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小説|晩産のたしなみ。

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いわゆる晩婚、もしかしたら「晩産」に至れるかもしれない40代のリアルデイズ……。いちコピーライターとして初めて書き残したくなった自分ごとは、苦節9年、不妊治療の行末でした。普通の…
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2022年1月の記事一覧

DAY15.  昼下がりの虚実 

DAY15.  昼下がりの虚実 

 17キロ弱。今度年中さんになるらしい姪っ子と同じくらいの重みを湛えた彼女は、長い毛並みに包まれたふかふかの体を揺らして、これ見よがしにぶんぶんとしっぽを振っている。

 その黒目がちな瞳には、一切の迷いや疑う心も影を潜めない。まっすぐにこちらを見上げる誇らしげな顔が、2階へついてこいと言っていた。

「んんん? どしたー??」

 目的はわかっている。私は彼女の視線に屈してようやく重い腰を上げ、

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DAY14.  9回目のクリスマス

DAY14.  9回目のクリスマス

「クウホウ、ということですか」

「そうですね。今回の所見からすると……クウホウ、になります」

 医師との会話は、正直それくらいしか覚えていない。流産からもうすぐ4か月、ようやく挑んだ採卵手術を終えての診察室。

 長々といろいろなことを聞いた気がするけれど、最後はこれまで何度も聞いた「次回、生理3日目に来てください」で締めくくられた。結局、得られた情報もその程度だ。今できることはほとんど何もな

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