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KnightandMist

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たぶん小説になる予定。今書きためているところです。 あらすじ 浪人し、就活も失敗し、あとがない主人公浅霧遥香。 そんなある日、彼女に異変が襲った。 それは今流行りの異世界転生…
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#ファンタジー小説

Knight and  Mist-interlude-オーセンティックサイド

Knight and Mist-interlude-オーセンティックサイド

書斎のような部屋に独り坐し、深峰戒は深くため息をついた。

「なんなんだこのクズな世界は!」

力任せに棚を殴り、上に置いてあるものを薙ぎ払う。物が落ちてガシャンガシャン、と音が鳴った。

「私は私の役割を果たしているはずだ! なぜあんな小僧ごときに笑われなければならない……!」

ドサッと椅子に座る戒ことオーセンティック。

その前にすうっと何者かが姿を現した。

「《冥王《ヘルマスター》》」

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Knight and  Mist十章-9騎士と霧

Knight and Mist十章-9騎士と霧

「あなたの気持ちは分かりますが、これはそういうので引き受けるものではないですよ」

もう決定していることに異を唱えることは難しいのでは、そんなことを考えながら、ハルカはセシルを見た。

勇者だけが入れると噂のバー《キタフィー亭》にて。

目の前には鴨鍋が煮えていて良い香り。おだしといとこんとネギのハーモニー。

だがおあずけをくらって話題はハルカが魔導の力を得るかどうか。

そう、魔導師になれるの

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Knight and  Mist第十章-8鴨鍋と魔導師ライセンス

Knight and Mist第十章-8鴨鍋と魔導師ライセンス

そこでカンカンカンカーンとグラスを叩く音がする。それまで思い思いに喋っていたみんなが静まり、グツグツと鍋が煮える音だけが聞こえる。

知る人ぞ知るバー《キタフィー亭》にて。

でかいテーブルにスループレイナの姫とその婚約者、スループレイナの大貴族3人、勇者、レティシアとスコッティ、デシールの女将軍イーディス、そしてセシルとハルカが座っている。

全員がなんだろう、とグラスを鳴らした宮廷楽師イスカゼ

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Knight and  Mist第十章-7 《キタフィー亭》

Knight and Mist第十章-7 《キタフィー亭》

「さあ、カンパーイ!」

そこは王都下町情緒あふれるとある居酒屋。その名も《キタフィー亭》。店主のキタフィーさんは温厚そうな金髪のお姉さんで、とても感じが良い。店内には武具がかけてあって、客はいなかった。

この居酒屋、なんと勇者だけがこの酒場に入れるのだという。

とういうのもどうやらこの店主さん、キタフィーというのは仮名で本当はベアトリクスという名の勇者だという噂がある、とアザナルがハルカに教

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Knight and  Mist第十章-6 ほんとうのこと 異世界(げんじつ)

Knight and Mist第十章-6 ほんとうのこと 異世界(げんじつ)

「待て、待て、落ち着こう。いくらなんでも話が飛びすぎる。まずは絆のはなしから教えてくれない?」

セシルの眼差しひとつでドキドキしながら、ハルカは言った。

「この絆ってなんなの? セシルはいつから気づいてたの?」

露天風呂にて。美味しいものを堪能しつつ、セシルとハルカは微妙に距離をあけて座っていた。

温泉でのぼせそうなのか、セシルの発言でのぼせそうなのかハルカ自身分からなかった。

「僕はー

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Knight and  Mist第十章-5 遠くの笑い声

Knight and Mist第十章-5 遠くの笑い声

「声かけられたからあえて言うけど……露天風呂でイチャコラしくさって! でもあんたもさ、大怪我したんだから見逃してあげてたわけ! 邪魔はしないわよ!」

イスカゼーレの姫、アザナルが言った。どうやら通りがかっただけでセシルに咎められたことを不服に思っているようだ。

考えてみれば、露天風呂でハルカとセシルふたり、聞きたいことがあるからだとはいえ、まわりからしたらイチャついていると思われても仕方ない。

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Knight and  Mist第十章-4露天風呂とデザート

Knight and Mist第十章-4露天風呂とデザート

「はい、どうぞ。限定ジェラートとソルベとあとジュース。あとフルーツ盛りだくさんプレートはここに置いておきますから適当につまんでください」

何やら名前から豪華そうなものを次々手渡され、セシルが露天風呂に入ってきた。すでに露天風呂に浸かっていたハルカの横に座り、セシルは伸びをする。

ハルカはその横でジェラートを頬張る。温泉に入りながらのジェラートは格別である。溶けて口の中に残るフルーツの味。まさに

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Knight and  Mist第十章-3 お姫様と婚約者

Knight and Mist第十章-3 お姫様と婚約者

あらためてミルフィとリキと挨拶をする。おんぶされたままで。

「上からごめんなさい」

ハルカが頭を下げると、ミルフィはニッコリ微笑んだ。

「頭が高いわよ♡」

「…………」

ちょっと可愛く言っているがおおよそアンディと同じ感じだ。

危険を感じ、ハルカは無言でセシルの背の裏に隠れた。そういえばセシルからいい香りがする。たぶん乳香か何かだろう。

それから、セシルの陰から二人を観察する。

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Knight and  Mist第十章-2湯けむりファンタジー風呂

Knight and Mist第十章-2湯けむりファンタジー風呂

「わーい! 温泉、温泉!」

王都でも一番大きな広場に面した温泉を前にして、テンションが上がるハルカとキアラ。

それは大理石でできたテーマパークのようで、完全にレジャー施設。たぶん古代ローマ帝国のテルマエみたいなものなのだろう。

王都は水道もちゃんとしてるし、水洗トイレだし、みんな風呂好きで清潔なので現代人のハルカにとってはありがたいことであった。

そしてこの温泉。現代で言うところの水着を着

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Knight and  Mist第十章-1温泉に行きたい

Knight and Mist第十章-1温泉に行きたい

「一個だけお願いを聞いてください」

ベッドのなかでセシルがまたワガママを言い始めた。

そこは都の広場近くにある気持ちの良い部屋だった。とある貴族の持ち物で、市中に出るときに使う洋館である。

今は持ち主は領地におり不在で、使わせてもらっている状態である。

清潔な布団に清潔なベッド。窓からの風景は美しく、王都の街並みが一望でき、良い薫りの風が吹き込んでくる。どこからか鐘の音がする。

あのあと

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Knight and Mist第九章-2 スループレイナ王国の歴史 後編

「で、なんで今になってもまだ異端審問院が権力持ってるわけ? ガイア派は潰しちまったんだろ?」

イーディスの問いに、アザナルが眉間をもんだ。

「また魔王が復活して、それを止めたのがあたしたちなのは知ってるでしょ」

一同うなずく。

「そのときに暗躍してた組織があったの。秘密結社テネブラエ」

アザナルが言い、モンドがつづきを話す。

「一度目の魔王は自然発生的なもの、政治の混乱による人心の乱れ

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Knight and  Mist第九章-1 スループレイナ王国の歴史 前編

Knight and Mist第九章-1 スループレイナ王国の歴史 前編

「ことの始まりは、ガイア派の弾圧からだーー」

重々しく語りはじめたのはモンド・デ=ラ=モンロー。

王立魔導院で官僚を育成する旧家、その宮殿で、ハルカたちは王家の歴史を、ひいてはセシルの囚われた異端審問院とはなんなのかを聞いていた。

豪奢な部屋にいるのはハルカ、イーディス、モンドの妹アンディ、アザナル、キアラ、キラキラマントのクールシトラス、語っているモンドもキラキラマント、そしてスコッティと

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Knight and  Mist-interlude-セシルサイド

Knight and Mist-interlude-セシルサイド

赤い月が見えていた。

月が赤いのではない。眼底に血がたまってそう見えるのだ。

こんな風景を前にも見た、とセシルはグッタリしながら思った。

そこは汚物がそのままの薄暗い牢だった。尖塔の上の牢屋で、窓があるところには頑丈な鉄格子が嵌められている。

異端審問院の特別牢だ。

こんなにも憂鬱になる場所は他にないとセシルは思ったが、同時に自分に似合いであるとも知っていた。

思い出すかぎり、自分がま

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Knight and Mist第八章-13 王家の使者

「え、アンドレアさんは政治的になんとかするって言ってたよね?」

ハルカは納得できず食い下がった。

モンロー家の客間に権力者が勢揃いして、何もできないと言うのだ。

"何者か"である人たちが雁首揃えて、何もできないと言う。ハルカには腑に落ちないことだった。

"何者か"になる人は何かを為している人たちのことだ。それなのにーー

(でも、わたしを実験台にしようとしてたトゥム博士だって、"何か"はし

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