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就活ガール#54 グループ面接は顔、姿勢、話し方が9割 

これはある日のこと、都内の映画館で日野原さんと一緒にミステリー映画を見た帰りのことだ。遊園地のデートを経てすっかり仲良くなった俺は、あの後もたびたびこうして日野原さんと二人で会っている。

「私、さっきの映画を見ていて就活を思い出してしまいました。」
突然、日野原さんが突然おかしなことをいう。たしかに、何をしていても就活を思い出してしまうというのは就活生の悲しい性ではある。しかし、さすがにミステリー映画と就活を結びつけることは俺にはできなかった。
「どういうこと?」
素直に、思ったことを尋ねる。
「ミステリー映画って、最初に怪しいと思う人を心の中で予想しませんか?」
「するね。」
「私の場合、その後いろいろ物語が進んで気がうつっても、最終的には最初に選んだ人が怪しいと思ったまま答えを聞くことが多いんです。」
「俺はそこまで考えたことなかったな。そもそも途中からは犯人予想することを忘れて、ぼんやり見てしまうことが多い。」
「フフフ、そうですか。それも先輩らしくてありだと思います。」
「で、それが面接に似てるって話かな?」
「そうです。特にグループ面接に似てると思うんですよ。ほとんど第一印象で合否が決まってるんじゃないかなって。」
「なるほど。わかる気もする。」
ちょうど頼んだピザが出てきたので、一切れ取って口に運びながら考える。たしかに、グループ面接では他の求職者と相対的に評価される。そのような場合でも、いやそのような場合だからこそ、第一印象が得に大事だということだろう。様々な質問を通して面接が進んでいく中で多少評価が上下したとしても、別の求職者との間での相対的な順位が入れ替わることはあまりないからだ。

「俺もグループ面接って個人面接よりも雰囲気で決まるってのは実感してる。」
「そうですよね。顔とか、姿勢とか、話し方とか、そういうのでほとんど決まると思います。」
「うん。選考の序盤で行われるから外部の選考受託企業の人が面接官をやってる場合も多いよね。そうすると、その人たちは企業のことについてはほとんど何もわかってないから、基本的な対人能力で決まると思う。具体的には日野原さんが言ってくれたもののほかにも、よくある一般的な質問に対してちゃんと準備してるかとか。」
「はい。志望動機とか自己PRみたいな100パーセント聞かれることが分かってる質問にスラスラと答えられないのは、準備不足って言われても仕方ないと思います。こういうのって、練習すれば誰でもできるようになるじゃないですか。だからこの辺が満足に言えない人は練習不足か、練習の方向性が間違ってるかのどちらかじゃないでしょうか。」
「恥ずかしくても誰かに見てもらってフィードバックを受けないとかな。」
「そうなんです。就活がうまくいかない人ほどキャリアセンターなどのサポートする大人を悪く言ったりして、一人で乗り切ろうとしますよね。」
「まぁ大人の言うことを聞いてたら失敗したのだとしたら、気持ちはわからなくはないけど。実際はちゃんと言われたことを守っていない学生が多いとは思うね。」
実際、こういう学生は白雪学園にも多い。まだ内定がない4年生から聞こえてくる愚痴には、たいていキャリアセンターは使えないという話が盛り込まれているのだ。そういう人たちの中には本当に運が悪かっただけの人などもいるが、改善すべき点が改善されていない人も珍しくない。

「キャリアセンターには本当に役に立たない人も多いですけど、それを含めて社会なんですよね。いくら綺麗ごとを並べても、結局人は仕事をサボるんです。具体的に言うと、面接官は適当に印象だけで合否を決めるし、キャリアセンターは学校にとってメリットのある内定先を得られなさそうな学生のサポートは雑になります。」
「うん。」
「だから、まずはそういう大人たちに興味を持ってもらえるようにならないとなって思うんですよね。あ、一人でベラベラ喋ってすみません。」
少し熱くなっていた日野原さんがそう言って話を止め、ピザを食べる。

「大丈夫だよ。俺も日野原さんの言う通りだと思う。で、グループ面接の話に戻すんだけど、顔ってどれくらい重要なんだろう。」
「うーん。顔って他の能力よりも特に、周囲の人と相対的な評価になりやすいと思うんですよね。」
「たしかに。」
日野原さんなら顔採用で不合格になることはまずないだろうと思いながら、頷く。
「もちろんパーツは仕方ないんですけど、肌の綺麗さとか、髪の手入れとか、あるいは体型とか。服装もそうですね。そういうのはある程度努力でカバーできるじゃないですか。」
「俺もあんまりちゃんとしてるとは言えないと思うけど、就活は人生かかってるゲームだから、カバーできるところはカバーしたいな。こういうのって自分では気づきにくいから難しいけど。」

「肌や髪が大事なんて話をすると、決まって『私はアトピーなんです』とか言い出す人がいるのであんまりハッキリとは言えないですよね。だから建前論が世の中にあふれてるんじゃないですか。」
「わかる。とりあえず今はそういうくだらない人は置いておこう。いちいち揚げ足取りの相手をしてたらキリがないから。」
「ありがとうございます。でもその辺、私も結構その辺の発言には気を遣うんですよね。」
皆にあって自分にはない能力とか生まれつきの体質って、ほとんどの人にはあるんだよ。そういう個々人の差を考えだしたら収拾がつかなくなる。どうしようもないことで他人にかみついてる暇人の相手はしなくていいよ。」
全てにおいて平均的な人というのはほとんどいないというのは世間でよく言われている話だ。就活においても、どう頑張っても隠せないデメリットがあることも仕方ない。そういう人こそ、他のところで挽回する必要がある。

「はい。わかりました。ありがとうございます。ちなみに私は声が高くて子供っぽいってよく言われます。」
「そうなんだ? 可愛い声だと思うけど。」
「なんか嫌なんですよね。もうちょっと大人っぽい、薫子さんみたいな声が良かったです。少なくとも面接では大人っぽい方が有利なんじゃないかなと思ってます。」
「声って関係あるのかなぁ。面接官の好みの話になってくると、完全に運だと思うけど。とりあえず俺は日野原さんの声好きだけどなぁ。」
「ありがとうございます。すみません、話が脱線しちゃって。」
「大丈夫。ちなみに俺は顔が大きいのがコンプレックスだけど。」
「そうですか? 私はそう思ったことないですけど。あ、ちょっと測ってみていいですか?」
意地悪そうに笑いながら、俺の顔に向けて手を差し出してくる。少し椅子を後ろに引くと、すぐにやめてくれた。

「あとは姿勢ってどう思いますか?」
改めて座り直したところで、日野原さんに質問される。
「かなり需要。」
「ですよね。」
入退室の時に気を遣ってる人は多いんだけど、座ってる時の姿勢が悪い人は結構いると思う。特にグループ面接でだんだん暇になってきた場合とか。」
「わかります。最近は面接官との距離が近い面接が増えてきましたけど、昔ながらの2メートルくらい離れてる奴だと、手とか足の動きまで全て見られてますよね。それで評価をするっていう基準は流石にないと思いますけど、とはいえ印象だけで決まっちゃうグループ面接とかだとかなり危ない気がします。」
「あとオンラインの場合はカメラのアングルとか。毎回同じ場所で面接するんだからちゃんと準備すればいいのに、どうしてしないんだろうって思う人がいるな。近すぎたり遠すぎたり。上から見下ろすようなアングルになってしまってたり。」
「不思議ですよね。それからオンラインだからってカンペ用意してる人とか。周りの人から見たらバレバレなんだけど、本人はうまくやってるつもりなんでしょうね。」
「笑っちゃうよなぁ。」

「あと、話し方はどうですか?」
「早すぎるとか遅すぎるとか?」
「そうです。あとは活舌が悪いとか、話が長いとかも多いですね。」
「ああ、話が長い人は多いと思う。薫子さんも長くても1分以内って言ってたし。」
「長文を語られても会話してるって感じがしないし、特にグループ面接の場合は周りの人にも迷惑ですよね。」
「うん。そういう空気読めるかみたいな能力もグループ面接では見られてると思う。」

たくさん話したところで、二人揃ってイタリアンレストランを後にした。後日調べてわかったことだが、グループ面接では必ずしもグループ内に合格者がいるわけではないらしい。場合によっては全員不合格になることもあるし、少ない事例ではあるが、全員合格になることもある。どのようなグループに入るか、その中で相対的に評価を受けるにはどうすればよいかという観点は重要であるが、一方で、個人の面接能力が高ければ乗り越えられるというのも事実だ。あまり深く考えすぎずに、第一印象を良くしたり、一つ一つの質問について念入りに準備をすることを着実に進めていこうという極めて基本的な結論を胸に、就職活動を続けるのであった。


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