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【書評】 人には教えたくない文章術 『三行で撃つ』

「寝食忘れるぐらい面白い本」との出会いはうれしいが、今日紹介する本はまさにそんな本だ。

最初は図書館で借りたのだが、読み初めてすぐに「これは線を引きながらじっくり読まなければならない」と思いなおし、即購入した。

タイトルだけ読むと「最初の三行でいかに読者の心をつかむか」に重点が置いているように見える。

そんな第一印象をいい意味で裏切り、副題の『〈善く、生きる〉ための文章塾』の通り、ライターとしての生き方、思想、習慣までに深く踏み入り、まさに「善く生きる」ための指南書となっている。

本の内容自体が「三行で撃て」ていないと笑いごとになってしまうが、ぼくは見事に毎ページ撃ち抜かれた。

それは、著者の生きた声が込められているからだ。

ライターはもちろん、noteやツイッターで文章を発表している人は誰にでも参考になる本で、まだ何も書き始めていない人でも、この本を読めば、衝動的に何かを書きたくなるはず。

「言葉に撃たれる」とは、まさに痛みをともなうものだが、それは自分が変化しようとしているからだ。

そんな自己変革を覚悟させられる本で、ライターに限らず、表現者であらんとする人、自分の表現を変えたい人すべてに響く内容だ。

そもそも文章とはなにか。書くことはどういうことか。

そんな哲学的な話を含め、25の奥義が開陳され、それぞれの奥義はシンプルで納得感がある。

「問いを作ること。世界を変えるのは問いだ。」や、「あってもなくてもどうでも良いものに命をかける、それが尊い。」と、立ち止まって考えさせられる。

特に「表現者は仕事中毒になるのだ、いつでも表現のことを考える。」という言葉は、読者の覚悟が試される。

そんな哲学的・精神的な話だけでなく、もちろん、具体的なライターとしての特訓方法も満載だ。

書くことに関しては、「1日2時間、あらかじめ決めた場所と時間で集中して書くべし」という。

その時に大事な事は、部屋に閉じこもることだ。

新聞、雑誌、ネットはおろか、部屋の中には誰も入れず、猫さえも入れないという。

雑念が起きそうなものを一切排除することが大事だ。

その2時間は1行も書けなくてもいいと著者はいい、それは「なにかを書こうとする意思」を創造の女神に通知しているからだ。

その通知を通じて、9割の時間は苦しいが、「なんだこれは!」と、自分でうなるような一瞬が訪れるという。

著者が勧める書くための部屋は、なんと「台所」だ。

小さい机と小さな椅子に座って、生活の中で、汗をかいて文章を書け!と言い、早速ぼくも実践しはじめた。

書くことと同様に重要なのが「読書」で、具体的には、「毎日2時間ほど読書し、1時間を自分の好きなモノ、ほかの1時間を課題図書」に使うことをアドバイスしている。

課題図書は4つあり、それぞれに15分ずつを費やす。

その4つは①日本文学、②海外文学、③社会科学・自然科学④詩集だ。

①〜②は古典と呼ばれるものに限定し、③も古いものの方が良いとしている。

この①〜③に関しての決定的なガイドブックは『必読書150』で、他にも渡部直己氏の『私学的、あまりに私学的な』が紹介されている。

④は何でもよく、J-Popの歌詞でもSNS短歌でもいい。

詩が挙げられているのは珍しく感じるが、著者いわく、詩には断層があり、飛躍があるので、イメージのジャンプ台を学ぶのにうってつけだ。

他にも「抜き書き帳」や「新聞の書評欄」、「公立図書館の語り芸CD」の活用法と、具体的なアドバイスが盛り沢山だ。

正直、「ここまでやるのか?」と圧倒されるが、ユニークな著者らしく、そんなスパルタ的創作活動を通じて、生みの苦しみを味わうことができる。

著者の肩書を見て欲しい。

朝日新聞編集委員・日田支局長/作家/評論家/百姓/猟師/私塾塾長。

只者ではない匂いがする。

著者は1963年、東京の渋谷に生まれた。

慶應義塾出身で朝日新聞に入社し、編集委員まで上り詰めたのち、現在は大分県の日田市に在住している。

本書でも話題にあがっているが、文章の私塾を開いており、社内外の記者やライター、映像関係者が顔を出しているようだ。

地方での米作りや狩猟体験を通じ、資本主義や現代社会までを考察する『アロハで猟師、はじめました』、『おいしい資本主義』という著作もある。

三行で撃つ』では、文章を書くということは一生終わらない勉強で、ダラダラ生きていても書けないと「喝」を入れてくれる。

ネタを見逃さないよう、ちゃんと生き、「汗で書け」という言葉が響く。

読書についての『読書の技法』と並び、『三行で撃つ』は創作のバイブル本として本棚に並んだ。

定期的に読み返したくなる本だ。

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