天使にラブ・ソングを〜魂を動かすもの
久しぶりに夜更かしした。
私の大好きな映画「天使にラブ・ソングを」
金曜ロードショーでテレビ放送されており、最初から最後まで目が離せないのはいつものこと。
なんたって、ウーピーゴールドバーグ演じるクラブ歌手・デロリスがたまらなくチャーミングなのだ。
自由奔放でとにかく明るい。その表情はいたずらっ子の少女のよう、一眼見てもう目が離せなくなってしまう。
彼女は偶然目撃した殺人現場の犯人等から身を守るため教会に逃げ込み、修道女(シスター)に変装し身を隠す。
教会には修道院長をはじめ様々なシスターたちがおり、教会での厳格な日々が始まる。
お祈りから始まり質素な食事、断食、農作業、軽作業、掃除、そしてお祈り。自由奔放なデロリスからしたら教会は地獄!
クラブ歌手として世俗にどっぷり浸かってきた彼女にしたら、当然だろう。
何度か逃げ出そうとするも、デロリスは教会に少しずつ馴染んでいく。
というのは、同じ教会の修道女たちが彼女に親近感を覚え、教会に溶け込めない彼女に寄り添い力になろうとするから。
私はデロリスの言動に親しみと可笑しさを感じつつ、自分の子供時代を思い出していた。
私の家にはイエス・キリストの絵が飾られていて、食前には父が祈りを捧げていた。この祈りが終わらなければ食事が始まらない。
こちらはお腹が空いていて早く食べたいのに、何をぶつぶつ唱えているのか。どうでもいいではないか、そんなこと。
幼い私はいつもそんなことを考えつつ両手を組み、それらしいポーズをとってやり過ごしていた。とにかくお腹ペコペコなんだから食べさせてよ!
(デロリスとまったく同じ!)
でも、なんとなく、祈りの後は少しだけ優しい気持ちになるような気がした。
デロリスは聖歌隊に入り、指揮者となり、ひどい音痴でまったくハーモニーとなり得なかったシスターたちを導いてゆく。
シスターロバート。
彼女は修道女たちの中でも目立って若い。誰よりも力強く歌えそうなのだが、声がか細く、聖歌隊のメンバーとしては頼りない存在だった。
だが、彼女の心の内には光り輝く原石があった。
誰かのために奉仕したいという気持ちが強く、自分にしかできない何かがあると確信していた。それが何なのか当人もわからなかったが、歌の練習を重ねていくうちに原石は輝き始める。
デロリスが指揮者として聖歌隊を率い、初めて登壇した日曜日。
シスターロバートは完全に変わっていた。
声が出るだけではなく、自由に羽ばたく鳥のように歌っていた。感じるままに、心のままに。
他のメンバーも同じように、変貌を遂げていた。ハーモニーが教会中に響き渡り、歌声が教会の外まで滑り渡る。教会とは無縁の生活だった人々が歌に誘われ教会内へやってきた。
歌い終えると拍手喝采。
教会内の皆の心が、大きな幸福感に包まれていた。
人は変わる。
心から望めば、本当に手にしたいものに触れることができる。
私はこのシーンにいつも、心揺さぶられる。
厳格な修道院長は俗的な歌い方に眉を顰めたが、デロリスは何より、聖歌隊メンバーの喜びように感動していた。
デロリスはもはや聖歌隊メンバーを導く存在として欠かせなくなり、彼女自身もやり甲斐を持って真摯に、歌という奉仕に取り組んでいた。
物語の後半、犯人等に追い詰められ絶体絶命のピンチに陥るが、修道院長をはじめ聖歌隊メンバーたちが彼女を匿い、助けるために勇気を持って立ち向かう。
シスターたちの一生懸命な姿と、犯人等とのやり取りの可笑しさはこの映画ならでは。ハラハラしつつ楽しさが増す。
誰より一際厳格で、ルールを守ることを第一に生きてきた修道院長は、最後にとうとうデロリスと心を通わせることができた。
ルール。
守らなければならないものとして、誰もが心に、何かしらの誓いを立てているかもしれない。
無意識にでも。
でも本当に、それは必要なルールなのかしら。
私は、夜9時までに寝なきゃと思ってこの映画を録画していたのだけど、夫が、たまには夜更かしもいいじゃないかと梅酒を持ってきた。
小さなガラスコップに氷を入れ、薄めた梅酒と共に、物語を最後まで楽しむ。
そうだね、デロリスのように、もっともっと人生楽しんでいいんだよね。
「なに縮こまってんのよ!ほら、もっとのびのびしたら?」
なんて、もし私の隣にデロリスがいたら肩の力が抜けるくらいチャーミングな笑顔で、ワインを片手にダンスを始めるのかしら。
天使の歌声は、厳粛神聖なメロディであろうと世俗的なメロディであろうと本人たちが心から歌を楽しみ、歌によって愛を届けたいと真剣に願えばその想いは見えない波動となり、人の心を動かす。感動する。
愛に満ちた世界というのは、こういうことを言うのだろう。
もし本当に神様がいるのだとしたら、きっと天使たちの楽しい歌声に誘われ舞い降りてきているはずだと、私は信じて疑わないのだった。
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