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HR豆知識Vol.22 How Oxytocin Can Make Your Job More Meaningful(オキシトシンの力と意義ある仕事)

皆さんは「オキシトシン」というものをご存じでしょうか。専門家の意見では、このような解説がなされています。

オキシトシンは、視床下部後葉から下垂体に直接軸索をのばして投射するホルモンです。視床下部で合成され下垂体後葉に運ばれて出てきます。従って、この血中レベルを測定することで視床下部の活動の指標となります。
最近になって、オキシトシンは下垂体後葉だけでなく脳の中でも分泌されることが分かってきました。分泌されたオキシトシンは扁桃体や大脳皮質など、脳の中において作用しているのではないかと考えられるようになりました。
オキシトシンの主な作用としては、抗ストレス作用、摂食抑制作用が挙げられます。
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/s2_11/interview02.html

そして、このオキシトシンというものは昨今職場においても注目されているホルモンです。心理的安全性やエンプロイーエンゲージメントなど、内的資本が注目されている昨今ですが、その要素に脳神経科学が絡んでくることも必然です。


今回は、このオキシトシンについて、The Science of Happinessの観点からご紹介していきます。


Claremont Graduate Universityの脳神経経済学のディレクターであり、The Science of High-Performance Companies and the Moral Molecule:How Trust Worksの著者であるPaul J. Zakは、10年の研究を通して「効果的なチームワークの為に脳の機能はどのように作用するか?」という事をオキシトシンを絡めて明らかにしていきました。



その研究の結果、チームが最善を尽くすには、①チームメンバー間の信頼と②仕事の目的の理解、という2つの重要な要素が必要であることがわかりました。


これらは両方とも共通の神経学的基盤を持っており、労働文化を醸成、または変更する際のフレームワークを提供することがわかりました。そして、この2つの要素は偶発的に発生するものではなく、戦略的に作り上げていくものだという事も重要な発見です。信頼と目的は、①従業員個人、②組織パフォーマンス、③コミュニティの3つに対して有用だという事が明らかになっています。


信頼とチームワークのメカニズム

図1

脳のオキシトシンの急性産生を刺激および測定する技術を開発するまで、オキシトシンというものは、人間の社会的行動に関連付けられていませんでしたが、技術の進歩によって測定が可能となり、私たちの行動にオキシトシンというものが影響力を持っていることが明らかになったのです。


例えば、Zappos.comではお互いにオキシトシンの放出を引き起こしたチームは、脳がチームメートに接続されていないチームよりも生産性が高く、革新的であり、より多くのタスクを楽しんでいたという研究結果が出たり、パプアニューギニアの西高地の熱帯雨林の奥深くで自給自足している農民たちにはオキシトシンが分泌されていたことが明らかになっています。


目的・意義とチームワークのメカニズム

図2

加えて、仕事の目的や意義が信頼と同様にオキシトシンを分泌する事が明らかになっています。では、その信頼というものを高めていくためにはどんな要素が必要なのでしょうか。彼は8つの要素があると言っています。(夫々のイニシャルをとるとOXYTOCIN)


組織の信頼を動かす8つの要素:OXYTOCIN

拍手(Ovation):ハイパフォーマーを認識する(称賛する)
期待(eXpectation):難しいが達成可能な課題を設定する
産出(Yield):広範囲にトレーニングし、寛大に委任する
転送(Transfer):ジョブクラフトを促す
オープン性(Openess):情報を広く共有する
思いやり(Caring):意図的に人間関係を築く
投資(Invest):個人的および専門的な成長を促進する
自然(Natural):ありのままで脆弱(弱さをさらけ出す)であること。

これらの各要因は、組織の信頼の変動の45%から72%を説明してるとのことです。これは、リーダーがOXYTOCIN要因のいずれかを変更すると、信頼を高め、パフォーマンスを向上させるための実質的なレバレッジを生み出すことを意味します。


「信頼と目的」の経済的効果

では、チームの中でこの内的な数値を高めていく事にどれほどの効果があるのでしょうか。以下のような研究結果を明らかにしています。

信頼をチームのパフォーマンスに関連付ける科学は説得力がありますが、信頼は実際のビジネスの成果を実際にどの程度改善するのでしょうか。これらの調査結果が広く当てはまることを確認するために、2016年後半に、米国の1,105人の働く成人の全国的な代表サンプルを収集し、彼らの組織について質問しました。

・私のチームは、信頼度が最も高い企業で働く人々は、最も低い四分位数の企業と比較して、仕事に従事するエネルギーが106%多く、仕事に従事する能力が76%高く、生産性が50%高いと述べました。

・信頼度の高い企業の離職率は信頼度の低い企業の半分であり、これらの企業の従業員は、仕事に56%満足していると語っています。信頼により、組織の目的との整合性が70%向上し、病欠が13%減少しました。信頼性の高い組織で働くことができた幸運な人々は、仕事以外の生活に29%満足していました。信頼は仕事を改善するだけでなく、人生を改善します。

・信頼が重要です。大量の分析によると、企業が組織の信頼を4分の1上げた場合、平均的な従業員はさらに$ 10,185(100万円強)の収益を生み出すことになります。毎年。トラストファクターで説明する信頼を高める方法の多くはそれほど費用がかからないため、信頼への投資の見返りは、多くの場合、1ドルの支出に対して数百ドルになります。エコノミストにこれを言わないでください、しかし目的を持って信頼性の高い会社で働くことは楽しいです:同僚は彼らをサポートする人々と一緒に世界のために重要な仕事をしています。

即ち、信頼と目的の数値が上がれば、平均的に100万円ほどの収益改善につながる、100人の組織であれば1億円の収益改善という事を意味しています。


オキシトシンのダークサイド

では、一見素晴らしいこの「オキシトシン」に悪影響はないのでしょうか。

「今回の研究で、オキシトシンの影響下では、同じグループに属する仲間への優遇が増えることを確認できた。これは、裏を返せば、自分のグループに属さない人を排除することでもある」という事が明らかになっています。

この記事によると、オキシトシンが生み出す感情は、無慈悲の愛というよりは「特定の相手に対するポジティブな感情は特定の相手に対する排除を生み出す」という事を指しています。深いお話ですね。


私たちがすべきことは何か?

オキシトシンの両側面を見ながらやはり人はビジネスの為だけに動くのは難しいなと思います。だからこそ、以下の3点が重要です。

1.Whyを考える事
皆さんは、何か新しいことを始めるときに上司へこんな伝え方をしませんか?

「現在、コロナの影響を受け、DXを進めなくてはならないという危機感があり、これは喫緊の課題だと、マッキンゼーのレポートでも証明されています。だから、リモートでも仕事が出来るように●●を導入したいと考えています」

ここにWhyが加わるとこのような形になります。

「私がなぜ毎日ベッドから起き上がるか、を説明させてください。私は人々が夫々の最高の自分になれる手助けができるよう努めています。それが私の人事をやる意味であり、原動力です。DXというトレンドがありますが、これはあくまでもコンセプトで手段であり、それよりも従業員が毎日“よし、やろう”と思って仕事をしてくれる環境を整備する事が私の使命です。だから、●●が必要です。」

この話は「Find your why」の著者であるサイモン・シネックが提唱しているもので、私たちの仕事の仕方や人への伝え方を、少し変えてくれるものです。

2.信頼や目的など、深い関係構築や物事への理解から目を背けないこと


そして、上記のWhyにチームで何かを成し遂げる事のすばらしさへの共感があるのであれば「深い関係構築や物事への理解」から逃げないことが重要です。脳は楽をしたい特性を持っていますので、目を背ける事は無意識的なものです。ただ、自分のWhyにリンクするものがあるのであれば、「よし、楽しんで目を向けてみよう」と思うマインドが重要です。


3.8つの要素を使って、自分たちのチームを振り返り、1つアクションを起こしてみる事

後は8つの要素に即しながらトライするのみです。チーム全体で、チームワークとは何か?を議論したり、僕らのチームに称賛は足りているか?ありのままでいられる雰囲気はあるか?とか、逆に守らなくてはいけない規律は何か?などなど、共有し議論してみる事も一つのアイデアです。

各企業の具体的な事例もこちらに載っていますので是非参考にしてみてください。

如何でしたでしょうか、少しでも皆さんの参考になっていますと幸いです。


私は誰ですか?著者:松澤 勝充

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神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。企業向けの採用支援・組織開発支援、総合商社で2年半採用経験を経て、2017年より、執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了。卒業後、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。

保有資格:The Science of Happiness(UC Berkeley)、DiSC認定トレーナー、ピープル・アナリティクス(authorized by the University of Pennsylvania)、ポジティブ・サイコロジー・ワークショップ(Japan Positive Psychology Institute)、他

お問い合わせ先:contact@every-co.com

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