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【note居酒屋】#2 歳の重ね方

いらっしゃい。
酒ってのはその人の本性を現すと言うが、その人の悩みもあらわにしていくものだと思うんだ。

まぁおっさん店主の世間話だと思って聞いていっておくれ。


ある日こんなことを溢すお客さんがいた。


若いからどうだの、人間的に足りないだのと。
みんな俺が出世してるから、妬ましいんだよな絶対。

そこそこ呑んでいた。


お待ち。
頼まれたつまみを出すついでにこう言った。


言って貰えるだけありがたいと思うけどねぇ・・・。



そう!それ、それも言ってましたよ。
歳を取ると他人に説教したくなるんですかね、人間て。


こりゃ参った。
笑いながら頭を抱えた。


歳は上でも、仕事では俺が上司なんだから黙って言うことを聞けってんだ!
あーもうやりづらい。

マスター!ビール追加!


あいよ。
ビールの栓を抜き、お客さんの元へ持って行った。


否定をしているんじゃなくて、「アドバイス」をしてくれてるんじゃないのかぃ?


ああ?
お客さんは俺を睨んだ。


長く生きている分、酸いも甘いもお前さんより知ってるってこった。



マスターまでそんなこと言うのかよぅ。
そう言いながら、ビール瓶にもたれ掛かった。

分かんないね、それっぽいことを言われても。
言ってることも、なんで言うのかも。

早くに出世した俺が気に食わないんだろうさ。



俺はマッチでタバコに火をつけ、一服した。

それは、違うと思うけどねぇ。



…マスターは若い時にそういう経験は無かったんですか?


俺かい?はっはっは
同じだよ、色んな言葉をたくさんの人に貰ったよ。



・・・言葉を貰った?



俺はタバコの火を消し、お客さんの前に行った。



こういうのはさ、人に言われたって分かる話じゃないよね。

でも、それを分かろうとするのと、分かりっこない!と割り切って生きるのじゃ天と地の差だ。

分かろうとしっかり生きてりゃいつかは分かる。
それが、歳を取るってことなんだ。


これ、サービスね。
つまみを置いた。


お客さんはそこから何も喋らず、ただじっと吞んでいたよ。



それから何日か経ったころだ。
会社の後輩を連れて店にやってきた。


まだ少しぎこちなかったが、自分なりにちゃんとみんなの声を聞いてたよ。

打ち解けたみたいで良かった良かった。

マスター!ビール追加で!


あいよ。





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