伊吹虎の尾

日暮硯に向かいてよしなしごとをそこはかとなく書き綴りたいと思い、今ここに立つ。

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日暮硯に向かいてよしなしごとをそこはかとなく書き綴りたいと思い、今ここに立つ。

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紫煙

 クリーンな世の中になってしまい、煙草を目にすること自体が減っている。「煙草は好きだけど、後に残る臭いが嫌なんだよね」こう思う人は多いだろう。 しかし、煙草を吸う行為、それにまつわる仕草。そんなに悪いものではない。 「あ、煙がそっちいっちゃうね。ごめんごめん」そういうとボスは雨の降る庭の端へ歩いて行った。その場に煙草の煙が漂っている。さっきまで雨の庭に出て薔薇の新芽の手入れをしていた私に、「煙草はやめましたが、流れてくる煙草の煙は好きです」と、彼は言った。吐き出した煙では

    • 雷雨

      子どもの頃、ほぼ毎日夕立がきた。兄と留守番しているときに、雷がなるのは怖かったが、そのうち慣れた。毎日のように夕立が来る。家には自分と兄と猫しかいない。怖がっていてもしかたがないのだ。雷鳴にも稲妻にもおそれもせずむしろ好きになった。光ってからどのくらいで雷が鳴ったらどの辺りに雷雲があるのか、あとどれくらいで夕立が止むのか、予想したりして遊んだ。 夕立が上がると、地面の熱が冷やされ涼しくなった。それも好きだった。 晴天俄かにかき曇り、黒雲に覆われ、さぁっと冷たい風が吹き始める

      • 強くなる証

        合気道を始めて8年目になる。 始めた頃は、よくわからないなぁ。というのが感想だった。 これまで、いろんな武道や格闘技をやってきたので技が決まった、という手ごたえのようなものを感じやすかったのかもしれない。 それでも、稽古を続け、少しづついろんなことができるようになりそろそろ級も上がってきたぞ、という頃未曾有の感染症災害に見舞われ、稽古も中止。 いろんな紆余曲折がありながらも、稽古を続け、黒帯になることができた。続けてよかった、と心から思う。 これも、共に切磋琢磨する仲間や時に

        • お着物生活

          昨年より、普段に着物を着ようと思い立ち実家のたんすからあれこれ出してきた。 毎日着物を着て生活しているお仲間もでき、色々参考になる。 どこかよそ行きのような、かしこまったものだと思われがちだが、普段に着てみると意外に生活するに困らない。冬は温かいし、腹部に幅広の帯を巻くので背筋も伸びる。 季節を先取りした柄が、帯の格が、と細かいルールもとりあえずおいておいて、足元はスニーカーで着こなす友人をみていると「ま、いいか」という気になる。 何着てもあんまり決まらなくなった洋服たちか

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          雨の日なので クリーム色に雨だれ模様

          雨の日なので クリーム色に雨だれ模様

          山に入る

           朝早く、車に乗り、西へと向かった。途中、渋滞があったが県西部の山間部に到着したのは10時だった。   早朝まで降っていた雨は上がっていたが、山からは靄がたちのぼり紅葉しはじめた山を薄っすらと包み込んでいた。 「晴れているときも素晴らしい景色だけど、こういう雨上がりもいいですね」運転席からボスが言った。街では雨上がりでも靄はかからない。 「私の生まれたところに似ています」 窓からぐるりと囲む山々を見ながら私は言った。秋の雨上がりの、なんということはない風景だ。子どもの頃はよく

          白くて小さな女の子は冷たいと思ってた~ベツベツ~

           引っ越しはしたが、学校が始まるまでは実家に戻っていた。なんのための引っ越しだったのか・・・。  入学式には母と二人で電車で行った。初めてスーツを着てパンプスを履いた。化粧は薄くしたような気がする。伸ばしかけの髪はどうにもならないのでカチューシャをした。紺ブレでカチューシャでまるで赤名リカのようだ。  女子の多い高校から、女子しかいない学校へ進学した。どこを向いても女子しかいない。私の様にスーツを着慣れていない娘もいれば、パステルカラーのスーツを着こなし化粧もしている娘も

          白くて小さな女の子は冷たいと思ってた~ベツベツ~

          傷めていた右肘がようやく通常営業に。自転車でこけてから2ヶ月…。かかったなぁ。ズボン越しで擦りむいた膝に傷は消えない。これが老いというものか。老いすらを楽しむものさ…。英国人じゃないけどね。

          傷めていた右肘がようやく通常営業に。自転車でこけてから2ヶ月…。かかったなぁ。ズボン越しで擦りむいた膝に傷は消えない。これが老いというものか。老いすらを楽しむものさ…。英国人じゃないけどね。

          白くて小さな女の子は冷たいと思ってた~ハジマリ~

           今から四半世紀以上前、まだ弾ける前のバブルで世の中浮かれていた。長い髪をなびかせて踵の高い靴を履いてソフトスーツの男がスポーツカーで迎えに来て輝く夜の街で高いお酒をあけて…。私も大人になったらそんな遊びができるようになるのかな、と思っていた。しかし、周りを山に囲まれた田舎では無理な話しだ。そんなのテレビの中のお話し。  黒い制服で高校の窓から青い山脈を見ながら、いつも頬杖をついていた。耳の上まで短くしていた柔らかいねこっけを彼に言われて伸ばしていた最中だった。黒い制服は事

          白くて小さな女の子は冷たいと思ってた~ハジマリ~

          麗しのカバーガール

           君は天然色。  あの頃の私たちは、みんな研磨される前の原石で、それでも今よりも輝いていた。  中学生の頃、学校の先生から借りたカセットテープにあった大滝詠一氏の君は天然色。四方を山に囲まれた田舎の中学生の脳天をしびれさすには十分だった。ジャケット写真の明るいアクリル絵の具で描かれたリゾートホテルのプールサイド。その絵の中で大人になった自分を足してみたりした。  まだ、恋に憧れるだけの、本当の痛みも喜びも悲しみも知らなかった、それでいてこの世のすべてを知ったような時を過

          麗しのカバーガール

          小童 一つ年をとる

           10年前の曇りの日、この世に生を受けた小童。標準より小さく生まれ母子同室の病院で産後の経過観察のためなかなか一緒の部屋になれなかった。二人目、ということで産後の指導も特になくのんびりしたものだったが、小さく生まれたせいかうまく乳が飲めず胸が張って熱を出しだりもした。術中の出血がひどく貧血になり、毎日の鉄剤の点滴、毎日の血液検査で血管に針を刺されすぎ看護師さん4人がかりで検査をしてくれたりした。小童の世話よりも、そういう処置が一人目より体に堪えた。そんな時、生まれるときにオペ

          小童 一つ年をとる

          小さきものの苦悩、あなたは考えたことがありますか

           そんなに気にしたことはないが、人よりも背が低い。ロングスカートも丈の長いワンピースも基本引きずるしジーンズは裾上げ必須。車の運転のシート位置は常に一番前。それでもあまり気にせず生活しているのだが、困ることが一つだけある。  それは、会社のおやつ置き場に手が届かなくなることがあることだ。  冷蔵庫の上のスペースにツッパリ棒で棚を作ってコーヒーやおやつを置いているのだが、棚の高さが標準で190あり、手を伸ばし切ってやっとかごに手が届くのだ。おやつのたびに伸び運動をしていると

          小さきものの苦悩、あなたは考えたことがありますか

          右肘を傷めてから3週間が過ぎたが痛くなるばかりで、一向によくならない。これが加齢というものか。病院に行ってもきっと結果は同じだろう、ということで行かずに3週間。いつまで続くかなぁ…。またですか?って言われそうで気持ちを言えないのも憂鬱。悩み多き年頃ですわ。

          右肘を傷めてから3週間が過ぎたが痛くなるばかりで、一向によくならない。これが加齢というものか。病院に行ってもきっと結果は同じだろう、ということで行かずに3週間。いつまで続くかなぁ…。またですか?って言われそうで気持ちを言えないのも憂鬱。悩み多き年頃ですわ。

          さよなら、オイルちょっぴり漏れ太郎

           私が今の職場に入社させてもらった5年半前から、その社用車は駐車場にあった。白いミラとシルバーのミラ。どちらも外見はかなりやれており、エンジンも足回りもそこそこがたがただった。エアコンも「風出てる?」くらいのもので涼しさのかけらもない。おまけに窓は手動である。助手席側の窓を開けるのも一苦労だし、集中ドアロックなどという便利機能もなく、そのくせ鍵穴は運転席側にしかない。走る。ただ走ることを目的とした車。そういうとかっこいいスポーツカーの様に聞こえるが、坂を登るときは息継ぎをして

          さよなら、オイルちょっぴり漏れ太郎

          先生には見えとらんのやろうか

           合気道を習い始めて4年がたった。順調にいけば今頃黒帯の審査のため、規定の技、指定技、自由技という乱取りを稽古しているはずだった。乱取りは10本程度の技を連続でかけるもので、かけるよりも実は受けるほうがとても大変だ。そのために体力付けないとな・・・と楽しみにしていたものだ。が、新種のウィルスのせいで世の中がすっかり変わってしまった。人との距離をあける、接触を減らすということで私の師事している同上では体術が禁止となり合気杖術の稽古になった。稽古ができるだけでも十分だ。と思おうと

          先生には見えとらんのやろうか

          曇天の午後

           今日は朝から、櫛の手入れをしようと決めていた。  髪のために木製の櫛を使っている。普段使いは桃の木で作った櫛だが、祖父母の形見の木曽のお六櫛、父母からの木曽の柘植櫛、この春贈られた京都 十三やの櫛を仕上げに使う。十三やの櫛は滑らかで木目が透き通るように美しい。  ティッシュに椿油を湿し汚れを落とすように櫛を拭く。汚れを落としたらラップに髪を敷き椿油をしみこませる。その紙に櫛を一つづつ包みさらに油を含ませる。椿油でパックする要領だ。そのまま置いておく。  午後、一通りの

          曇天の午後