優しい心はどう育まれるか
「やさしさ」「思いやり」とは、人間を人間たらしめるもの、いわゆるhumanity(ヒューマニティ)そのものだ。
時にそれが、IBと言えば英語であるとか、海外の大学に進学するためのパスウェイであるとかいう誤解をする人も多いが、
「教育を通して、より平和な世の中を築く」(Education for a better world)を使命とするIB教育において、
IB教育がもっとも大事にしているのは、アカデミックな成功よりも、Whole person, 人間性の教育だ。
IBの学習者像に示されている10の人物像は、どれも欠かせないものであるが、個人的には、その中でも、Caring(優しい心をもつ人)は、幼児期から育みたいもっとも大事な人間性だと考えている。
日本の賞賛されるべき文化のひとつとして良く言われる「おもてなし」の精神とは、
つまり相手の気持ちをおもんばかって、配慮することであり、かつその配慮を、決して押し付けがましく表すのではなく、いかに相手に気を遣わせないように考えるかという洗練された精神性だ。
うちの生徒たちにも、私が願うのはとにかく、優しさをかねそなえた人物であることだ。
以前も紹介したかも知れないが、集会などで子どもたちに話す機会がある時は、
「勉強が得意でなくてもいいけれど、自分が乗っているバスや電車にお年寄りや身体の不自由な人、小さな子連れの人などが入ってきたら、瞬時に立って「どうぞ」と席を譲れる、サニーサイドの生徒はそういう子でいてね」と伝えている。
そして本当に全員がそれが出来る学校が作れるのなら、私はそれ以上望むものはないかも知れない。
もうひとつ、これも過去の記事で紹介したことがあるが、海外の校長先生から聞いた話で、ある父親が保護者面談に参加した際、最初に担任に聞いたのは、「うちの子は、他の友達にやさしくしていますでしょうか?」ということだったというものだ。
学校と、そして保護者の目線がどこかでしっかりと重なり合っていればきっと子どもたちにそういう育ちをみることが出来る。
それにしても、「優しい心」を育てるにはどうしたら良いのだろう。
ひとつ興味深い話がある。
うちの先生たちも当然のことながら、IBの目指す人物像を出来るだけ生徒たちに注目させ、意識させることを考えていて、
かつて、Caringを促進しようと、
「やさしい行動が出来た子はハート型のステッカーがもらえる」というのを試した事がある。
ところが、
始めてすぐに幼稚園児が、そのステッカーほしさに、「わざとらしく」「あえて先生の前で」、Caringな行動を取るようになったのだ。
今となっては、予想がつきそうな結末であったが、その頃は先生たちもとにかくCaringなアクションを促そうと考えついたアイデアであった。
やさしい気持ちよりいわゆる「承認欲求」が勝ってしまって、優しさがゆがんでしまったのだ。
「優しくなりましょう」と促して優しい人間が育つものではないということだ。
それでは優しい心はどのように育まれるのか。
こういった事に関する研究や本もたくさんあるが、実は優しさのベースになるのは「共感力」であると言われている。
[共感力]とは、
例えて言えば、痛みや悲しみを感じている人や動物などをみて、その気持ちを自らに感じ取る感覚のこと。
相手の置かれている立場を自分に置き換えて、
「想像力」を働かせることが出来ることとも言われる。
そして、実はこの[想像力]が足りない若者が多いと言われるのは、
情報端末の普及で、「すぐに解答が得られる」時代になってしまったことで、「深く考えることをしなくなったから」であることが一因らしい。
探究的な深い学び、を特にIB教育は重視している。
それは日々深い思考を繰り返し、考える力、想像力を鍛え、それがひいては共感する力となり、やさしい心をもった人を育てることにつながっていくのではないか。
知識を溜め込むだけでなない、
「考える力」をやしなう教育。
これはつまり優しい心をもった子どもを育てる事につながっている。
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