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ただ存在するだけで価値があるから。(岸見一郎『孤独の哲学』を読んで)

ベストセラー『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の著者・岸見一郎さんの近著を紹介したい。

アドラー、三木清、マルクス・アウレリウスを取り上げながら、社会で問題視されている「孤独」について、岸見さんの見解が綴られている本だ。

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まず、自分のことを話す。

昨年8月に創業して、僕は時折、孤独感を抱くことがあった。僕は妻とふたりの息子と生活している。心から愛おしい存在であり、自他共に「孤独」とは見なされない。

では、なぜ孤独感を抱いていたかというと、仕事が好調とはいえないことで社会における無力さを痛感しているからだ。「稼ぐ」=社会貢献とは一概に言えないまでも、社会に対してインパクトのある仕事をしたい野心は持ち合わせている。それができないことの、無力さ。

加えて、しばしば体調不良に陥ることがあった。会社に勤めていたときであれば、チームで仕事をしていたので、仕事が完全にストップすることはない。僕の穴を埋めてくれた同僚は、常にいるもの。だけど、いま僕はひとりの会社で成り立っている。エッセイ執筆を依頼することはあるものの、概ねひとりでプロジェクトを動かさなくてはならない。それができないとき、何だか社会と接続できていない「孤独」を感じてしまっていたのだ。

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「孤独」という言葉を、当たり前のようにネガティブなものとして用いている。僕に限らず、孤独は、どちらかといえばネガティブな印象として認識されているものだ。

だが岸見さんは、孤独そのものを恐れる人はないと書いている。三木清『人生論ノート』を引用して、「すべての人間の悪は孤独であることができないところから生ずる」と紹介している。

孤独そのものよりも、孤独になることを恐怖した人間の弱さを指摘した言葉だ。

メディアで見ない日はないほど、企業の不正が数多く報道されている。おそらく企業に所属している社員は、不正の事実に気付いているのだけど、それを告発したら不利益を被ってしまう。社内で孤立してしまう。だから勇気を出して告発ができないという。そういう意味で「孤独であることができない」というのは含蓄のある言葉だ。

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また、孤独というのは、ある意味避けられないことでもある。

例えば、社会問題になっている孤独死。もちろん孤独死の問題には社会全体が取り組まなければならない。

しかし、死ぬ状況をコントロールすることはできない。そもそも死ぬときは、ひとりだ。たとえ家族に看取られようとも、手厚い医療を受けていた中であろうとも、死は、ひとりで引き受けなければならない。誰も代わってくれない。

であれば、死ぬことへの不安を過度に抱える必要はないと、岸見さんは説く。

死ぬ、というのは極端だけれど、人間は様々な局面で孤独になる。

会社の経営者は孤独である、とはよくいうけれど、別に経営者に限った話ではない。ふつうの人だって、転職などの意思決定で迷うものだ。家族に相談することはあるけれど、決めるのは最終的に自分なわけで。

そういったとき、人は必ず孤独を味わうのだ。

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孤独である。それは無力であることと近しい。

しかし、無力さを悲観することはない。

岸見さん自身も、病気で倒れ、当時の仕事をほとんど辞めなければならない状況に追い込まれたという。止むを得ない状況だったが、タイミング悪く、父親の介護もする必要があった。時間の空いた岸見さんは、父親に寄り添う中で、ある気付きを得たと話す。

私は毎日父の家に通っていたのですが、食事以外の時は眠ってばかりいるようになりました。そうなると、私は父のそばにいてもほとんどできることがなくなってしまいました。
そこで、私はある日、父にこういったのです。「そんなに寝てばかりだったらこなくてもいいね」と。実際には父が寝ていてもしなければならないことはたくさんあったのですが、父は私の言葉に真顔で答えました。
「私はお前がきてくれるから、安心して眠れるのだ」
人が宗教によって救われることを私は否定するつもりはありませんが、宗教に入信しなくても、誰かとの関係が、そしてその人が何かをしなくても、存在するだけで宗教に匹敵するほどの力になります

(岸見一郎(2022)『孤独の哲学〜「生きる勇気」を持つために〜』中公新書ラクレ、P200〜201より引用、太字は私)

「存在」するだけで、誰かの力になることがある。

そう諭してくれる岸見さんの言葉は、とても優しい。

将来を憂うよりも、今ここを真剣に生きること。当たり前のことなんだけど、実践するのが難しいのはアドラー心理学と同様。とにかく、今をしっかり生きようと思ったのでした。

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*Podcast*

岸見一郎『孤独の哲学〜「生きる勇気」を持つために〜』の感想を、読書ラジオ「本屋になれなかった僕が」で配信しています。お時間あれば聴いてみてください。

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