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#短編小説

異星人とペティナイフ #月刊撚り糸

異星人とペティナイフ #月刊撚り糸

まさか押し倒す側になるとは思わなかったが、見下ろした佐竹の白いおでこが意外にも優越感を刺激して。

「ちょっと、可愛く嫌がってみて」
「突然の無理難題だね。そんな高等テク持ってないよ」

 いつも笑顔を崩さない佐竹の呆れたような、困ったような表情に征服欲まで掻き立てられる。これは癖になるな、と思いながら何気なく髪に触れると、佐竹が私の肩を押して上半身を起こした。

「なんだ、嫌なの」
「好きな子に

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噛みたい、噛みたい

噛みたい、噛みたい

 願い事は二度唱えること。
 小二のときに行った初詣でお母さんに教わってから、私はずっとそうしている。
 学校からの帰り、前を歩いてくるスーツの男の人とぶつかった。駅前の大通り沿いを流れる川には橋がかかり、街と街とを結んでいる。通勤・通学でごった返す夕方五時頃のことだった。手元のスマホに気を取られていたのは男の人のほうなのに、眼がぎょろりとこちらを向くから、私は小さくなって道の端を歩く。泥と吸殻の

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『君の舌を撃ち抜いて神』

 夜中三時まで飲んで騒いで締めにカラオケ行くかって小さな橋を渡ってるときについ気が大きくなって友達のスマホを星のない曇天に放り投げ、生活排水の泡立つ川でふたり水あそびをした。川べりに腰掛け掌サイズの死んだ最新ガジェットを握りしめる友達と暗いだけの夜空を見上げながら、びしょ濡れの箱の中で生き残った選ばれし煙草をふかす。

「あー、あと45か月残ってんだけど」

「お前の寿命?」

「ケータイ代だわ」

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寺が燃える

寺が燃える

寺が燃えている。
炎が寺の全てを包み込む、大きな火柱となっている。

一報を帰宅途中に、妻からの電話、車中で聞く。自宅近くの寺が火事。自宅方向を見ると大きな煙が立ち昇っている。電話越しにサイレンが響く。車の周りにも現場に向かう消防車が。

アクセルを踏み込みたいが、帰宅ラッシュでそれはかなわない。

地方の小さな街にある自宅は寺町と言われる地域にある。向いも左隣もお寺さん。この辺のお寺は住民と緩く

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夕焼けに煙る【短編小説】#月刊撚り糸

夕焼けに煙る【短編小説】#月刊撚り糸

涙が出そうになった。ヤマさんが吐き出す煙草の煙が目に染みる。煙の中にいるのは嫌いじゃないけれど、閉め切られた車内は暖房が効きすぎて、すこし息が詰まる。横目で覗き見てみると、吸っている銘柄がセブンスターで、昔から変わっていないことに驚いた。一途さはこういうところにも表れるものなのかもしれない。

「窓、開けてもいい?」わたしが尋ねると、
「ごめん、煙たかった?」そう言って、ヤマさんは視線を前に向けた

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枯れ井戸の底

枯れ井戸の底

「枯れ井戸の底」

 大江戸線の車内で見つけた対象が、新宿で降りた。すばやく全身に目を走らせて、服装を脳裏に焼き付ける。これといって特徴のない短髪、濃いブルーのシャツにアウトドアブランドの黒いリュック、黒のスキニーパンツと白いスニーカー。顔は見えない。しかし彼が眼鏡をかけていることを、私は知っている。
 案内板を見ているふりをしながら、目の端で対象の動きを追う。ゆったりした歩調で歩く彼がエスカレー

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アイオカさん

アイオカさん

何を捨てているんだろう。
何で捨てるふりしてるんだろう。
何で、こっちに気づかないんだろう。

そういう人なのだ。アイオカさんは。
コーヒーマシーンから出来上がりを知らせる音がして、コンビニの外に出た。
信号待ちをしていると、アイオカさんもコンビニから出てきて私の後ろで立ち止まった。コーヒーが熱い。持ち手を替えたいのに、どうしてか我慢する。右手が熱い。熱すぎる。
信号が青に変わる。人々に巻かれるよ

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凍えるほどにあなたをください

凍えるほどにあなたをください

【カクヨムの『同題異話SR』という自主企画のために、指定されたタイトルに沿って書かれた作品です】

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 どこでもいいから、ふたりで寒いところへ行こうと思った。

 たまたま入った駅前の古い食堂のテレビは、未だにブラウン管で画面の色がところどころおかしかった。そこから流れるニュースは、今年一番の寒波がやってくると告げていた。
 幸先がいいと思った。順くんは暑いのが苦手で寒いのが

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