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作・絵…ジミー〈幾米〉 訳…宝迫典子『地下鉄』

 この絵本の主人公は、十五歳の盲目の少女。

 この子の目がなぜ見えなくなったのかは、この絵本の中では明かされません。

 こう書かれているだけ。

 『地下鉄の入口で 天使に「サヨナラ」と 言われた日から 私の目は 少しずつ 見えなくなった

(作・絵…ジミー〈幾米〉、訳…宝迫典子『地下鉄』から引用)

 …と。

 病気?

 それとも事故で?

 と想像しながら読んでいくと、不思議なことに気づかされます。

 この子が地下鉄の階段を下りて、地下鉄に乗って、地下鉄を下りて、階段を上って…、という行動を妙に繰り返していることに。


 ※注意
 以下の文には、結末に関するネタバレと、深読み考察を含みます。


 …もしかしたら。

 この子はもう死んでいるのかもしれません。

 まるで、親より先に死んだ子どもが賽の河原で石を積んでも積んでも鬼に石を崩されて、いつまでもいつまでも地獄に囚われているのと同じように、この子も地下鉄の事故か或いは自殺によって、地下鉄という空間に囚われているのかも…?

 この子の周りには色とりどりの色彩が溢れているのに、この子にはそれが見えていないのは、そういう理由からかもしれません。

 目が見えなくなったのは、この子自身が目を閉じてしまったから。

 …わたしの解釈が間違っていることを願います。

 だってそんなの悲し過ぎるから。

 これは、盲目の生きている少女が、暗闇の中から自らの足で歩き出し、希望を見つける物語であって欲しいです。

 地下鉄に乗るためには階段を下りていかないといけません。

 でも地下鉄を下りた後はきっと階段を上っていけるのだから、この子の一連の行動が絶望から希望への変化を表しているのだと思いたいです。

 …けれど、この子はもう死者であり、地獄のような所から抜け出せなくなっている、という解釈のもとで読んでいくと、時折出てくる意味深な一文に説明がつきそうな気がします。

 「起きているのか 眠っているのか もう私にも わからない……」

 「どこに いるのか わからない どこに 行きたいのか わからない」

 「この世と別れてもいいと思っていた 世界の美しさに気づかぬうちは」

 「草が香り 小鳥がさえずると思い出す 遠い日の葬儀 何かが始まり 何かが終わる」

(作・絵…ジミー〈幾米〉、訳…宝迫典子『地下鉄』から引用)


 この子がたとえ生者であっても死者であっても、この絵本のラストは希望のある終わり方だと思います。

 生者であるなら、目に光を取り戻すのは難しくても、心に光を取り戻したはず。

 死者であるなら、きっと天国にいけたはず。

 わたしはそう信じたいです。



 〈こういう方におすすめ〉
 切なく心を打つ絵本を読みたい方。

 〈読書所要時間の目安〉
 30分前後。

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