Knight and Mist第八章-13 王家の使者

「え、アンドレアさんは政治的になんとかするって言ってたよね?」

ハルカは納得できず食い下がった。

モンロー家の客間に権力者が勢揃いして、何もできないと言うのだ。

"何者か"である人たちが雁首揃えて、何もできないと言う。ハルカには腑に落ちないことだった。

"何者か"になる人は何かを為している人たちのことだ。それなのにーー

(でも、わたしを実験台にしようとしてたトゥム博士だって、"何か"はしてたよねーー)

何かを成し遂げながらも無惨にも《顔のないネズミネームレス・ワン》によって首を持っていかれた魔導士のことを思った。

考え込んでいると、アザナルがハルカの問いに答えた。

「いい、今やってるのが政治的なことよ。あたしは王家の遣いでもあるの。モンロー家、正式にあたしたちと手を組まない?」

唐突なアザナルの申し出に、

「ボクはいいとおもーー」

「イヤですわ! 子飼いの手下すら思いのまま動かせない輩と手を組むなんて!」

モンロー家の二人が同時に声を上げた。モンドが妹を諭す。

「アンディ、そりゃしょーがないじゃん! 異端審問院の連中が取り入ったんだろーよ! その異端審問院の連中を育てたのはボクたちの魔導院でしょ!?」

「そもそもあんたらモンロー家は分裂するほど人がいないでしょ」

アザナルが言った。

「失礼なことを言うな! 我らモンロー家親衛隊は数こそ少ないが、心はみなひとつだ!」

反論したのは入り口のところで倒れていたキラキラマントのクール・シトラスだ。それに感動するモンド。

「クール・シトラス……! お前というやつは……! そうだ! ボクたちはみな心はひとつなんだ!」

「そのボスの兄妹は目に見えて仲が悪いがな」

イーディスが横槍を入れる。

「分からないのか! アンドレア様のビンタは愛情表現なんだ!!」

「えっ、そうなの?」

クール・シトラスの主張に対し、モンドは目を丸くして妹を見上げる。

「はあ、やれやれ。スループレイナ一番のヘンタイはどうやらクール・シトラスみてーだな」

イーディスが呆れて言った。

「兎にも角にもアンディ、イスカゼーレが王家の遣いとして来たんなら、ボクたちに拒否権なんかないんだからね!」

モンドがなんか情けないことを言い、

「分かってるわよ! いいわよ、組むわよ!」

アンディが拗ねたように承諾した。

力関係としては、相当モンロー家が弱いようだ。

王家の懐刀がアザナルのイスカゼーレ家。スループレイナをまわす官僚を育てるのがモンロー家。

当然、王家とのつながりはイスカゼーレの方が強い。表向きは宮廷楽師であれ、子どもたちは幼馴染同然に育つ。そもそもハルカはモンロー家自体知らなかった。

おそらくではあるが、モンロー家は王家の婚姻相手であったのだろう。イスカゼーレ家と王家の人間は幼馴染同然に育つが、婚姻は固く禁じられている。

しかしここのところ王の婚姻相手は庶民である。それが政治的な争いを招いている、そんな話をハルカは書いた覚えがあった。

(庶民とは結婚できても、イスカゼーレとだけは結婚できないーーその禁を破ったのがセシルのお父さんとお母さん。なんてこと、言ったらみんなびっくりするのかしら……)

ただ、セシルのことに王家が出るとなると、王家と異端審問院で政治的な争いが起きているか、あるいはーー

(宰相である父親が助けようとしてるか、よね……)

ハルカは言うかどうか迷い、結局黙っていることにした。このはなしはさすがにまずいと思ったのだ。

「そもそも異端審問院ってなんなの?」

ハルカが尋ねた。

「ことの起こりはガイア派の弾圧からだーー」

やけに重たい声でモンドが語り始めた。

スループレイナの、王家の歴史だ。


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