるだけ壁を作らない、できるだけ連続するように、ということを徹底的に意識して設計している。

マンションのトイレには場所を移動できるタイプとできないタイプがある。私たちの家のトイレは壁方向に排水する動かせないタイプのトイレだったので、トイレの位置は変わっていない。床方向に排水する動かせるタイプのトイレだったら、プランは変わっていた可能性もある。キッチンの位置は大きく変わっていないが、2列型にしシンク側がアイランド型になっている。位置が大きく変わったのは浴室と洗面室。明るく開放的で空気のこもらないサニタリーとバスルームを実現させるために大きく動かした。その隣にはベッドルームがあり、トイレを中心に北側をプライベートなスペース、南側をオープンなスペースとしている。

「もう10年以上暮らしていますし、正直なところ、失敗したなぁと思っているところもあるので、あまり目を凝らして見ないで下さい」などと言い訳を言いつつ、Pさんを案内する。

先日のような完成見学会ではまだカーテンもテーブルやベッドなどの家具もない、全く生活感がない状態だったので、今日は全く異なる体験になると思う。10年以上の暮らしを積み重ねたリアルな生活の風景。完成見学会では自由に見てもらっていたが、ここでは説明しながらゆっくり全体を一周する。

まずはリビングでアメリカンブラックチェリーの無垢フローリングの床を見てもらう。次に天井。元々の天井を撤去し、コンクリートにペンキを塗っただけの状態、その時のライティングレールの感じを見てもらう。

壁は白洲壁という左官仕上げ。今はあまり積極的に採用していない。雰囲気や機能性は良いが、脆すぎて暮らしにくい。

玄関土間を横切ってトイレへ向かう。玄関土間には一部分ラグが敷いてあり、その上をスリッパで進む。トイレの前で引戸の説明をする。引戸は場所を取らないし、開けたままにしやすくいからお掃除などの時も作業がしやすくなるし、強風でバタンとしまってしまう危険もないなどのメリットがあるので、できるだけ引戸で提案するようにしている。ただ、どうしても隙間ができてしまうので、密閉性の点ではスイングドアより劣るということも話す。トイレにはもちろんドアが必要だけど、そのほかのスペースではそもそもドアが必要かどうかもしっかりと検討する必要がある。

プライベートスペースの床は節無しの杉の無垢フローリング。足裏の肌触りは素晴らしいけど、とにかく傷だらけになる。

寝室の前のスペースは、元々自宅で仕事をするための場所として考えていて、実際に2年ほどはそうしていたけど、仕事が家の中にあるのがあまり良くないと考えるようになり、今は書斎になっている。そこにある外の公園を眺められる窓辺はコキンメフクロウのQのための場所になっている。

ベッドルームは床から天井までの本棚でゆるく仕切られているけど、壁はないから空間は繋がっている。シングルサイズのベッドが2台並べてあり、周りを歩ける程度の幅があるだけの決して広くないスペースだが、大きな窓もあり、壁で仕切られていないので閉塞感も空気がこもるような雰囲気もない。

洗面の手前のスペースには木の棒がライティングレールから吊り下げてあり、洗濯物の室内干しをする場所になっている。

洗面の入り口は天井からカーテンが下げられているだけでドアはないから、大きく開かれている。鏡のついている壁も天井には届いていなくて、寝室と天井がつながっている。

浴室はハーフユニット。浴槽と床、洗い場の膝ぐらいの高さまでがユニットになったタイプで、それより上は在来の方法で、壁はタイル、天井には青森ヒバを使っている。窓は掃き出しの大きな窓の前に造作壁を作り、そこに木製の片引き窓を設置している。やはり浴室に窓があると、明るく、風通しも良いので気持ちがいい。

洗面室からキッチンにつながる通路は食器棚とパントリー、冷蔵庫、ゴミ置き場がある。家のどこからも視線が届きにくい場所なので、ざっくり使いやすくしている。

キッチンには食洗機と電気オーブンがビルトインされているので、その感じを見てもらう。2列型のキッチンはコンロ側2m+シンク側2mの大きさで、全部引き出し収納になっているため、かなりの収納量がある。引き出しの中の様子も見てもらう。

私たちの家は空間を隔てる壁もドアも最小限で、空気も視線も端から端まで自由に通り抜ける。南北にバルコニーと大きな窓があるので風通しが良い。72㎡が連続した空間は空調をのことを考えても広くはない。間取りによるが、私たちの家の場合、夏はリビングにあるエアコン1台+サーキュレーター1台、冬はリビングにガスファンヒーター1台、寝室側にデロンギ1台で室内全体が快適に空調されている。

完成見学会や私たちの家など、私たちがリノベーションを行った住まいをよく見てもらうことはとても重要なことだと考えている。こんな雰囲気の住まいで暮らしたいと感じるか、何か違和感があるかを肌で感じてもらい、相談相手を判断する上で大切にして欲しい。

テーブルに戻り、具体的な相談へと移る。Pさんはリノベーションを計画している住まいの間取り図を見せてくれた。

Pさんの家の既存の間取り図

間取り図を見ながら簡単に話を聞く。建物は23区内。南側に道路を挟んで大きな公園がある恵まれた立地。15階建ての5階で、居住中の現在の住まいで計画している。居住者はPさんご夫妻と犬1匹で、息子と娘は独立している。夫妻とも50代前半、マンションは83㎡で築21年。新築時から住んでいて、生活圏の住環境や窓からの眺めも気に入っていて、できるだけ長く住み続けたいと考えている。

私たちは、リノベーションと相談の進め方、お金のこと、スケジュールのこと、施工のことについて説明する。
(この内容については今後詳しく書くことになると思う。)

Pさんは、予算については住宅ローンの借り換えと自己資金で目処をつけていて、スケジュールについては特にマストな期限は設けないが、当然、早ければ嬉しいとのこと。

様々な質問や確認に答えながら説明を加えていく。じっくりと話し合うことで、リノベーションに必要なお金、時間、労力などをしっかりと理解してもらえたと思う。また私たちも、Pさんが私たちに依頼してリノベーションをする理由を深く知ることができ、期待を感じることができた。お互いによく理解し合うことができ、スタートする決心がついたと感じる。もちろん提案はこれからだから期待と不安が混ざっているのかもしれない。頑張りたい。

これで正式にPさんに提案することになった。次回は私たちがPさんの家に訪問して調査とヒアリングを行うことになる。

さて、Pさんの今の住まいはどんな暮らしの風景なのだろう。楽しみだな。

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来客の多い土曜日の朝は、掃除に準備に大忙しです。

Pさんとの相談がスタートして一気に具体的になってきました。

次回はPさんの家に訪問します。

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