渋い楽器、その名もバスクラリネット
私が吹奏楽部だった事をいろんな方に伝える度に必ず「何やってたの?」と聞かれる。
その時に「マイナーなんですけど…バスクラリネットっていう楽器やってました。」と言うのだが、だいたいその時の反応でその先の会話を易しくするかコアにするか見極められるのでそれに関してはありがたい。
私はバスクラリネットという楽器をやっていた。
ご存知だろうか。クラリネットは童謡「クラリネットをこわしちゃった」でも有名だろう。棒状で黒色をした木管楽器で色んな音階を慣らすための銀色のキーが至る所についていて、とても素朴で柔らかい音が出る。ただ、バスクラリネットは色はクラリネットなのだが、フォルムはサックスに近い。 なんてったってサックスの考案者アドルフ・サックスがバスクラリネットの形を考案したというのだからそうなるのも納得だろう。そして長い。座高が高くてもピアノ椅子に座らないと口が届かないくらいだ。
中学で吹奏楽部に入り楽器を決める時、私はもともとクラリネット志望だったが、案の定花形楽器なので人気があり抽選になってしまった。その時顧問に「なれなかったらどの楽器がいいか」という事も聞かれたのだが、私はその時初めてバスクラリネットの存在を知ったのだ。
「クラリネット」ならなんでもいい。でももちろんクラリネットになるつもりで選んだら、見事に一人外れてバスクラリネットになったのだ。
正直落ち込んだ。バスクラリネットは名前のとおり「バス」だ。低音だ。基本的になぞるのはベースライン。メロディにはほぼ恵まれない。
ただ、メロディが吹ける時はあってもそれ以上に悲しかった事がある。どれだけ練習しようにも、親にはどの音を吹いているのかわかってもらえないという事だ。努力が伝わらないのはとても悔しかった。
ここのメロディーなら目立つだろうと教えても、なんのことやら分かってもらえなくてたいそう嘆いた。
ソロでマイクを取るチャンスがあるサックスやクラリネット、トランペット達をどれだけ羨ましく思った事だろうか。
けれどある時から、ベースの面白さに惹かれるようになった。和音の中心としての役割、推進力を出す役割、いろんな面白さがある事に気付いた。
バスクラは地味で素朴な顔をしながら、メロディも裏旋律もこなせる甘い音や怪しい音も出せるとても色気ある楽器だ。150万円もするだけある。
何より先輩がバスクラを吹いている事を誇りに思っていたし、その姿がカッコよすぎたのだ。そこで目が覚めた。
そうして外から見たカッコよさばかりに気を取られすぎていた私は、内なるカッコよさを見つけてしまったのだ。(若干厨二病くさい文になっている事はお許しいただきたい。)
魅力に気づいてからはしっかり自分がそれを出せるように練習するようになった。ここに楽しさを見出せたことは自分にとってとても大きい。
私はバスクラリネットが好きだ。この楽器を吹いていた事を今だに誇りに思う。
だからいつかお金が貯まったら買いたいなあ、と漠然と夢見ている最中だ。
読んでくださりありがとうございます。 少しでも心にゆとりが生まれていたのなら嬉しいです。 より一層表現や創作に励んでいけたらと思っております。