蓮水桜子

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    あまり明るくはない日記です。

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2023年ベスト本

遅ればせながら、2023年に読んだ本の中から好きだった10作を紹介したいと思います。紹介は読了順です。 植物少女 朝比奈秋/朝日新聞出版 第36回三島賞受賞 生と死、命の重み。小説はこれらをテーマにした作品が多い。誰もが生き、そして死にゆくことから避けられないからだ。読者が他人事と放り出さずに自分事と考える。そして実際、考えやすいテーマである。 そんな作品はいくつも読んできたが、中でも『植物少女』は一番「生きる」とは何か、を教えてくれた作品だと感じた。 表紙の花が裏表

    • ふと出会う文章 文芸誌の魅力

      わたしが初めて文芸誌を買ったのは高校一年生のころだったと思う。河出書房新社が出している「文藝」が文芸誌との出会いだった。特集が「金原ひとみ責任編集・私小説」の回だ。 文芸誌とは小説の月刊(季刊)誌のことである。日本で五大文芸誌と言えば、新潮社の「新潮」、文藝春秋の「文學界」、河出書房新社の「文藝」、講談社の「群像」、そして集英社の「すばる」だ。この五つは全て純文学に特化した文芸誌だ。 もちろん五大文芸誌意外にも様々なジャンルの文芸誌がある。例えば最近わたしが読んでいるのは

      • 小市民たるもの、決して

        小市民シリーズ最終巻である『冬期限定ボンボンショコラ事件』を読み終え、数日が経った。夏からはアニメも始まる小市民。動く小鳩くんと小佐内さんが待ち遠しい。 作者の米澤さんが最終巻が出版された後にこんな投稿をした。 わたしは冬期を読む前にこの投稿を見たので、どんな結末が待っているのだろう、とどきどきしながら読んだ。春期から始まってついに冬期。ずっと作中で誤魔化されていた、二人が「小市民」を目指すことになる原点がついに明かされ、より人物像が深まったように思う。 米澤さんが言っ

        • 『先生と僕』坂木司

          双葉文庫が40周年ということで、記念カバーになったものが本屋にずらりと並んでいた。その中で私は坂木司『先生と僕』が気になったので読んでみた。 ところで記念カバーって楽しい。これから始まるだろう夏の文庫フェアとか、いつもの表紙と違うだけで気になってしまう。文庫なのにタイトルが箔押しされていたりすると、既に持っていても買ってしまうことがある。 さて、坂木さんの作品といえば『和菓子のアン』シリーズだろうか?私は坂木さんの作品を読むのはこれが初めてだった。 中学生の隼人は達観し

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          4本

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          『ぼくの短歌ノート』穂村弘

          昨年初めて歌集というものに出会った。そのときは短歌の楽しみ方をよく知らなかった。音が楽しいとか、視点が面白いとかそれくらいで、他は自分の感覚で読んでいた。 それから自分でも短歌を詠むようになって、短歌のことを更に知りたくなった。何せ自分の出来上がった短歌はとても陳腐でつまらなくて下手くそだったから。たった31音"だからこそ"の難しさを感じていた。 そんなときに見つけたのが『ぼくの短歌ノート』。歌人の穂村弘が、何人もの歌をテーマごとに分けて短歌を読み解くエッセイだ。 目次

          『ぼくの短歌ノート』穂村弘

          『麦ふみクーツェ』いしいしんじ

          いしいしんじの『麦ふみクーツェ』を読んだ。私はいしいさんの作品を読むのは初めてで、最初はその不思議な世界観に戸惑った。やがて吹奏楽の話が出てきて、自分も吹奏楽をやっていたので身近な話に思えた。 この小説には作中での言葉を使うと"へんてこ"な登場人物が多い。例えば、 ・身長がとびぬけて大きいぼく(主人公) ・音楽に取り憑かれた祖父 ・素数に取り憑かれた父 ・動作が不自然な用務員 ・目が見えないボクサー ・前世の記憶を持つ生まれ変わり男 などなどたくさん出てくる。 ぼくはへん

          『麦ふみクーツェ』いしいしんじ

          大河ドラマ「光る君へ」の話

          今まで大河ドラマを見たことがなかったのですが、吉高由里子さんが主演すると聞いて、初めて大河ドラマに触れました。今では毎週日曜日を心待ちにするくらい見入っています。 自分は世界史専攻で、日本史の知識は中学歴史ほどしかありませんが、全く知識がなくても楽しめます。私は解説してくれる方々の動画を見たり、字幕をつけたり、相関図と照らし合わせたりしています。意外と小ネタ満載で、知ると益々楽しめるドラマ構成になっているんですね。軽く勉強するような気持ちで見ています。 突然ですが、ここま

          大河ドラマ「光る君へ」の話

          日記 04/23

          2024/04/23 三月とさほど体調に変わりはないが、一つ変わった点は意欲的になったことだ。文字を前よりも読めるようになった。本を読んだり、映画を見たり、それら作品のことについて考えていると一日は過ぎていく。 それから最近は歩く練習をしている。三十分に一度立ち上がるというリハビリ。寝たきりだった私からすると大きな進歩である!これをしている日は午後になると体力切れになるが、「何もしていない」という状態が怖いので、体がしんどくても続けている。 ということだ。私は今この文章の

          『生きる演技』町屋良平

          俳優はカメラの前で「カット」の一声がかかるまで別の人格を演じる。では、普通に過ごしているわれわれは?生きるとき、誰だって無意識に自分を演じているのではないだろうか。で、その演じる自分ってなんだろう。 町屋良平最新長編『生きる演技』を読んだ。町屋さんの作品を読むのは三度目だが、読後いつも文体を奪われるような気分になる。文体というか、言葉が上手く使えなくなる。 読んでいるとき、中学生か高校生か、どちらかの国語の授業で扱った、『私とは何かーー「個人」から「分人」へ』(平野啓一郎

          『生きる演技』町屋良平

          『八月の御所グラウンド』万城目学

          どうでもいいけれど、高校に入るまで彼のことを「まんじょうめがく」と読んでいたことをここで告白する。なんですか、まんじょうめって。あと、がくでもなかった。 『八月の御所グラウンド』は、第170回直木賞を受賞した作品だ。万城目さんはノミネート6回目で賞を勝ち取った。後世にも語り継がれるであろう「直木賞」に作品を書き続ける人の名前が刻まれたことはとても嬉しい。 本作に収録された「十二月の都大路上下ル」、そして「八月の御所グラウンド」の二篇は、どちらとも京都で起こる少し不思議な話

          『八月の御所グラウンド』万城目学

          日記 04/06

          2024/04/06 カーテンを開けていないから本当の天気は分からないけれど、今日は多分晴れだ。朝の光がいつもよりも眩しい、凄く明るい。でもこの明るさは雪の白かもしれない。カーテンを開けないから知らない。 部屋が明るいだけで鬱々とした気持ちは随分なくなる。最近発明した絶望した時の対処法は歌を歌うこと。カラオケで歌ったら友達に馬鹿にされるような歌が良い。例えば「アンパンマンのマーチ」とか「おしりかじり虫」とかが良い。子供の頃に聞いていた曲。それで、馬鹿みたいな大声でにっこに

          日記 03/26

          2024/03/26 8年前の3月26日は北海道新幹線が開通した日だ。その日のことを未だに覚えている。8年が経った今、こうして思い返す人は少ないと思う。鉄道が好きな方か、まあそれくらいだろう。北海道に住んでいてももうニュースにはならないし。 鉄道ファンでも無い私が何故、日付まで合わせて覚えているかと言えば無論、その日は私の初恋が打ち砕けた日だからだ。8年前の昨日、私の初恋は終わった。 私の好きな人はその新幹線に乗って埼玉へ引っ越してしまった。今考えると引っ越しくらいで終

          『インストール』綿矢りさ

          高校を卒業するにあたって、学生時代に影響を受けた本だったり、学生のうちに読んでおきたい本というのを優先的に読むようにしている。 『インストール』はその中でも一番に思いついた作品だった。これは丁度一年前に初めて読んだ。 私は受験戦争から早々にドロップアウトした身だ。理由は互いに違うけれど、その境遇が『インストール』の主人公と重なる。だから今、もう一度読みたくなった。 主人公は何者かになりたいが、何になりたいという具体的な目標/目的が無い。燻っている「高校生」という期間を表現

          『インストール』綿矢りさ

          『海と毒薬』遠藤周作

          残酷なニュースが流れていたらテレビの電源を切れる時代に。情報を取捨選択し、見たく無いものから目を背けることの出来る時代に、わざわざ重々しい小説を読む理由は、痛みを知らないでのうのうと過ごす人間にはなりたくないからである。 『海と毒薬』は戦争末期、実際に起きた事件を元にしたフィクションである。九州の大学附属病院で行われた米軍捕虜生体解剖実験を通して、人間の罪意識について問う小説だ。 タイトルにある「海」は病院の屋上から見える黒々しい海を指し、「毒薬」とは言葉通りの薬(作品中

          『海と毒薬』遠藤周作

          『センセイの鞄』 川上弘美

          いつからか恋愛小説と言われるものを手に取らなくなった。昔は好んで読んでいたけれど、急につまらなくなってしまったのだ。ラブソングとかもあまり好きではなくて、どうしてこんなに世界は恋やら愛やらで満ちてるんだろうなあ、とぼんやり考える日もあった。 『センセイの鞄』は高校時代の"センセイ"と数十年振りに再会した"ツキコ"という女性が恋をする「恋愛小説」である。恋愛小説なのに、とても引き込まれた。そこで私は気づいたのだが、別に恋愛小説と言われるものが嫌いな訳では無かったのだ。 恋愛

          『センセイの鞄』 川上弘美

          日記 02/04

          2024/02/04 日記を投稿するのはとても久しぶりだ。と言っても仮日記なるものを書いては消して書いては消して、と繰り返していた。 最近、今の自分の生活を記録しておこうと文章を書いている。大層なものでは無く、あくまでも練習といった具合で。 本当に書くことは難しい。誰に見せるわけでもない、自分のための記録なのに全然上手く書けない。小説を読んでつまらないと罵倒する人がときたまいるが、いや、一つの作品にするだけでなんて素晴らしいんだろうと思うようになった。自分の書いた文章はと