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著…山田宗樹『人類滅亡小説』

 ※注意
 以下のレビューには、あらすじ及び結末を明かすネタバレを含みます。




 せっかく子どもが生まれてもその子が苦労することが分かりきっている酷い世の中なのに、子どもを産んでも良いのか? 諦めるべきか?

 という葛藤が印象的な、何世代にも渡って紡がれるSF小説です。


 この小説で描かれるのは、「人類滅亡」が映画や漫画の中だけの出来事ではなく、現実のものとして目前に迫った世界。

 赤い「コロニー雲」が現れてからというもの、人類の暮らしは一変。

 登場人物たちが出来る限り以前と同じように生きようとしても、コロニー雲は容赦なく生き物の命を奪い取ります。

 この雲の中では、なんと2千以上もの細菌がまるで蠱毒のように彼らなりの生存競争を繰り返しながら、一つの生き物のように雲の色を微妙に変え…、…地上へと落ちてきます。

 天からもたらされるこの災厄によって、命あるものはみな呼吸困難に陥り、死亡します。

 コロニー雲の出現頻度は増える一方。

 死に至るのは人間だけではないので、生態系がおかしくなり、気候もめちゃくちゃに。

 絶望と死が急速に広がる世の中で、ヒトのDNAカプセルを太陽系外惑星へ向けて打ち上げて新天地での人類の再生を図る「ディアスポラ計画」や、今後生き残るべき人間としてAIによって選別されたごく限られた人々だけを一定期間生存可能な所で保護する「シールドポリス移住計画」が進んでいきます。

 そんな世の中ですから、人々は不安に駆られてネット上に次々とデマを書き込みます。

 信者に集団自殺をさせようとする宗教団体「赤天界」が台頭。

 「民間のシールドポリスに入れる」と謳って一般人から大金を巻き上げる詐欺師も出現。

 シールドポリス移住計画は不平等であり人類全てが平等に滅ぶことこそが美しい最期すなわち「グレートエンディング」であると主張する人々が自爆テロ事件も引き起こします。

 世界がこんな混沌とした有り様なのに、子どもを産むべきなのか?

 それは自分たちのエゴではないのか?

 …と登場人物たちは自問自答します。

 そんな中、登場人物たちから飛び出す、

 「今を生きる俺たちに、未来に絶望する権利はないってこと。そんなのは老人どもに任せておけよ」
(単行本版P60から引用)
 「ぼくらは、自分たちに未来がないとは思ってないんだ」
(単行本版P190から引用)

 というセリフがかっこよくて痺れます。

 きっと、生まれてくる命に意味が無いなんてことは無いのです。

 シールドポリス移住計画において、家族全員が移住者として選ばれるのは稀。

 子どもだけが選ばれて残りの家族は選ばれない…なんてこともあります。

 けれど、もしわたしが親なら、むしろ逆じゃなくて本当に良かったと感謝するでしょう。

 現実のわたしには残念ながら子どもはいませんが、もしわたしがこの小説の登場人物だったなら、我が子が「みんなが一緒じゃなきゃシールドポリスには行かない」なんて言っても、全力で説得します。

 たとえ「それは親のエゴだ。家族みんなで死を迎えるのが美しい最期だ」と他人から責められようと、そんなの知ったこっちゃないです。

 子どもには自分より出来る限り長く生きて幸せになって欲しいから。

 エゴかもしれません。

 いくら親だろうと、子どもに何かを強制する権利なんて無い。

 けれど、もしわたしが選ばれて、子どもが選ばれなかったら、「自分はいいからどうか子どもの命を助けて欲しい」と土下座でも何でもすると思います。

 もしどうしても生存の権利を譲れないのならわたしはシールドポリスには行きません。

 そんな風に生き延びるのは辛すぎるから。

 だから、わたしはこの小説に幾度となく登場する「グレートエンディング」なんて思想は糞食らえだと思います。

 本来なら助かるはずの人たちのことまで巻き込んで、「みんなで平等に死のう」だなんて。

 わたしは「それは平等とは違うでしょ」と異議を唱えたいです。

 そんなの、無理心中と一緒ですから。

 無理心中を「偉大な最期」とか「美しい死」なんて正当化しているだけ。

 そもそも、「偉大な最期」も「美しい死」も、どこにも存在しないのです。

 生きるのも死ぬのも、はじめから、美しいものではありません。

 人それぞれ色んな価値観があると思いますので、わたしの考えを誰かに強制はしませんが、少なくともわたしは、もがいて苦しんで、どんなに惨めで、どんなに無様でも、人生を生き抜いて、やり切って死んでいくものだと思っています。

 せっかく助かる命があるのにその未来を閉ざそうとするのが「グレート」なエンディングだなんて、ちゃんちゃらおかしいですよね。

 若い世代のために未来への道を切り拓くならともかく、「みんな一緒に死んでくれ」だなんて、老害もいいところですよ。

 死にたい人は勝手に死ねばいい。

 けれど、他人を巻き込む死に方は絶対にダメです。

 わたしなら、若者の未来を奪うのではなく、一人でも多くの若者に未来をあげられる人間になりたい。

 …さて、この小説の結末については、読み手の受け取り方によって様々な解釈が可能です。

 大きく分けて2つのパターンがあると思います。

 〈解釈その1〉
 「ディアスポラ計画」が成功して、太陽系外惑星で新たな人類が発展。
 高度な文明を築いた彼らは自分たちの祖先のルーツを解明すべく、地球へ探査機を送った。 
 地球上からは、人類はおろか微生物さえも死に絶えていた。
 探査機は、遺跡と化したシールドポリスを発見し、100名以上もの人間によって書き継がれた物語を紐解いた。
 密閉された空間の中で、地球上の人類は789年もの歳月を生き抜いた末、ついに絶滅したのだった。
 〈解釈その2〉
 人類史において、騙し騙され、奪い奪われ、犯し犯され、殺し殺され、という出来事は、まるでDNAレベルで組み込まれた呪いのよう。  
 それらは幾度となく繰り返され、世の中を変えようという志と能力を持った人間が粗暴な人間に命を奪われることも後を絶たなかった。
 しかし今回、AIによって、そんな人間の負の連鎖を断ち切れる良心を備えた選りすぐりの人間だけがシールドポリス内に保護された。
 人類が一致団結して協力し合えるのは、皮肉なことにこれが人類史上初めて。
 シールドポリス内では科学技術がこれまでとは比べ物にならないほど急速に進歩。
 限られた資源をもとに、実に789年間もの歳月をかけてどうにか拵えた宇宙船が完成。
 地球上の僅かな生き残りたちは一縷の望みをかけて、自分たちが生存可能な太陽系外惑星を目指して地球から脱出。
 シールドポリスの役割は脱出の時点で終焉を迎え、地球から宇宙を旅する間、重力との関係上、悠久とも言える長い時が経過したため、宇宙船の中で人類の代替わりを繰り返していき、地球上での歴史の生き証人となる者は居なくなった。
 そして新天地となる惑星に辿り着いた人類は、地球で起きた人類の過ちの歴史をこの新天地で繰り返さぬよう、敢えて人類史の真相を封印してきた。
 今回その子孫たちが探査機を地球へ送り、遺跡や書物が発見されたことにより、人類のルーツが解明され、子孫たちは負の歴史も含めて祖先たちの行いを受け入れた。

 …ちなみに〈解釈その2〉はわたしの荒唐無稽な妄想に過ぎません。

 すみません。

 きっと〈解釈その1〉を推す人は少なくないでしょう。

 けれど、勝手ながら、わたしは〈解釈その2〉を推したいのです。

 シールドポリスを造り上げた人々。

 移住を手伝った人々。

 そして、シールドポリスへ旅立つ家族を見送り、シールドポリス外に残された人々。

 みんなの気持ちを想像すると、〈解釈その1〉じゃ辛すぎるから…。

 みんなが繋いだ命のバトンによって人類は絶滅を免れた、とわたしは思いたい。

 …読む人の数だけ、この小説の結末は違う形になると思います。

 多くの方にこの小説を読んでいただき、どう解釈するかについて教えて欲しいです。

 あなたなら、この小説の結末をどう捉えますか?

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