インドのグッドシャワーおばちゃん
2月末、コルカタはもう十分に暑かった。最高気温28度、前日まで滞在したブッタガヤの朝晩は少し肌寒いくらいだっただけに余計に堪える。
コルカタではインド旅行のラスト3日間を過ごした。すでに旅も25日目。「コルカタには何もないよ」と出会った多くのインド人が口を揃えたが、インドでは珍しく区画整理が整然と行われ、どこか安心感を覚えた。
コルカタの安宿街はサダルストリートという街の中心に位置する。しかし、私はというと最後の時間くらい少し落ち着いた場所で過ごしたいと、安宿街から駅三つ分離れた場所の宿をとっていた。
予想は的中し、宿の周りはやけに静かだ。高級住宅街の中にあるのかお洒落で新しいカフェ、加えてスターバックスにサーティワンといった大手海外資本も軒を連ねる。一杯20円でミルクティーが飲める国で、500円のコーヒーが平然と売られているのは、格差とでも呼ぶしかないのだろう。
そんな街並みを最寄り駅から往くこと15分。気温28度で荷物の増えたバックパックを背負う私は、もちろん汗だくになっていた。しかも、前日の列車移動では4時間遅れを食らっている。もう体力など皆無に等しかった。
宿に着くと、すぐにオーナーが迎えてくれた。真っ赤なサリーに身を包んだ、ふくよかな50代くらいの女性。そしてサリーに負けないくらいに愛嬌が全身から溢れている。
彼女はすぐに私に問うた。
Kolkata is hot?
そして間髪入れずに、こう続ける。
We have a good shower
しかもとんでもないしたり顔で。
実はというと、私も日本で民宿を経営している。しかし、ウチの宿のシャワーがグッドか否かなど考えたこともなかった。もっといえば私がお客様に貢献できることと言えば風呂場の清掃くらいのもので、シャワー自体の良し悪しはリンナイやパナソニックといったメーカー側の問題ではないかとさえ考えていたと思う。
でも彼女は自信たっぷりに「ウチのシャワーがグッドなんだ」と言う。彼女と私の差は何なのだろうか。
生まれ持った自己肯定感なのか、それとも宿屋としての矜持なのか。真意は分からない。私自身はなぜか彼女の姿にとても大きな憧れを抱いた。
少なくとも下手に謙遜するくらいなら、彼女のように自信満々の方が聞いている方も明るい気分でお風呂タイムを楽しめるかもしれない。
ちなみにこの宿で湯が出たのは蛇口だけで、シャワーから湯は出なかった。
ただここのシャワーが少なくともバッドシャワーとは感じられなかったのも事実である。
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