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嵯峨野綺譚  京都嵯峨野を舞台にした奇妙な物語集

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京都 嵯峨野を舞台に物語をいくつか書いてみました。 「観光地 嵯峨野」のイメージとはまた違った嵯峨野の貌をみていただければ幸いです。
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#嵯峨野の小説

嵯峨野綺譚~カミノキ神社~

嵯峨野綺譚~カミノキ神社~

 ついこの間までな、大きな榎(エノキ)の木ィがようけ生えとったんやけどな、台風でな、折れてしもてん。
 榎の葉っぱの影でな、祠の前に立つとな、昼間でも薄暗かったもんや。涼しいてな。
 皆、ようお参りしはった。朝晩燈明絶やさんとな。
 いまではもう、スカスカや。殺風景なもんや。木ィ、みな切ってしもた。
 昔は子供の遊び場でな。
 狭い境内をぐるぐるぐるぐる走り回っとった。
 子供減って、もう、遊ぶ子

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嵯峨野綺譚 ~白鷺の池~

嵯峨野綺譚 ~白鷺の池~

そうなんです。昔、ここは釣り堀だったんです。私の両親が経営していました。何十年も前のことです。
昭和の時代ならどこにでもある釣り堀でした。嵯峨にも、ここ以外に二ヶ所ありました。今では広沢の池の近くに一つ残っているだけです。
 ほら、そこの空き地のところ。そこに建屋があったんです。簡単な食堂があって、釣り道具を貸したり、餌を売ったりしてました。横には駐車場があってね。5-6台くらいは停められまし

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嵯峨野綺譚 ~古墳の樟~

嵯峨野綺譚 ~古墳の樟~

「オマエら!なんヤァ~!」
「あっちぃ!いけぇ!」
「Gyeaaaaaaaaaaaa!」
おかるは喚き続ける。
怪鳥のような叫び声をあげて。
垢にまみれて茶色がかった紅白の着物で、白髪混じりの髪を振り乱して。
「オマエら!なんヤァ~!」
「あっちぃ!いけぇ!」
「Gyeaaaaaaaaaaaa!」
おかるは喚き続ける。
食べ残した残飯を投げつけつつ、怪鳥のような叫び声をあげて。
「オマエら!なんヤ

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嵯峨野綺譚~来訪者  ~

嵯峨野綺譚~来訪者 ~

 「おい、彦九郎。久しぶりじゃの」
 「おっ、これは了以殿。大変ご無沙汰致しております。お元気でいらっしゃいまするか?」
 「おう、おかげさんでの。おぬしも息災か?」
 「はっ、おかげさまで。最近は排ガス規制のおかげでこの辺りの空気もずいぶんきれいになり申した」
 「そうか。それは何よりじゃ」
 「ところで了以殿、今日はまた何用で三条大橋くんだりまで?」
 「いやさ、ここ数年京都市内にもマンション

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嵯峨野綺譚 ~篁(たかむら)の井戸  最終回~

嵯峨野綺譚 ~篁(たかむら)の井戸  最終回~

 シャリン、シャリン。鉦の音が近づいてくる。鉾を先頭に神輿が続く長い隊列は御旅所を出て通りを北上してくる。たいして広くない通りの両側には見物客がひしめいている。
 よく晴れた5月の空の下を、祭りの列はゆっくりと進んでくる。
 鉾の長さは電柱の高さを超える。男性の脛くらいの太さがあって先端には鉾の切っ先が、その下には金色の房飾りがあって鉦がついている。さらに幟まで下がっているので相当な重さだ。これを

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