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【嫌ですか?】自分の授業を見られること

授業見学をされたことはありますか。

私は日本語学校で働いていますが、きっと他の教育現場でも授業見学は行われていると思います。その名の通り、ほかの先生の授業を観察するというものですが、その大きな目的は、他の教師の授業を見ることで授業を改善することです。ですが、そうはわかっていても、「自分の授業を見せたくない」教師は少なからず存在します。

今回は、そんな授業見学に対する教師の反応の分析と、見学の意義について考えます。


自分の授業を見られたくない心理

分析

さて、みなさんが教員で、ほかの先生に見学される側だとしましょう。
「来週、見学させてもらうね」と言われたら、どう思いますか。

・正直、嫌だ
①悪い授業をしていると思われそう
②作り上げた授業技術を盗まれたくない
③見られるのは緊張する

いいですよ
④授業に対してフィードバックがほしい
⑤見られるだけなら邪魔じゃないから
⑥クラスの様子を見てほしい

包み隠さずに言うと、私は見学が嫌でした。①悪い授業をしていると思われそう、と感じていたからです。私は授業が下手だと自覚していましたし、クラスの雰囲気は崩壊していました。見学すれば、先生方に「こんな授業の人に任せていたのか」「クビ!」とヒヤヒヤしていました。そのせいもあって、③のように緊張もありました。

私のような①タイプは、新人の教師に多いのではないかと考えます。まだ授業や学校に慣れておらず、教員としての自信があまりないからです。

授業技術を盗まれたくない

ただ、②の先生も結構いらっしゃいます。これは日本語業界の特徴なのでしょうか。

日本語教師は、約7割が非常勤というのは知られた話です。みなさんがどのような印象を持たれるかわかりませんが、私は非常勤が「教師として」劣っているとは全く思いません。非常勤だからこそ、多様な教育機関を掛け持ちし、深い知識と経験を持つ方はたくさんいらっしゃいます。事実、専任だけで成り立っている学校はほとんどないでしょう。
しかし、このように経験を買われる日本語教師の世界だからこそ、自分が苦労して作り上げた授業技術を盗まれたくないという気持ちが生まれるのです。

私があるベテランの先生に授業見学を申し込んだ時、断られたことがあります。その理由はまさに、ワザを知られたくないというものでした。
あるとき、私はその先生にメッセージをしました。経験豊富で、学生からも教師からも評価が高い方だったので、ぜひ見学したい、とお願いしました。断られたときも「非常勤だから」と書かれており、それほどその文言に意味は考えていませんでした。
ただ、そのやり取りがあった次の週、学校へ行くと、私がその先生に見学を頼んだことは、教師陣に知られていました。先生は、私が見学を申し込んだこと、そして自分の授業を見せたくないから断ったということを、職員室で話していたそうです。その際、ほかの先生方は「見学させてあげたほうがいい」と伝えたそうですが、聞き入れられなかったとか。

長年日本語教師として積み上げてきた方には、このように授業見学を嫌がられることが多々あります。それは、かつては今より「自分でなんとかする」風潮があったからだと考えられます。
新人のときの、右も左もわからず苦労した経験を経て今の授業にしたのだから、簡単に見せるわけにはいかない、ということです

気持ちはわかります。
私自身、今の授業スタイルはやっと作り上げたという意識があり、悩んだ時を乗り越えた賜物たと感じています。
ただし、授業を見せないことは、日本語業界への大きなデメリットをはらんでいます。言い換えれば、授業を見せるだけで、業界にはメリットがあります。加えて、授業を見せた教師へのマイナス面はほとんど存在しません。

授業を見せる業界全体へのメリット

大きく分けて、教師と学生の双方に利点があります。

【教師】授業の質が上がる

教師は、普段は囲われた環境で授業をします。学生以外に見る人はいませんし、授業後にメモ程度の引継ぎを書くにしても、自分が上手くできなかった点を隠すことはできます。
他の先生の授業を見たり、自分の授業を見られたりする経験がなければ、自分の中で定まったやり方を変えられないことになります。そしてその場合、教師が質の悪い授業をしていても、改善する方法はありません。

言葉を選ばす言えば、授業が下手な先生が下手なまま時間をかけ少しずつ改善するより、上手い先生のコツを掴んた方が上達が早いんです。上手い先生の授業を見れば、この好循環が生まれます。

授業が上手くなる➡教えるのが楽しくなる

加えて、下手な授業を続けていれば、教師自身が追い込まれることもあります。実際、私は授業ができないことで「辞めたい」と思うまでに苦しんだことがありました。

そんなとき、授業見学は特効薬です。
スランプに陥っていても、授業が上手な先生のやり方を見ることで、自分に取り入れられるヒントを知ることができます。

ワザをまねされるのは嫌、と思われるかもしれません。
しかし、そのワザは共通価値だと考えます。

ベテランの先生の技術をまねしたところで、その先生と全く同じようにできるわけではありません。質問の仕方、プリントの配り方、ホワイトボードの使い方… そのすべては、その先生に合うように作られているからです。見学者は、そのやり方を取り入れ、何度か授業を繰り返すにつれ、徐々に自分に合ったものと変化させていきます。

まねされるのは名誉です。
上手だと思うから、その先生の技術を使ってみるのです。そもそも、参考にするものがない先生を見学したら、まねすることもありません。加えて、まねした教師が、良い授業をするようになり、評価が高くなったからと言って、苛立つこともありません。その教師は、見学したことで得た技術だと深く理解しているでしょうし、見学した先生を尊敬するはずです。

【学生】学力が上がる

学生からしても、良い授業のほうが学力を上げることができます。
わかりにくく教えられても、試験当日や実際の使用場面で困るでしょう。そして、クラスの担当教師や学校に対して不満を抱くようになります。

見学によって質の高い授業をする教員が増えれば、学生も一回の授業ごとにきちんと学習することができ、余裕が生まれます。

私が働いているときには、ある先生がうまく教えられなかった授業を、もう一度別の先生が教えなおすということがありました。これは、学生にとっても学校にとっても負担が大きいものです。

お願いします、授業を見せてください

授業は、少しずつなら上手になっていくでしょう。しかし、それには膨大な時間がかかります。教師も学生も苦しむその時間を短縮することは、日本語教育の全体の質を上げることになります。

新人のときに苦労した経験があるなら、そしてそれをもとによい授業を完成させたのなら、それを見せてください。
ただそれだけで、業界全体が救われるのです。

悪い授業と思われそう、という人へ

私もそうです。ですが、そんなに考えすぎないでください。
自分の授業が上手くなるのは、授業を客観視し、その弱い点を改善したときです。そしてそのためには、

・自分の授業にコメントをもらう
・先輩の先生の授業を見て、いいところを見る

が一番手っ取り早いです。
いろんなことを言われた、自分はダメダメだった、と思う必要はありません。

業界全体にも教師の成長にも、授業見学は欠かせません。
(意味のない非難や、授業者に迷惑をかける観察は言語道断ですが)

今後、授業見学がみなさんに大きな成長をもたらしますように!

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